7‐3 灰色

「ヒャッホー‼」

廃れた町のど真ん中で、思いっきり叫ぶアズサ。毎度のことだ。男子二人、そろえたように肩をすくめる。一応、辺りには人が住んでるんだけどなぁ。

「いいねいいね、映画の中みたいっ」

テンション高めで、立ち並ぶ店の間を走り抜けていく。遠くの小さな影が揺らいだと思うと、道の真ん中で倒れこんだ。

ようやく追いついたチハルが、顔を覗き込む。

「さすがに車道で寝転ぶのは、やめた方がいいよ。まだ車は走ってるんだし」

「いいだろ、別に。こんなご時世じゃあ、誰も外出なんかしねぇよ」

同じくごろんと、大の字に寝そべるレン。仕方なくチハルもまねた。

仲良く、川のようになって横たわる。その下にいくら汚れがこびり付いていても、その上にいくら瘴気の霧がのしかかっていても、三人は、心地よさを感じていた。

空気が動く。風というほどではない、微かなたなびきといった程度のもの。こうやって静かな時は、普段見せてこなかった本音を、ぽろっとこぼしてしまうのだった。

「ねぇレン、アズサ」

首をもたげるアズサと、「ん?」とだけ反応するレン。

「僕ってさ、いつもいろいろ言ってるけど、たぶん死なないと思うよ」

「え、なんで」

「今まで、死ななかったからさ。心変わりした訳じゃないけど、パイロットとして、むしろ保護される立場なのに、気長に死を待ってるだなんて―」

聞いていられたのは、そこまでだった。ウーッウーッと、けたたましいサイレンが鳴り響く。反射的に飛び起きる三人。放送などなくても、瞬時に危険を感じ取った。そして自由な時間が、終わりを告げたことも知っていた。

「早く戻ろう、汚染獣が来やがったんだ」

いち早くレンが駆け出し、プリーシンクトへ舞い戻る。パイロットがいなくては、町が崩壊する。形容もできないぐらい、大変なことになってしまう。

口にしなくても分かる。いち早く、戻らなければならない。


「第四監視塔にて、現在こちらに向かっている、汚染獣の群れを確認したとの通知が」

「とっくの前から知ってるわよ。パイロットの帰りは、まだなのよね」

冷静を装いながらも、目じりを引きつらせるカオリ。そこに、

「たった今、戻ってました」

ミオコが管制塔に飛び込んでくる。

「すでにヴァロ管理施設に到着し、搭乗中です」

軽くうなずくと、すぐにモニターに向き直る。ほどなくして、三機のシンクロバロメーターが作動しだした。

「全職員に通達。今回の襲撃は攻撃対象が多いため、ヴァロ三機を動員し、対処にあたります」

「起動準備は終了。カウント省略、全機起動!」

ハードディスクを使った時のような、サァーッという音が響く。三機同時だから、音も三倍だ。

「総員、ゲート開閉に備えて退避」

「ヴァロ一号機、起動完了。次いで二、三号機も、完了しました」

「了解。第一、第二、第三ゲート、開閉」

チハルは、こまごまと動き回る人々を眼下に見ていた。シャッターの下から光が差し込めば、緊張感はなお高まる。

「三人とも、作戦を話すわ」

カオリが、チハルたちに向けて話す。

「まず一号機、二号機は最前線に向かって、すぐさま攻撃を開始。三号機は、追加戦力として待機。劣勢になった時、あるいはどちらかが負傷した時に、飛び込んでいくように」

「分かりました」

「全ゲート、完全開放」

「対象は、E-007地区あたりよ。急いで」

言われなくても、急いでいる。

管理施設を出てすぐ、隣から二号機と一号機が姿を現して横並びになった。そして一瞬だけ顔を見合わせると、走り出した。

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