3‐1 魔力の三法則
どこまでも続く、冷たい通路。それでもしばらく歩くと、少し景色が変わってきた。
部屋の入り口には、乱雑に置かれた資料やテキストの類。壁紙が剥がれ落ち、ところどころ配管がむき出しになっていた。
「なんだか、廃墟みたいですね」
「予算まわしてくれないんだもの、仕方がないわ。ちなみに、ここは寮ってことになってる。パイロットは皆、ここで暮らすのよ。こう見えて冷暖房は入るし、意外と快適なんだからね」
突き当りまで来ると、小さな部屋に入る。電気をつけると、真っ白なホワイトボードが照り返した。
「見えるところに座って」
ロングテーブルの端っこに、腰を下ろす。
ミオコはそれっぽく教卓に両手をつくと、きりっとした表情で講義を始めた。
「わざわざ呼び出してまで、どうしても知っていてほしかったのは、とある科学者夫婦が発見した法則のことなの。魔力の三法則って知ってる?」
「いいえ、初耳です」
「じゃ、魔力については」
「何となくなら。地球に存在する力―例えば磁力や重力なんか―の一種として明らかになった力ですよね」
「そう。プリーシンクトの創始者が見つけ、定義したのよ。そして助手だった夫婦が、性質を読み解いた。
一つ目は、魔力はあらゆるものに存在するという性質。動物や植物はもちろん、鞄や本、そこら辺に転がってる石ころなんかにもあるそうよ。質量あるものに魔力あり、と思ってくれればいいわ。
二つ目は、魔力は生命体の感情によって増大するってこと。人がときに奇跡を起こすのは、身にあまるほどの魔力を、蓄えているからなのよ。人でなくとも、強い感情を持つ動物全体として、強大な魔力を持っている場合が多いわ。
ヴァロにとって、この理論が一番役立てられてるかもね。人の感情を受け続けた鉱物をココロにすることで、ヴァロは動いてる。大きな魔力を、原動力として利用しているのよ。
三つ目は、魔力は決まったアクションを受けたとき、魔力の弱い方に移行される性質。ちょっと文が長いけど、難しくはないわ。さっき、アンチ魔力スピアーを見たでしょう?レンが使った銀色の短槍よ」
「ああ、汚染獣を倒したあれですか」
チハルが思い出し、淡々と尋ねると、
「あれって……エリート揃いの開発部が、四苦八苦して完成した代物よ。もう少しねぎらってあげても、バチは当たらないと思うけど」
と苦笑された。
「アンチ魔力スピアーは、魔力がものすごく小さい素材でできてるの。だからさっき言ったみたいに、強い魔力を持つ汚染獣に、衝撃というアクションを加えると、魔力が移行されるわけ。吸収、といった方が正確かもね」
と一言で言い換えて、分かりやすく解説した。
「ほかに、ヴァロを動かすときもそう。あなたが持ってるカタワレは、三号機のココロである水晶―三号機の名前についているクリスタルってのは、そういう意味よ―の塊からはぎ取って作った、いわばコピーのココロ。強大な魔力を持つものってことね。だからカタワレは呪文の詠唱というアクションで、パイロットに魔力を吸収され同化している。それが同調やシンクロと呼ばれる現象よ。
鉱物を動力とし、同調させて操るロボット。正式名称は鉱物動力型同調ロボットヴァロシャイム。そのままの意味よ。
何となくでも、分かってくれればいいけど」
不安げながらもきれいにまとめて、講義は終了した。
見計らったかのように、部屋の扉が勢いよく開けられる。
「ねえ、新しい子ってどこ?」
顔をのぞかせたのは、ポニーテールが印象的な、見るからに明るそうな少女だった。
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