Ne.12『マスターもなんか宇宙的なアイテムを変なポーズで振ってる!』
佐原「マスター、俺はねー、モテたいんですよ」
根岸「そうですか」
佐原「ちょっと聞いてくださいよ。俺がなんでモテたいか」
根岸「どうぞ」
佐原「なんでこんな客が俺しかいないバーで飲んでるかって、聞いてください!」
根岸「……なんでですか?」
佐原「モテたいから!」
根岸「そうですか」
佐原「マスター」
根岸「はい」
佐原「モテるでしょ?」
根岸「どうでしょうね」
佐原「いやモテるね。マスターはモテる。モテモテパラダイスだ」
根岸「モテモテパラダイス」
佐原「そこで俺は、この一週間マスターを観察するためにこのバーへ通いつめた」
根岸「通りで毎日おいでになられるわけだ」
佐原「その間、ほかの客を見なかった!」
根岸「そうですねぇ」
佐原「マスターモテモテの秘訣、それは、ふふふ……」
根岸「一週間、あなたとしか喋ってない時点でモテてないと思うんですが」
佐原「ふふふふふ……」
根岸「……」
佐原「ミステリアス!」
根岸「ミステリアス」
佐原「そう、マスターモテモテ大作戦の必勝法はミステリアス!」
根岸「……」
佐原「あ! これ通信教育でやったやつだ!」
根岸「何がですか」
佐原「というくらい、モテる」
根岸「例えでしたか」
佐原「謎めいた心の中、冷めたキミはミステリアス!」
根岸「だいたい世代がわかりますね」
佐原「というわけでー、ミステリアスになればモテモテなんですよー、おれもー」
根岸「だいぶ酔ってらっしゃるようで――」
佐原「最初からずっと水だ!」
根岸「知ってるよ! なんか頼めよ!」
佐原「ふふ、この酔ってるかどうかわからないのもミステリアス」
根岸「……なにか飲みますか?」
佐原「ミステリアスなカクテルを」
根岸「……わかりました」
佐原「ミステリアスな男はね、話題もミステリアスなんだよ、わかる? マスター」
根岸「そうなんですか」
佐原「今夜、一緒に芽殖孤虫の成体や生態について考えないかい? なんて言って女性を口説くんだよ」
根岸「なんですか、がしょくこちゅう? 聞いたことないですね」
佐原「成虫が見つかってないしいろいろよくわからない寄生虫」
根岸「寄生虫……」
佐原「ミステリアス!」
根岸「その寄生虫自体がミステリアスなんですね……」
佐原「ぼくのベッドの上での生態を見せてあげよう、とか言うんだ!」
根岸「下ネタじゃないですか」
佐原「うーむミステリアス」
根岸「ミステリアスの着地点が明確に間違ってる気がしますね」
佐原「宇宙の真実について、興味はないかい? ブラックホールがビックバンの原因だって、聞いたことくらいあるだろう?」
根岸「なんですかそれ……」
佐原「更なるミステリアスな話題」
根岸「まあ、ミステリアスな話題ではありますが」
佐原「あ!」
根岸「なんですか」
佐原「ほら、マスターもなんか宇宙的なアイテムを変なポーズで振ってる!」
根岸「シェーカーか……」
佐原「ミステリアス! これはモテますわー」
根岸「……」
佐原「例えばさ、スーツってダメなんだよ。あんなの着てたら。サラリーマンです!って言ってるようなもんでしょ? まったくミステリアスじゃない」
根岸「で、その格好なんですか」
佐原「そ、どうこれ、ミステリアスでしょ?」
根岸「全身ピンクでご自身の顔がプリントされてる服に、腹巻きって何事かと思いましたが」
佐原「誰も俺の職業はわからない」
根岸「変なおじさんだ」
佐原「誰が変なおじさんか! ミステリアス・モテ男に向かって」
根岸「……どうぞ」
佐原「なんだこの妙な液体は」
根岸「ミステリアスなカクテルを、とのことでしたので」
佐原「無色透明の液体……、水ではないのか」
根岸「オリジナルカクテルです」
佐原「この水、変な味がする! どういうことだ!」
根岸「なにこの客……」
佐原「ううむ、変な味がする……、ミステリアスだ」
根岸「このカクテルはジンをベースに――」
佐原「待て」
根岸「はい」
佐原「説明されたらミステリアスじゃなくなる」
根岸「――なるほど」
佐原「ミステリアスなカクテルを飲む、ミステリアスな俺。ううむ、モテる!」
根岸「そもそもなんですが――」
佐原「うん」
根岸「モテる対象がいないじゃないですか。ガラガラで」
佐原「……」
根岸「……」
佐原「そこもまたミステリアス」
根岸「なんなんだこの変な客……」
佐原「そうです、私が変なおじさんです! ――誰がおじさんか!」
根岸「水、飲みますか?」
佐原「最初から水しか飲んでない!」
根岸「結局酔ってるのか」
閉幕
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