Ne.5『引き寄せの法則みたいなもんか』

佐原「キュピイィィィン」


根岸「なにその効果音」


佐原「ニュータイプの人が何かを感じ取った時のやつ」


根岸「へえ」


佐原「この後、俺はエビピラフを食べる! ででーん!」


根岸「だろうね。なんなんだその宣言は」


佐原「違うんだよ」


根岸「何がだよ。ファミレスでエビピラフ頼んだんだから、エビピラフを食べるんだろ? お前は」


佐原「違うんだって」


根岸「所持金ギリギリこれならいける! ってエビピラフ頼んだんだから、そりゃ食べることになるだろ、エビピラフ」


佐原「これはね、未来予知」


根岸「……未来予知」


佐原「そう、未来予知」


根岸「……違くね?」


佐原「エビピラフを食べる未来が見えた」


根岸「だから、注文したんだから、来たら食べることになるのは確定だろ」


佐原「それがそうでもないんだって」


根岸「注文ミスとか?」


佐原「まあそう、そういうアクシデンツも含めて、定まった未来なんて無いんだよ」


根岸「まあ、そりゃそうだけど、かなり高い確率でお前はこの後エビピラフを食べることになるんだろう」


佐原「だが確定していない」


根岸「そうだね」


佐原「で、未来予知ですよ。これで未来が確定する」


根岸「それ未来予知っていうのか? 過去の行動から導き出される未来として最も確率の高い事象だろ?」


佐原「ちょっと根岸の日本語が難しくてよくわかんない」


根岸「……エビピラフ注文したんだから、その未来はほぼ確定だろ」


佐原「ほぼ確定とか、外れる激アツみたいな悲しくなる日本語はヤメロ!」


根岸「えぇ……」


佐原「……まあ、これは訓練なんだよ」


根岸「未来予知の?」


佐原「そう、まずは簡単なものから初めて、やがては未来を見通すエスパー佐原」


根岸「……」


佐原「きゅぴぃぃぃん! 食べたらお金を払う!」


根岸「そりゃそうだ」


佐原「未来が見えてきた!」


根岸「未来の情報じゃないんじゃないかなそれ……。原因から導き出される結果の予測じゃないのかなあ……」


佐原「根岸の日本語がむずかしい」


根岸「因果応報」


佐原「いんがおーほー」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「ふと、さ」


佐原「うん」


根岸「未来予知について、思ったんだけど」


佐原「きゅぴぃぃぃぃん! 未来予知に関する根岸なりの見解を述べる!」


根岸「だから今そう言ったっての」


佐原「うん」


根岸「未来の情報のさ、位置情報ってどうなってるのかなって」


佐原「また根岸がわけわかんないこと言い始めましたよ」


根岸「例えばエビピラフでいいよ、『佐原がエビピラフを食べる』っていう未来の情報は、どこから来たんだ?」


佐原「そりゃ未来さ」


根岸「その未来。地球は自転してるから、数十分後とはいえ、佐原を含め『この場所』は『まったく同じ場所』には無いわけだ」


佐原「?」


根岸「地球の自転だけじゃない、公転もそうだし、太陽系も銀河系も、宇宙の膨張に伴って動いてるらしい」


佐原「??」


根岸「例えば『十年後の未来の情報が予知できる』として、十年後の『この場所』はほぼ間違いなく宇宙空間なんだ」


佐原「ほぼまちがいなく」


根岸「しかしそれでも『十年後の未来の情報が予知できる』のであれば、それは時間だけではなく、場所さえも超越した能力ということになる」


佐原「???」


根岸「未来予知、というものが可能なのであれば、それはおそらく『すべての未来の、すべての場所における、すべての情報』が得られるということなんじゃないか?」


佐原「ちょっとよくわからん」


根岸「ああうん」


佐原「おーけー、つまり未来予知はスゲーってことだな?」


根岸「まあうん、そうだね、未来予知はスゲーわ」


佐原「つまり未来予知できる俺もスゲーってことになるな?」


根岸「未来予知できたのかお前」


佐原「きゅぴぃぃぃん! 未来予知できるようになった俺が見える!」


根岸「今は」


佐原「まだ未来予知できない」


根岸「じゃあつまり願望だなそれは」


佐原「……いつか雨が降る!」


根岸「俺でもできそうだなその未来予知」


佐原「これは予報」


根岸「なんて曖昧な天気予報だ」


佐原「きゅぴぃぃぃん! そろそろ根岸がトイレに行く!」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「……なぜ腹の具合が良くないことがわかった」


佐原「さっき根岸がドリンクバー取りに行ってるときに、水に下剤混ぜといた」


根岸「くそっ、未来予知でもなんでもねぇ!」


佐原「ははは、未来は自分の手で作り出すものだよ。では行ってきたまえ。漏れないうちにな」


根岸「ちくしょう、覚えてろよ……」


佐原「ふはははははは!」





根岸「ひどい目にあった……」


佐原「俺の未来予知もなかなかのものだろう?」


根岸「ペテンみたいな未来予知だな……、というかペテンそのものか」


佐原「まあまだ初級編だから。やがては未来を見通すエスパー佐原」


根岸「というか、まだ料理来てないのか」


佐原「きゅぴぃぃぃん! エビがピラフに混ぜられる未来が見える!」


根岸「そうだね、エビピラフだね」


佐原「カニがチャーハンに混ぜられている未来も見える!」


根岸「カニチャーハンだね。俺の注文だね。というか絶対それ未来予知じゃない」


佐原「未来予知だよ」


根岸「違うよ」


佐原「未来予知だよ、見えるもん、未来」


根岸「いや見えてないね。だってお前、エビピラフ食べないもん」


佐原「はははそんな馬鹿な」




店員「ご注文のカニチャーハン二つです」




佐原「……」


根岸「……」


佐原「えぇぇ……」


根岸「ほら」


佐原「ちょっと待って、ご注文は以上でよろしくないから待って! 待ってぇぇぇ!」


根岸「見苦しいぞ、ほらカニチャーハンを食え」


佐原「そんな、そんな馬鹿な……、俺の未来予知が外れるなんて……」


根岸「ついでに、食べたらお金を払う、って未来予知も実現不可能だぞお前」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「きゅぴぃぃぃん! 根岸がおごってくれる未来が見えた!」


根岸「……引き寄せの法則みたいなもんか」




閉幕

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