10‐2 ヒューマン
そうして、考えていた案を説明する。とっさに思い付いただけなので、ぽつぽつと拙い言葉でしか話せなかった。けれどできるだけ、理論的に話したつもりだ。
聞き終えたミオコは「そういうつもりだったのね」と安心したが、カオリは理解したうえで肩をすくめる。
「光子爆弾が落ちる地点に、ヴァロで原液を運搬し微調整。直前に自分だけが逃げる、か。ムチャクチャよ。申し訳ないけど、不可能よ。認めることなど、断じてできないわ」
「でも司令官。初めの作戦よりは、チハルが自力で逃げ出せるので、助かる確率が高いですよね。衝突地点を上空にすれば、建物などの被害も軽くできる。原液の傍らで爆発させるのではなく、爆心地に原液を置くことだって可能です。より早く確実に、処理できるのではないのでしょうか」
ミオコは意見を支持した。けれど希望的観測で、脚色している部分もあったかもしれない。
「弾道上で、光子爆弾を受け取るというのね。そんなの、なおさら難しくなるに決まってるじゃない。もっと現実的で、確かな方法を考えなくちゃ」
依然、まともに受けてくれないカオリ。その時、
掠れて今にも消え入りそうな呻きが、頭蓋に飛び込んでくる。
「レン、レンだよね。大丈夫なのっ」
矢継ぎ早に声をかける。そうでなければ、レンの存在が遠く離れてしまう気がした。
「大丈夫なわけ、ねぇだろう。早く、作戦を終わらせてくれよ。アズサと俺を、救うんだろ?」
「分かってる、分かってるよ。だから今、やろうとしてるんだ」
原液の前にかがみこむ、ヴァロ三号機。カオリが慌てる。
「ちょっと、本気なの⁉たった今、不可能だって―」
「時間がないんです。絶対に原液を消し去って見せますから、やらせてください!」
チハルの熱意に、その無垢で真摯なまなざしに、カオリは何も言えなかった。
このまま行かせたら、チハル君は本当に死んでしまう……
パイロットがただの道具で、死んでも構わないだなんて、本気で信じているはずがない。ミオコの言う通り、今まで触れ合ってきたのは、魂をもって生きる人間だった。
死んでほしくない。
自我を抑えて指示を飛ばしていても、本心は変えられない。人の情など、捨てられるわけがない。
カオリはカオリなりに、覚悟を決めた。
「チハル君の作戦を実行します。ただし、原液の処理を優先。完了が確認され次第、パイロットの救助を最優先事項とします」
「どうしてですか!人命を救うことが一番じゃ―」
ミオコが声を荒らげるが、チハルがそれを制した。
「いいんです。カオリさんも、いろんなものに縛られた人間だったから……僕から願うことは、もうありません」
はっきりと言うと、ミオコは黙ったまま、目を閉じてうなずいた。
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