Ne.9『オバケはプラズマですからね』

佐原「ようこそいらっしゃいました。――今宵は、みなさんの知らないオカルトの世界をご紹介しましょう。『新説・オカルト小話』」


根岸「わー」


佐原「オカルトって、不思議ですよね、怖いですよね、でも大丈夫!」


根岸「ちょっと待った」


佐原「はいはい」


根岸「あんた、首から上が無いんだけど」


佐原「オカルト案内人の、ケンタウロス佐原です。以後お見知りおきを」


根岸「……ケンタウロスって半馬半人のモンスターじゃないの? あんたは、ただの首から上が無い人だ」


佐原「……」


根岸「どうなん?」


佐原「不思議ですねぇ~、これぞオカルト」


根岸「違くね? オカルト違くね?」


佐原「ええ、ええ、私が本当はデュラハンなんじゃないかって、そんなことはどうでもいいんです。オカルトって不思議なものなんですよ」


根岸「不思議だなぁ……」


佐原「さあいってみましょう、オカルトの新世界!」


根岸「新世界ねぇ」


佐原「『案外、オバケは怒りっぽい』」


根岸「……」


佐原「はい、新世界~」


根岸「え、何。そういう感じ?」


佐原「そうですよ? これぞオカルトの新世界」


根岸「首から上の無い人が、ものすごくインパクトの無いことを言うだけだと!」


佐原「いやぁ、オカルトですねぇ。この空間がオカルトですよ。怖い怖い」


根岸「あんたがどこで喋ってるのかってほうがよっぽどオカルトじゃないか!」


佐原「そういうアナタも、オバケじゃないですか」


根岸「オバケですよ?」


佐原「白い布被って、ふわふわ浮いてる」


根岸「オバケだもん」


佐原「おお、怖い怖い」


根岸「馬鹿にされてる気がする」


佐原「何が怖いって、そのオバケ感になんの違和感も、意外性も無いことですよ」


根岸「いうて、オバケだもん。これが個性だもん」


佐原「個性! あーあーあー、オカルトだ。個性なんてね、適当な言葉ですよ。ダメなヤツをダメって言わないための方便。オ・カ・ル・ト」


根岸「いや良い個性もあるだろ、方便として使う個性もあるだろうけど」


佐原「アナタ、自分のそれを個性だと仰りますがね、オバケなんてみんな同じですよ? 白い布被って、ふわふわ浮いてるアナタのどこにアナタだけの個性がありますか?」


根岸「いやまあ、そういう言い方されたら無いけど」


佐原「でしょう?」


根岸「いやじゃあ、首から上の無いあんたの個性はなんなのさ」


佐原「柔軟剤の香りがします」


根岸「フローラル」


佐原「というかね、個性なんてものがそもそもオカルトなんですよ。他人と比べるから個性なんてオカルトが発生するんです。誰とも比べなければオカルトは生まれない!」


根岸「なんかだんだんオカルトって言葉が何を表現してるんだかわかんなくなってきたよ」


佐原「ほらそれもオカルトです!」


根岸「ゲシュタルト崩壊とか、そういうのだよ」


佐原「ゲシュタルト崩壊もオカルトですよ。そんなもの崩壊するわけないじゃないですか。ゲシュタルトがなんなのかもわからないのに。洋菓子かよ!」


根岸「なんもかんもオカルトか」


佐原「オカルトもオカルトですよ?」


根岸「……いよいよわけがわからなくなってきたぞ」


佐原「では次いってみましょう、オカルトの新世界!」


根岸「わー」


佐原「『オバケも割とふつうに死ぬ』」


根岸「……」


佐原「オバケは死なない、病気もなんにもない、ってあるじゃないですか」


根岸「あるね」


佐原「あれオカルトですから」


根岸「そもそもオバケがオカルトな存在なのに、更にその生態がオカルトなのか。っていうか俺も死ぬのか」


佐原「だいたいのオバケは花粉症で冷え症ですからね。足先とか冷たい」


根岸「足無いのに冷え症なのか」


佐原「オカルトですねぇ」


根岸「オカルトってこういうものだっけ……」


佐原「がんがんいきましょう、オカルトの新世界!」


根岸「こんなんがひたすら続くのか」


佐原「『オバケは、さわるとほのかに温かい』」


根岸「触れないっつーの!」


佐原「オカルトですねぇ」


根岸「っていうかオバケ関連ばっかりじゃないか」


佐原「そこもまた、オカルトなのです」


根岸「便利な言葉だなそれ!」


佐原「調査が進んでいかないと、新説もなかなか出てこないんですよ。どんな学問も一緒ですよ。オバケ学もようやくスタートラインってとこですね」


根岸「なにオバケ学って……、オカルトじゃん」


佐原「いえ、プラズマです」


根岸「プラズマ……」


佐原「オバケはプラズマですからね」


根岸「もうその発言がオカルトじゃん……」


佐原「さあ最後のミステリー。ふしぎ、はっけん!」


根岸「オカルトじゃなくなった。ミステリーになった」


佐原「『オカルトって、案外やさしいんだね……』」


根岸「なんだその甘酸っぱいラブストーリーの最初の最初みたいな、トキメいた女子みたいな発言は!」


佐原「オカルトでしょ?」


根岸「オカルトというかフィクションだな」


佐原「でもね、これホントなんですよ」


根岸「何が」


佐原「優しいんです。オカルトは。人と、世界に」


根岸「ほう?」


佐原「オカルトがあると、人は謙虚になれるんです。全てが科学で判明した世の中なんて地獄ですよ。神も仏も、オバケも妖怪も、見えなくてもいたほうがいいんです」


根岸「……まあ、言いたいことはわからなくもない」


佐原「この優しさが、オカルトの親切です」


根岸「……」


佐原「新説と親切がかかってるんですよこれ、すごいですね」


根岸「……」


佐原「お、この空気、オカルトですね?」




閉幕

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る