3‐2 魔力の三法則

「焦らなくても、アズサの目の前にいるわよ」

思わずミオコが、笑みをこぼす。

「チハルよ。残念ながら、お望みだった女の子じゃないわ。また紅一点で、頑張ってちょうだい」

「え~うっそぉ!アニメの話とか、したかったのにぃ」

全体的に語尾伸ばしめで、あからさまに嫌がるアズサ。期待に応えられなかったかもしれないけど、本人の目の前で堂々と言わないでほしい。

苦笑いするしかなくなっていると、いきなりすごい剣幕で近づいてきて、ロングテーブルに乗りかるアズサ。

「な、なに?」

顔を寄せられる。どんどん近づく、鼻先が触れそうなぐらいまで近づく。するとようやく、納得したように離れた。

「な、なに?」

行動が謎過ぎて、同じことしか言えない。戸惑うチハルをよそに、

「食堂に来てよ、レンと待ってるからさ」

とだけ告げ、立ち去ってしまった。

「な、なに?」

行動が……以下、同文。

一方ミオコは、呆れながら言う。

「本人いわく、人の瞳には心を映す色があるそうよ。その人が何を感じ、何を思っているのか、全部わかるんだって。

よく見ないと分からないって言ってたから、よく見たんでしょうね、彼女なりに。まあ悪い子じゃないから、許してやって」

「はあ……」

間の抜けた了承とも、ため息ともとれる返事をするチハル。この広い世界には、摩訶不思議なことがあふれているんだなと、ただ思っておくしかなかった。


食堂は、寮を抜けたすぐそこにあった。正確には社員食堂のようなものなのだろう。入口横の小さな売店に、多くの人が並んでいる。

時計を見ると、すでに六時を回っている。とっくに夕方は過ぎ、夕食時になりつつあった。

「チハル、こっちこっち」

ぶんぶん手を振り回して呼ぶアズサ。向かいの席から、腕を組んでリラックスするレンが見上げる。

「あの、何の用?」

「新入生歓迎会に決まってるじゃん!」

「言うほど立派じゃねぇよ。こいつがやるって聞かないから、仕方なく」

レンは肩をすくめるが、内心ワクワクしているのが伝わってくる。

「というわけで―」

「いや勝手に始めるなよアズサ。まだ一人来てねぇし、チハルがチンプンカンプンのまま突っ立ってるし」

「私、最後の一人になっちゃったかしら」

後ろから声がして振り返る。

「ミオコさんも、呼ばれたんですか」

「そうよ。あなたを歓迎してるのは、パイロット仲間だけじゃないってこと。仕事、たんまり残ってるのに来てあげたんだから、少しは感謝しなさいよ」

早々に席に着くミオコ。なんだかんだ乗り気のようだ。

「じゃあ、これ分けて」

アズサがみんなに分けたのは、大手ショップのハンバーガーだった。

「晩飯にハンバーガーかよ」

「いいじゃない。ってか元々、お昼ご飯にするつもりだったのに、汚染獣が現れて、みんな来れなくなってさ。仕方ないの、我慢して」

レンの前に、包みがドンと置かれる。『文句あっか』とにらまれて、もはや反撃は不可能となった。

「いただきます……」

気迫に押されたまま、静かに食べ始めた。

ミオコが笑いをかみ殺しながら、紙袋に手を伸ばす。

「女は怖いって、こういうことかしらね」

 包みを開いてがぶりつく。チハルも一つ取り出して頬張った。

 

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