7‐5 灰色
そう思っているのは、チハルだけではなかった。
「さすがね。いつも思うけれど、鍛えぬからていて無駄がない」
監視室より大きい、管制塔のモニターを前につぶやくカオリ。
「当たり前ですよ。物心つくかつかない頃から、ずっと戦い続けているんですから」
「そうね。戦闘しか、与えてこなかったもの。チハルを含め彼らには、それしかない」
「……悲しいですね」
親元を離れてたった一人、戦うために生きる少年少女。レンとチハルに限っては、帰る家さえないのだ。その苦悩は、測りしれない。
だがカオリは平然として、
「こんな世の中じゃあ、仕方がないわ。一応三人とも希望者なのだし、あまり気にする必要はないと思うけど」
と言い放つ。そして「というより」と、ミオコに鋭い目線を向ける。
「その考えはむしろ偽善よ。彼らはきっと、同情など望んでいない。違う?」
「そ、それは―」
思い当たる節があった。暴走事故の時チハルは、ミオコが隣に寄り添うことを、痛みをいたわり同情することを拒んだ。彼らは孤独に慣れている。孤独を望んでいる。確かに、偽善かもしれない。
でも。
「やっぱり悲しいですよ。孤立して、戦いを強制されて、生活を利用されて……
だからってどうしようもないのは、分かってます。けれどそう思うと、なんだかひどく乾いた気持ちに、なってしまうんですよ」
眉をひそめながらうつむく。それを横目で見たカオリが、
「肩入れしすぎないことね」
と、何かを含むように忠告した。
カオリの視線を遮って、ミオコがモニターに目を戻す。連携プレーで一体を倒した様子を、ぼんやりと眺めながら考えていた。
ああやって手を組んでいても、所詮は一人で生きる子供たち。幾度の出会いと同時に、幾度の別れを経験して一人に戻っていく。最近は三人そろって、何やら仲良くしているようだけれど、また一人になってしまうのだろうか。
パイロットは、一般人とは生きる環境があまりに異なっている。そういう自分も、一般人という烏合の衆の一部でしかないのだ。そう、深く感じざるを得なかった。
「これでラスト!」
レンが叫びながら手首を返し、アンチ魔力スピアーをぶち当てる。その瞬間、崩れるように倒れる汚染獣。
敵がいなくなると、急に辺りが静まり返った。肩で息をする音だけが響く。
「一号機より、汚染獣の全滅を確認しました。管制塔は」
「同じよ。監視システムに反応はないわ」
「二号機からも、姿は見えないよ。心配なんかしなくても、作戦終了ってわけ」
ふっと息を吐く。向こうの画面には映らないぐらいの、小さな安堵のため息だ。
一番経験が長く、確かな腕を信頼されているレンでさえ、戦うことは怖い。ふとした瞬間に、どうしようもない恐怖にとらわれてしまう。今は亡き父の熱意を受け継ぐという信念と、心の片隅にある闘争心を引き立てて、ここに立っていられるだけに過ぎない。
流れてくる音声を聞き流しながら、考える。
「あなたたち、戦っているうちに、ポイントXの近くまで来てしまったみたいね。そのあたりは瘴気濃度が高いから、早く戻ってきなさい」
「あ、はいはい」
周りの人間―特に司令部やパイロット仲間―は、レンという人間を過信しすぎている。大人と子供の狭間で、強い大人にになろうともがいているけれど、パイロットに任命された時から、何も成長していない。怖がる様子すらないアズサやチハルが、あさましいほどに羨ましい。
恐怖で震える手を、自身への戒めと怒りでぐっと握りこんだ。
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