7‐4 灰色

急いで現地に向かっていると、突如として液晶画面が開いた。レンが映っている。第二改装版では、ディスプレー機能が無くなったと思っていたから、少しだけ驚いた。

「そういえば、チハルは汚染獣との戦い、まだ二回目だったよな」

いきなりゆるーく話しかけられ、戸惑ってしまう。

「どうだ、ヴァロに乗るのって楽しいか」

「ま、まあ普通かな。あまり楽しくはないけど、嫌いじゃないよ」

「それぐらいの気持ちで、いいんじゃない?」

もう一つ画面が出てきて、アズサが見えた。

「好戦的になっても、逆に怖気ついて役立たずになっても嫌じゃん」

「そうだな、俺も同感」

「対して何もできないだろうけど、精一杯何とかするよ。役立たずは悲しいから、せめてそうならないようにだけ、頑張るよ」

チハルが言うと、ちょうど指示された地区に着いた。小高い山のふもと、都市のはずれにあるグラウンドに降り立つ。

「まだ汚染獣は、見えないかな」

時間に余裕があるだけ、ほっとする。

しばらくじっと待っていると、サーチライトに照らされた汚染獣が姿を現した。

「ヴァロ一号機、目視で確認」

さっきとはうってかわって、鋭い口調になったレンが言う。液晶が開いたままなので、精悍な顔つきが見て取れた。

汚染獣に目を向ける。

「あれ、鳥ですかね」

「そうよ」

ミオコが答えた。

「詳しく言えば、ムクドリの巨大型汚染獣だけど。聞いたことあるかしら」

「あ、私知ってる。昔、街で飛びまわってたやつでしょ。たくさん群れになって、鳴き声がうるさかったって、お父さんが」

「たくさんの群れになるってことは、今も群がってるってこと?」

 気付いたことをそのまま言うと、苦笑しながらミオコがごまかす。

「そうね。沢山いるわ……とにかく、沢山」

ギョエーと、汚染獣特有の耳障りな鳴き声が聞こえてきた。開戦の時は、目前に迫っている。

とはいえ、図体のでかいヴァロでは、必要以上に動き回れない。つまり衝突ぎりぎりまで、待機しなければいけないのだ。なのに、

「先手必勝ってわけで、お先に失礼しまーす」

アズサが汚染獣に向かって、真っ先に走り出した。一番近くの個体をひっつかむようになぎ倒し、こぶしを叩き込む。

「いっちょ上がりっ」

土煙の下で、汚染獣はすでに伸びていた。

「速い……」

チハルは感嘆の声を上げざるを得なかった。

「ったく、命令無視しやがって。まだ攻撃許可出てないんだぞ」

レンが腕を組んでつぶやくと、

「何にもとらわれないのが、アズサなんじゃないの?」

と、ミオコがなだめる。

「そういうレンも、行きたくて仕方ないんでしょ。見え見えよ、今ここで許可出すから、好きに暴れてらっしゃい」

「そ、そういうなら……」

控えめにつぶやくレンだったが、すぐに、

「しゃあッ」

と気合を入れ、飛び掛かっていった。

「面白い人たちですね」

おじいさんのように言うと、

「本当に。やんなっちゃうわ、もう」

と、おばさんっぽく返された。

特にすることがないと、二人の戦闘っぷりを、存分に眺めることになる。

アズサはアンチ魔力スピアーを持たず、体一つで倒し続けていた。巨大ロボだから素早くとはいいがたいけど、その分急所を狙い、一撃で仕留めていく。

レンはむしろ対極だった。スピアーを変幻自在に操り、ひらめくような速さで敵をなぎ倒す。最小限の動きで汚染獣の中に分け入っていくから、天使が舞い降りて行進しているように見えた。

どれも自分には、為しえないことだった。だが劣等感など、微塵もない。

赤と黒、クラシックで洒落たヴァロ二機が、灰色の汚染獣の中で舞う。彼らの背中からは、何か醸し出すものがあった。

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