5-1 起動実験

「メンテナンス、完了」

「最終確認に入って」

「了解」

巨大モニターに、てきぱきと動く作業員の姿が映し出される。程なくして、修復を終えたヴァロ三号機に変わった。周期的に切り替わるカメラの映像が、カオリのメガネフレームに反射する。

「まだなの、ミオコは」

「遅れましたっ」

監視室に飛び込んでくるのを、呆れたように見るカオリ。

「また仕事さぼってたんでしょ。まったく、わかってるわよ」

「お言葉ですが、期限を落としたことは、一度もありません!研究熱心のどこかの誰かさんと違って、ね」

「い、今さら……もういいじゃない」

遠回りに名指しされたカオリは、珍しく恥ずかしがるような感情を見せる。不愛想かつ冷静な彼女を人間らしくできるのは、ミオコただ一人である。プリーシンクト内でも、言わずと知れた話なので、二人が上司と部下の壁を越えていることは、皆知っていた。

ミオコが咳払いをして尋ねる。

「司令官、今日は何の実験を」

「あら、一斉メールで伝達したはずだけれど?」

「すみません、見てません」

「正直でよろしいこと」

皮肉っぽく言って、またモニターに視線を戻す。

「つい先日、他部所の実験機が、ポイントXの侵入・撮影に成功した。聞いてるわね」

「もちろんです」

「そこでようやく、うちに依頼が入ったのよ。ヴァロによるポイントXの殲滅を求む、とね。

そこで今回は、改装した三号機の起動実験を行うわ。よりシンクロしやすいように、ココロと操縦室が密着しているの。あのシンクロ率をたたき出したチハル君には、うってつけの機能ってわけ」

「確かに、ポイントXは未知の領域。動きやすい方が、とっさのことにも対応しやすいですよね」

顎に手を当てつぶやくミオコ。何度もうなずき、納得した様子だった。

「最終確認、完了。いつでも起動できます」

「パイロットは」

「搭乗中です」

「了解。実験開始は、こちらで合図します」

画面が切り替わって、操縦室のチハルが見えた。起動前、赤い非常灯しかついていない中でも、ミオコには暗い顔をしているのが分かった。

「チハル、調子はどう」

「別に、普通ですよ」

「本当に?なんだか、浮かない顔をしているような気がするんだけど。体調が悪いとか」

「ええ、まったく。心配されるようなことは、ありませんよ」

「そう……」

心配は残るが、本人が言うのであれば大丈夫だろうと思った。カオリが声をかける。

「話はもういい?」

「はい」

「では、ヴァロ三号機クリスタル、起動」

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