マリッジ・ブルーに愛の告白を6

 レストランから帰ってきて、オリガはシャワーを浴びた。イアンはその後シャワーを浴び、バーのカウンターで一杯やってから夜風に当たりに外へと出た。

 イアンが潮風に涼みながら煙草を一服している間、オリガはベッドの上に枕をもう一つ用意していた。首筋にはうっすらと香水を塗りつけ、官能的なキャミソールとランジェリーを身につけた。白髪はわざとあまり乾かさなかった。

 ベッドで待っていると、イアンが部屋に入ってきた。ソファーに腰を落ち着けようとしたところで、オリガは「あの」と言ってそれを制止した。


「どうした、オリガ?」


「あの、たまには一緒に眠りませんか?」


「私は構わないが……狭くはないか?」


「気にしませんわ」


 イアンはオリガに視線をやって息を飲んだ。想像よりも遥かに美しい肉体美に見惚れてしまった。

 ぴんと反った背筋。艶美な曲線を描くくびれ。肉感のある尻。はだけたキャミソールの紐。

 オリガは色欲の権化だった。アスモデウスに取り憑かれた娘だった。


「君は悪魔か? それとも、天使か?」


「それはあなた次第ですわ」


 イアンはベッドに入り、オリガの背中と向き合った。


「なあ、七つの大罪を知っているか?」


「ええ、聞いたことならありますわ。ですが、全ては言えません」


「私も全ては言えないが、その中の一つに色欲がある。色欲の悪魔の名はアスモデウス。アスモデウスは美しい娘に取り憑き、その娘と結婚した者は初夜に絞め殺された」


「まあ。アスモデウスはどうしてそんなことをしたのですか?」


「わからない。君はどう思う?」


「そうですね……もしかしたら、アスモデウスは娘を愛していたのかもしれませんよ。他の男のものにしたくなかったから彼女に取り憑いて絞め殺させていたのかもしれません」


 オリガにとってのアスモデウスとはなんだろう、とイアンは思った。

 オリガには何かが取り憑いている。私に何かを隠している。何かがオリガを操っている。オリガに取り憑いているものがアスモデウスなら、私はそいつを許さない。オリガから離れさせて殺してやる。

 イアンは後ろからオリガを抱きしめた。甘い香水の匂いがふわりと舞い上がり、エステルが余計なことを吹き込んだのだと気付いた。


「君を抱こうとしたら私も絞め殺されるのかな?」


「あなた次第ですわ。アスモデウスよりも私を愛してくださる?」


「もちろんいいとも。君を愛する覚悟はできている。君は私に愛される覚悟ができているか?」


「はい」


 豊満な胸に触れると、オリガは嬌声を上げた。


「心も身体も私に委ねなさい。相思相愛なら何も怖いことはない」


「はい、イアン」


 未婚の初夜はひっそりと過ぎていった。二人がどれほど愛し合おうと朝は訪れた。

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