4-3 抵抗と反発

レンはひたすらに、図書室に向かって走った。

ガラガラと大きな音を立て、重苦しい鉄の引き戸を開ける。

「チハル、いるんだろ」

呼びかけながら、本棚の間をずんずんと進む。なぜこんな窮屈なところを、仮住まいにしたのか。レンは不思議に思えてならなかった。

しばらく進むと、本の状況を管理するためであろうパソコンの下に、布団が積まれているのに気付いた。しかし、動かされた形跡がない。持ってきたまま、放置してあるかのように見えた。

あいつ、ここで寝てないんだ。ならどこで……いや、ずっと起きたままか?

あてもなく窓から外をのぞく。あるのは、中庭と中央舎の白い壁。まだ低い日を浴びて、淡い赤に染まっていた。

ぼんやりと見つめる景色の中で、何かが動いた。はっとして目を凝らす。しかし人の姿どころか、植物がざわめくことさえなかった。

気のせいかと思った直後、その何かを見つけた。影だ。直線の輪郭にまぎれて、丸っこい影がある。差し込む光で、向こうの壁にスクリーンのように映っているのは、ここの屋上に違いない。

レンはすぐさま飛び出して、階段を一気に駆け上がった。チハルがこのまま、身を投げる可能性だってある。もしやと思っただけだが、どうしても急かされてしまうのだ。エレベーターも設置してあったが、待っているのがもどかしい。そんな時間があるなら、この身で、この声で、彼を説得しているのに。

ペイントハウスにたどり着き、備え付けのガスマスクを取る。さっと息を整えると、外に飛び出した。

予感は外れた。正直、ほっとした。

レンに気付いたチハルが、読みかけの本にしおりを挟む。そして静かに歩み寄り、

「どうしたの」

と素朴に尋ねた。

「どうしたじゃねぇよ。なんでこんな所にいるんだ。あんまり瘴気に当たりすぎても、死んじまうんだぞ。危ない……」

はたと気付いて、口をつぐんだ。こいつは本気で死を望んでいるんだと、改めて自覚した。

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