泥沼のカルマ2

 結婚式の熱が徐々に冷めていく中、イアンとジャンはジャンパンの瓶を片手に教会をぶらついていた。


「ジャン、一つ相談がある」


「ほう、珍しいこともあるものだ。お前、意地でも俺には相談しないつもりだっただろう?」


「まあな。だが、どうしても相談したくなってな」


「またオリガのことか?」


「ああ」


「オリガとは夜もうまくいっているのだろう? 他に何か問題でもあるのか?」


「オリガとの問題というよりは金の問題だな。オリガとの結婚を考えている。同棲期間でいえばお前とエステルよりもかなり短いが、そろそろいい時期だと思う」


「俺もそう思うぜ。美人は早めにものにしておかないと誰かに取られてしまうかもしれない。それで、結婚式を挙げるには金がいる、と?」


「いや、結婚式を挙げるつもりはない。それでも結婚するならまとまった生活費がほしい。このままバーの経営が続けられるとは思わないし、私もそろそろ本格的に働こうと思う。何か仕事を紹介してほしいのだ」


 ジャンは歩調を遅めた。


「俺に相談するってことはそれなりの覚悟があるというわけだ。殺しでもやれるか?」


 イアンは沈黙した。

 確かに、コーサ・ノストラの最高幹部であるジャンに仕事の紹介を頼んだのだ、それなりの覚悟はあったのかもしれない。が、もう戦場に戻ろうとは思わなかった。オリガという愛する者ができた以上、自ら危険を冒すような真似をしようとは思わなかった。

 とはいえ、金が尽きたら手段は選べない。生きるか死ぬか。殺すか殺されるか。これはある種の賭けでもある。賭けには危険がつきものだ。言葉通り命を賭けて臨まなければならない。


「俺とエステルはしばらくハワイで新婚旅行だ。どれくらい滞在するかはまだ決めていないが、その間に俺の仕事を代行してほしい」


「暗殺の代行か?」


「そうだ。一人殺せばなかなかの金が手に入る。バーでちまちま稼ぐより断然楽だぜ。戦場で大量の人間を殺してきたお前にはなおさらいい話だ」


「気は進まないな。返り討ちに遭って死んでしまったら元も子もない」


「お前は死なない。返り討ちに遭って死ぬ玉ではない」


「やはりお前は私を買いかぶっているな。私も年を取った。左目と右脚を失った。かつてのようには戦えない」


「わかってないな。暗殺は戦いではない。一方的な殺しだ。戦場よりも死のリスクは遥かに低い。まあ、やるかやらないかはお前次第だ。お前がやらないのなら部下に代行させるまでだ」


 ジャンが先を進み、イアンはシャンパンを一気に呷った。

 炭酸が舌と喉を刺激し、びりびりと痺れさせる。溜め息を吐くと、葡萄とアルコールの風味が鼻から抜ける。酔いが少し脳に回る。思考回路が鈍くなり、煙草の紫煙を思い切り吸い込んだ時のように楽観的になる。

 やるしかない。オリガと結ばれるためにはやるしかない。オリガの心を繋ぎ止めておくにはやるしかない。


「ジャン、私に引き受けさせてくれ」

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