Ne.8『ちなみに、村式式部の評価はですね』
佐原「持ち込みです! 僕の小説に触れてみてください!」
根岸「持ち込みか。やる気はあるようだな。では拝見」
佐原「ザラザラしてます!」
根岸「何、ザラザラって?」
佐原「ザラザラ感を意識しました」
根岸「ふうん……、うわ、ザラザラしてる!」
佐原「太宰治に影響を受けました」
根岸「太宰に影響を受けるとこうなるのかー、ってなるかい!」
佐原「でも!」
根岸「でもじゃない、なんで手触りがザラザラしてるんだよ」
佐原「しかし太宰治の小説はザラザラしてました! 僕もああいうザラザラを書けるようになりたいです!」
根岸「手触りを意識されたのは始めてだよ……、っていうか紙質の問題じゃないのかコレ」
佐原「紙やすりに印刷しました」
根岸「読みにくい……」
佐原「太宰治の小説も読みにくかったです! なんだあれ難しい!」
根岸「どういう評価なんだ。とりあえずキミのコレね、普通の用紙に印刷しなおしてきてもらえるかな」
佐原「ザラザラしなくなっちゃったら僕の個性がなくなっちゃうじゃないですか!」
根岸「お前もしこれが万が一面白くて出版することになったらどうする気だ」
佐原「もちろん、すべて紙やすりに印刷してもらいます」
根岸「新時代じゃん……」
佐原「いえ、太宰治を意識してますのでむしろ古典です」
根岸「太宰の小説は紙やすりに印刷されてないよ」
佐原「紙やすりに印刷なんてしなくても太宰治の小説はザラザラしてましたし」
根岸「まずその評価はなんなんだよ……。例えばじゃあ、他の作家の評価はどうなるんだ?」
佐原「好きなのだと、紫式部が好きです」
根岸「どんどん古くなるじゃん!」
佐原「古典はいいですね、リリンの生み出したウンコの極みですよ」
根岸「ウンコの極みて」
佐原「ちなみに、村式式部の評価はですね」
根岸「言えてねぇじゃん。村式式部になってるじゃん」
佐原「とろふわ」
根岸「……とろふわ」
佐原「あれを意識して書くのは僕の技術ではまだ難しいです」
根岸「技術的な問題なのか」
佐原「はい。さすがに卵のムースに印刷できる印刷機は僕の技術では作れません」
根岸「そっちか」
佐原「なので、ザラザラならいけるかなと思いまして」
根岸「古典を意識して書くのは悪くないんだけど、チョイスがどうも古すぎるんだよな。ここ、ラノベが主なレーベルだよ?」
佐原「ラノベも読みますよ」
根岸「そのへん意識して書いたりとかは?」
佐原「オーフェンは好きです」
根岸「あー、現代に近づいてきた近づいてきた。古典文学よりは近いな」
佐原「いいですよねアレ、我は放つ光のハクシュン!」
根岸「飛沫!」
佐原「すみませんちょっとアレルギーが」
根岸「何アレルギーなの」
佐原「再アニメ化アレルギーです」
根岸「あぁ……、まあわからなくはないけど、前のを観てない層もいるわけだし、いいんじゃないかな」
佐原「そういうもんですかね」
根岸「そういうもんだよ。それよりも今はキミの作品の話をしようか」
佐原「はい、ザラザラしてます!」
根岸「ほかに、売り込む要素は?」
佐原「木材を削ったりできます。これは他の小説には類を見ない要素です」
根岸「それ紙やすりの特徴だよね。小説としてのアピールポイントは」
佐原「こちらがプロットです」
根岸「ああ、そうそう、先に見せてよ――、ごわごわしてる」
佐原「手触りを意識しました!」
根岸「というか一回びしょびしょにして乾かした感じだ」
佐原「正解です、さすがはプロの編集者だぁ」
根岸「なんでごわごわしてるの……、読みづらいし、文字がぼやけてる」
佐原「小野小町を意識しました!」
根岸「……和歌?」
佐原「なんかよくわかんないんですよねぇ、詩って」
根岸「なんで自分で消化できないものを意識しちゃったの」
佐原「それもまた味かなって」
根岸「で、ごわごわに」
佐原「そう、ごわごわに」
根岸「とりあえず、これも普通の紙に印刷しなおしてきてね」
佐原「しかしそれでは、僕のあいでんててーん!」
根岸「なんだ」
佐原「てててーん!」
根岸「なんなんだ」
佐原「ちょっと興が乗ってしまっただけです」
根岸「そうか」
佐原「ええとつまり、ふつうの物を書けってことですか?」
根岸「ふつうの紙に印刷しろって言ってんの」
佐原「しかしそれでは、僕のててーん! てててててーん!」
根岸「読まれない小説ならともかく、読めもしない小説ってのは始めてだよ」
佐原「小説の部分はいいんですよ、実際」
根岸「じゃあ何しに来たのキミ」
佐原「持ち込みです!」
根岸「小説のでしょ」
佐原「はい」
根岸「じゃあ小説の部分がダメだったらダメじゃないか」
佐原「順序立てて話しましょう。まず僕の小説を出版せざるを得ない状態にします」
根岸「……ほう」
佐原「すると、この『紙やすりに印刷できるプリンタ』が印刷屋さんに売れます」
根岸「そっちなのか!」
閉幕
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