5-4 起動実験

しかしヴァロ管理施設に来てすぐ、ミオコは目がくらんでしまった。

熱い。とてつもない熱気が、むせかえっている。

「どこからの熱なの」

インカムを押さえて尋ねる。

「ヴァロからよ。サーモグラフィーカメラが捉えたけど、それ以外は分からないわ」

「ヴァロからって……早くチハルを」

「ミオコ待って。その話、考え直してほしいの。シンクロのカットは、もしかしたら逆効果になるかもしれない」

「どういうことですか」

「シンクロっていうのは、パイロットとヴァロが一体化するってことでしょう。その割合が高い今、ヴァロ三号機クウォーツはチハル君の身体そのものになりつつあるのよ。意味、分かるわよね」

はっとした。

「―シンクロのカット。すなわちヴァロのココロを停止することは、チハルの心臓を止めるのと同じ、ということですか」

「そうよ」

なんていう、なんていう惨いありさまなのか。やるせない気持ちになった。

「人命をかえりみず、ヴァロを停止するのか。あるいは、気が遠くなるほどの月日をかけて、ココロの魔力が尽きるのを待つか。私たちにできることは、そのどちらかね。あまりにも悔しいけれど、手遅れだったのよ。

あなたが選びなさい。上にはその判断を伝えるわ、すべて私の責任だと言って」

「こんな時に、上層部とか責任とかって、何なのよっ。チハルはきっと苦しんでるのに。訳も分からず、苦しんでるのに……!」

カオリに向けた言葉ではない。まぎれもなく、自分自身に向けた怒りだった。手遅れなのよ、手遅れ、手遅れ……

「決められるわけないじゃない。誰かの生死を、決められるわけが、ない」

うつむきながら、吐き捨てた。その時、

「第三ゲート開閉、総員退避」

突如として、外から大きな影が現れた。

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