6‐1 生きるという罪

医療機器の電子音が聞こえる。うっすらと目を開けると、白い天井が見える。ここは、病室―

父さん、母さん!

布団をはいで飛び起きる。すぐそこに眠っているはずだ。

しかしベッドに寝かされていたのは、チハル一人。隣にいるのは、うたた寝をするミオコだった。肩を落として、天を仰ぎ見る。

あの時じゃなかったんだ。二人とも、まだ生きてると思ったのに……そんなわけないか。

ため息をつきながら、自信を罵倒した。

その横で、ミオコが目を覚ます。気づくや否や、

「チハルっ。よかった、生きててくれた」

と抱きついてきた。

「もう五日も昏睡状態だったから、本当に死んじゃうんじゃないかと思って……よかった、ほんとによかったよぉ」

心底心配してくれたのも、目を覚ましたことを何より喜んでくれたのも、目に見えて分かった。だからこそ、いやだった。

「離してください。別に生き返る必要なんか、なかったんですから」

ぴくっと、ミオコが反応した。けれど、その手を離すことはなかった。

「そうだったわね。チハルは、嬉しくなんかないのよね」

何とも言えない、嫌な空気が漂う。耐えきれなくなったのか、そっと離れるミオコ。そして切実に聞く。

「なぜそこまで死を望むの。いつかは両親が亡くなったからと言っていたけど、それだけではない気がしてしまって」

無言を突き通すチハル。しかしその瞳には、迷いがあるように見えた。ここぞとばかりに、語りかける。

「言い方を変えるわ。どうして自殺したい理由を話さないの。きっと深い何かがあるのでしょうね。話してくれないかな」

「―分かりましたよ。本当は、誰にも話したくないんですけどね」

一度静かに目を閉じた後、ゆっくりと話し始めた。

「まずは両親のことについて話したほうがいいですね。僕の両親は、将来有望な科学者でした。まだ小さかったころの記憶しかなくて、あまり覚えていませんが、だれもが羨む稀有な才能を持っていたそうです。

それがある日、大きな交通事故を起こして、家族三人とも意識不明の重体になったんです。なのにどうしてなんでしょうね。僕だけが、奇跡的に助かった……

突然ひとり身になった悲しみや寂しさは、もちろんありました。けれど、何よりも心に影を落としたのは、恐怖でした。

二人の命を犠牲にして、僕は生きながらえた。それを知りながら、生きられない人の影を感じながら、こんな自分が生きていいのだろうか。そう疑わずには、いられませんでした。何も気にすることないって言い聞かせても、ぬぐい取れなかったんです。

僕が死を望むのは、生きることを恐れているからなんです。生きることで親に報えないのが、何より怖い」

「そんな解釈って―死に絶えた者になり代わって生きるという方法も、あるんじゃないかしら」

「考えましたよ、もちろん。けれど僕の場合は、ただのきれいごとに過ぎません。

父も母も期待されていて、まだまだこの世で活躍できたはずなんです。その思いに報いるには、どうしたらいいと思いますか。研究の続きでもしますか、同じ職を志したりなんかますか。どれも見せかけですよ。本人の望みではない。

おのおので生きとし生けることが、二人の望みだと僕は思っています。かといって、死者を蘇らすことはできません。だからせめて、自分だけがのうのうとしないように、生を望まないようにしなければならないと思いました」

チハルの表情が、暗く沈んだ。冷ややかな視線の先には、何もなかった。

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