7‐2 灰色
「全システム、オールグリーン」
「各数値に異常なし。シンクロ率も、問題ありません」
操縦席の中で、ほっと息をつくチハル。また暴走したりなんかすれば、もっと多くの人に迷惑をかけるだろう。自分もついに、死ぬかもしれない。
「ヴァロ三号機、第二改装版の調子はどう?」
大きめのヘッドホンから、ミオコさんの声がする。
「別に、なんともないですよ」
暴走事故後、原因を究明する話し合いがなされ、通信系はすべてヘッドホンを介してとなった。パイロットとの連絡が取れていれば、あそこまで被害を出さずに済んだということで設けられた設備だ。
他にも、対策は講じてある。再実験の実施を、通達しにきた時のことだ。
「第二改装版は、心の位置をもとの1.5倍は遠くしてあるから、そう簡単にシンクロできないわ。心配なんか、まるでいらないってことよ」
チハルを安心させようとしてか、そうカオリが自信満々に言ったのを覚えている。
「えーっと……」
カオリが軽さをたたえた口ぶりで、ふとつぶやいた音声が流れてくる。モニターや見たこともない機材を眺めながら、最終確認を行っているのだろう。液晶に出なくても、なんとなく予想がついた。
「よし、大丈夫ね。このまま実戦に出せるわ。後で報告書を書いておくから、すぐにでも戦うことになると思っていて」
「はい」
「チハル、お疲れ。もう終わってもいいわ」
ミオコが言うが早いか、あっという間にシンクロを切って、ヴァロ管理施設を飛び出る。外でレン達が待っているのだ。
「チハル、大丈夫だったか」
真っ先に、レンが駆け付ける。
「全然問題ないよ。オールグリーンだってさ」
「よかったぁ。また何かあったらって、ひやひやしてたんだ」
はにかむアズサ。そうとう、気を張っていたらしい。
「じゃ、今日はどこに行こうか」
レンが楽しげに言う。曇天の下で語り合って以降、毎日のように外に出るようになった。チハルが「危険は承知だけど、外の景色を見に行かないか」と誘ったのだ。珍しい、自己主張でもあった。
はじめは二人とも戸惑っていたが、一度飛び出した途端、チハルがのめりこむわけを知ることになる。
「このあいだ行った、堤防なんかどうかな。今日はまだ朝だし、夕焼け空とは違う景色が、見られるはずだよ」
その後アズサにも、話を振るチハル。
「私は街がいいな。薄汚れた灰色の街、ゴーストタウンだよ。ちょっとカッコよくない?」
「いいね、俺は賛成だな。瘴気が街を滅ぼしたとかいうけど、ボロボロになった所ってのは、意外と面白いかもしれねぇ」
楽しそうに、レンも言う。
「二対一だけど、チハルは嫌かな」
「ううん、別に。僕も賛成」
最後にチハルがニコッと微笑むと、話はまとまった。
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