4-2 抵抗と反感


レンは腑に落ちないまま、自室へと帰っていった。アズサが何を隠しているのか。なぜ隠しているのか。何一つ分からない。

しかし、どうしても干渉されたくないのが、はっきりと見て取れた。こういう時はそっとしておいて、自分も忘れてしまうのが一番だ。分かっている。けど気になりすぎて、ずっと頭の端っこで考えてしまう。

何を、隠しているのか。なぜ、隠しているのか。

きっと大きな悩みごとに違いない。聞いてあげた方が、アズサだってすっきりするはずだ。

うん。やっぱり聞いてみよう、もう一度。自分だってそうしたいし、ここで引かない方が向こうのためだ。

レンは心に決めて、その日は眠りについた。



朝日のまぶしさで目が覚めた。時計を見れば、午前六時三十分。まだ早い時刻だが、アズサなら余裕で起きている。

身支度をして、隣のドアをノックする。予想通り、すぐに開いた。

「何回も悪いんだけどさ」

単刀直入に聞く。

「昨日、なんで教えてくれなかったんだ。少しぐらい話しても良いじゃん」

アズサはあからさまに嫌な顔をして、

「嫌よ、絶対言わない」

「どうして」

「嫌なのは嫌だから。それだけ?なら帰ってよ」

「聞くまでは帰らねぇ。どうしても聞いておきたいんだ。単純に気になるし」

強気な口調で言い、仁王立ちのまま動かなかった。アズサも静かににらんだまま立っている。長い時間が過ぎる。

先に折れたのは、アズサだった。

「ああもう、わかったからっ」

苛立ち気に、ため息をつく。

「事実を、ちゃんと受け止めて聞いてよ」

釘を刺して話し始めたのは、まったく予想していない話だった。

「チハルが死にたがってる?マジなのか、それ」

「ちゃんと見たもの。それとも、私の力を疑うわけ?」

「んなわけねぇだろ。ただ、そんな甘っちょろいこと考えてんのかって、馬鹿らしくなっただけさ」

「そういうと思った。けど一つだけわかってほしい。どれだけ愚かに見えても、どれだけ情けなく見えても、チハルにとってはそれが信念なのよ」

目じりが引くつく。怒りだ、確かな怒りが湧き出てきた。

「信念?バカなことほざいてんじゃねぇよ。本人がどう思おうが、生きることから逃げるのが、正当だとは到底思えないね。本人の価値観に関係なく、価値があるものとないものってのは、ある程度決まってんだよ」

「不変の持論ね」

「信念ってのは、自己の中心部にあるものだろ。ころころ変得られるわけじゃない」

「それも、レンの持論」

冷静さを崩さないアズサ。それでいて、思いの強さを感じさせる。無垢でまっすぐな少女。その瞳で、まっすぐにレンを見据える。

「別に、チハルの考えを受け入れろなんて言ってない。そう……理解してほしいんじゃない。妥協、寛容してほしいの。見守っていてほしいの」

静かな、しかし確かな懇願だった。きっとチハルだけでなく、レンのことも考えてくれていると思う。むろんアズサの必死さは伝わる。ただ、納得はできなかった。

「肩入れしてんのか、あいつに。何度言われても、気持ちは変わらないぜ。

チハルと話してくる。間違いに気付かせてやらなきゃ、気に食わねぇ」

ドアを開ける。今すぐ話さないと、この感情を抑えられない。

「やめなよ!きっと何も変わんないって」

アズサが、手首をつかんで止める。

「だってチハルの望みは、信念なんだよ。レンの生きる決意と同じぐらい、奥深くにあるの。簡単に変わるわけ―」

「話してみなきゃわかんねぇだろ」

レンは吐き捨てて言葉を遮ると、ダッ!と駆け出していく。アズサのつぶやきを背中で聞くが、何と言っているか分からなかった。

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