5-2 起動実験

 ウィィーンとうなりを上げ始める三号機。

「機体安定、各機材に異常なし。……パイロットのシンクロがまだですね」

「指示するわ」

モニターの小画面に目を向けるカオリ。

「チハル君、呪文を唱えて」

「はい」

少しして、シンクロバロメーターに電源が入った。今のところ67%を示している。やはり高い。なぜだろう。

「カオリ司令官」

「なに?」

「なぜチハルは、シンクロ率が高いんでしょうか」

「きっと、魔力が高いからでしょう。

魔力は物理的に、ココロを引き寄せる力でもあるの。それにシンクロの強さは物体同士の距離に近さに比例する。今回の改装にも用いられた、ずっと前から分かっている―」

「魔力の説明を求めているわけではありません。なぜ彼が強い魔力を持っているのか、ということを聞きたいんです。個人差の範囲内でしょうか」

「それ以外、何があるというのよ」

「司令官、見てください」

話をさえぎるように、モニター前で作業していた男性職員に呼ばれる。

「いくら何でも、これは」

キャスター椅子を回転させ、シンクロバロメーターを指さす職員。カオリの、息をのむ声が聞こえた。背後からのぞき込む。

「86%って……」

絶句した。未知の未知、かつて誰も見たことがない値。偉業だ、大きな功績だ。しかし、危険地帯に足を踏み入れたも同じ、なのかもしれない。

「どうしますか」

重苦しい空気に耐え切れず、ミオコが聞く。

「続行よ。実験は、未知を知るためにあるものでしょう」

「了解しました」

「大変です!」

若い女性が、焦りながら叫ぶ。

「パイロットの様子がおかしいんです。モニターに映します」

即座に切り替わり、全面に操縦室が見えた。照明がついているのに、チハルの姿がない。

「チハルは……」

唖然としたのも束の間、画面下から指の長い手が伸びてきた。日に焼けていない白い肌。チハルだった。

「どうしたの、何があったの!」

カオリを押しのけて、鬼気迫る表情で畳みかける。

「音声、入れます」

ノイズ交じりの音声が、静まり返った監視室に響く。

「チハル、チハルっ」

応答はない。物音の一つすらなかった。

「どうなってるの、話して!」

身を乗り出し、そこにはいない相手を、何度も呼ぶ。しかし必死の思いも虚しく、だらりと垂れ下がってフレームアウトする、か弱い手。

かける言葉は、もうなかった。脱力して、へなへなと座り込む。

その隣で、冷静なままのカオリが告げる。

「全職員に通達、実験中止。即座にヴァロを停止しなさい」

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