4-4 抵抗と反発

その様子を見たチハルも、察したようで、

「聞いたんだ。ミオコさんから?」

「いや、アズサだ」

「ああそっか、人の心が読めるんだもんね」

「そうさ。そしたらお前が、自殺志願者って分かって……」

口にすると、また怒りがにじみ出てきた。

「なんでなんだ、チハル。そんなにも死にたがる理由は何だ」

一歩詰めた寄った途端、チハルは口を閉じ、何も言わなくなった。

「黙り込むなよ!」

イラつくまま、胸ぐらをつかんで引き寄せる。

「生きることからも、言及されることからも逃げるのか。少しは恥ずかしいとは思わねぇのか、ああ⁈」

以前、黙ったまま。声を荒らげても、目をそらし俯くだけ。もはやなにも見えていないかのようにさえ思えた。

「こっち見ろ。バカ面下げてないで、人の話ちゃんと聞け」

なぜだチハル。俺はあんたと、本気で向かい合っているのに。なぜ聞こうとしない、なぜ見ようとしない。レンにはチハルの行動が、まったく理解できなかった。長々と、息を吐く。

きっと何も変わんない。そう言った、アズサの姿が浮かび上がる。クソッ、正論だったか。

力なく、チハルから手を放す。悔しいが、もうその手を握り込むしかなかった。

もし他に、今すべきことが、できることがあるとしたら、それは、

「悪いけど、一つだけ言わせてくれ」

レンは唐突に、ガスマスクをはぎ取った。ぎょっとなって、レンを見上げるチハル。

「見ての通り、俺は生半可な気持ちで話しかけてるんじゃない。だから少しぐらい、聞いてくれよ」

一歩離れ、チハルの瞳を真っ直ぐに見つめる。

「俺はただ、自分の都合で、生死を決めないでほしいって言いたいんだ。あんたの命、あんたのものだけじゃないから。勝手に死んでもらっては困る人たちが、確かにいるんだ、たくさん。もっとよく考えてほしい」

息が続かない。苦しい、肺が痛い。限界だ。

でも、あと一言だけは……

「ヴァロに乗るなら、その責任を持て」

耐えきれず瘴気を吸う。喉に痛みが走った。何本もの針で刺されているようだ。押さえながら呻くと、はっとしたチハルが駆け寄ってきた。

「ごめん、大丈夫っ」

「なに、大したことねぇよ」

伸べられた手を払って、一人屋内に戻る。レンは決して、チハルを認めてはいなかった。

ドアを閉めると、すぐに除染の光が降り注ぐ。真っ白な世界の中でレンは、行き場のない怒りを消せないままでいた。

なぜ話さない。なぜ聞かない。幾度も繰り返しているけれど、死を望んでいること以前に、イラつく。そんな簡単な言葉では言い表せない、言いようもない怒りが湧いてくるのだ。はっきりしない己の感情にも、イラつく。

レンはどうしようもなく、力いっぱい握った拳を、壁にたたきつけた。

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