6-2 生きるという罪

「生きてはいけない。そうしていつか、死ななくちゃいけない。何度も繰り返し思い出して、自分を戒めてきました。称賛される喜びも、時に叱咤され、心に突き刺さる痛みを感じることも、すべては生きているからなしえる。だからすべての感情を、抑え込んできました。そしてことあるごとに、死を望んできたつもりです」

「そんなの、間違ってるわ。本当に、両親のためになると思ってるの?」

「少なくとも半分は、偽りだと感じてますよ。二人のためとはいいながら実際は、自分の心が救われるためにしているのかもしれません。ここ最近、どうすればいいのか分からなくなってるんです。けどこれしか、方法がないから―」

「本当にすべきこと、か……私に分かるわけないわよね。チハルにも、分からないんだもの」

「でもさ」とミオコが、チハルに目線を合わせる。

「自分が納得できるのが、一番なんじゃないかな。私は何かを決めるとき、自分が本当に納得しているのか、これでいいと悔まずに思えるのか、ってことを大事にしているの。もし迷うことがあったら、自分が好きになれる自分になることを考えなさい」

「自分が好きになれる自分、ですか」

 言葉の意味を考えるように、つぶやくチハル。

「これ、人生の先輩からのアドバイスね。良ければ、頭の端っこにでも入れといてよ」

少しぎこちなくも、笑顔を向けられる。

「話してくれてありがとう、チハル君。これ以上は干渉しないでおくわ。それが私のモットーだし」

あくまで軽く言って、ミオコは一方的に話を切った。部屋を後にしようとするその背中に、慌てて言葉をぶつける。

「この話、レンやアズサにはしないでくれますか」

「どうして?」

振り返りながら、尋ねる。

「二人とも、すごく優しいからです。きっと真剣に思い悩んで、その生き方は違うと、心から訴えてくれる。僕一人の話なのに、なんだか申し訳なくて」

「それは今のところ、他人の意見を受け入れない、考えを変えるつもりはないってことでいいかしら」

「はい、たぶん。何を言われようが、変わらないと思います」

「分かった、だれにも言わないわ。変えないって決めたら、周りのあがきは無駄になるだけだもの。

自分を変えるのは自分しかいない、ってね」

一言を残して去っていくミオコ。白い部屋に、スライドドアの音が静かに響いた。

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