中編
外は寒い。
城のなかと温度は変わらないはずなのに、二人はそう感じます。
湖にかかった一筋の糸――橋を渡って行きながら。
前方には、湖の向こう岸には、かつて都市だったであろう灰色の静寂が広がっています。
「二人で行くのははじめてですね、すらり」
「えぇ、まめつぶ」
吐く息は白く、まるで雪のようです。
かじかむ手を握り合い、二人は歩みを進めていきます。
「あそこには――僕らが今向かっているところには、むかし人間が住んでいたんですね」
「ロボットも住んでいたんでしょう、きっと」
そして。
二人は端を渡り終え、誰もいない廃墟群にたどり着きます。
ふと後ろを振り返ると、自分たちの居た城がひどく遠くに二人には感じられます。まるで、別の世界であるように。
雲を突き抜けるかのような塔のような建物がいくつもそびえています。
が、その数と同じほど、倒壊している建物も沢山そこにはあります。
二人は歩いていきます。
倒壊した建物には、なにか線のようなものが巻き付いており、電気のようなものが走っていた形跡が見受けられます。
凍った地面には、なにやら繊維めいたものが張り巡らされています。かつてこれは、道路を『脈動』させる人工筋肉だったのでしょう。
四角と紡錘形を組み合わせた、奇妙で大きな車輪付きの箱が地面と同化してそこらじゅうで凍りついています。
そしてそびえたまま凍り付いている建物群は、今でもなにか住んでいそうなほど不思議な存在感があります。
とにかく――その都市は、何もありません。何もないかわりに、『滅んだ』という結果があります。
「人間たちは、こんな高いたてものに住んでいたのですね」
すらりが、感心したような口調で言います。まめつぶはそれに返事をせず、すらりの手をしっかり握りながら周りの光景を見ています。
かつてこの都市は、かなりの威容を誇っていたのでしょう。そう感じさせるほど、巨大な都市であることが分かります。
それがこうして、今ここで凍り付いている。降り注ぐ雪に、ゆっくり覆われながら。
――そしてふと、豆粒の目に入ったもの。
入ってしまったもの。
小さな少女を抱きしめながら倒れこんだ状態で凍りついた、大きな男の氷像。
なにかに手を伸ばしながら、大きな瓦礫に挟まれている若い女の氷像。
倒れこている老人の氷像に寄り添っている、犬の氷像。
その他無数の、人々の氷像。
死の直前の、最後の生のかたちをした、無数の人々の氷像。
たくさんの死がそこにはありました。
豆粒にとっては、それは――。
「自分以外の人間、はじめて見ました」
豆粒は呟きます。
呆然と、心ここにあらずといった具合で。しかし、もともと豆粒には――。
すらりは胸にいやな感じを覚えます。それは今まで感じたことのない感じ。すらりは戸惑います。
「みんな凍っていますね。――どうして、こんなことに」
「何か、なにかの機械がやったのかもしれません」
豆粒は、一人の少年の氷像――立ったまま、悲痛な表情のまま――のもとに歩いていきます。
そしてそれに――手を触れます。
するとその氷像に――ひびが入り、完全に――。
「砕けて――しまった」
派手な音は立てずに、まるで花びらが散るように。さらさら、さらさらとかつて人であった氷のつぶてが、雪とともに地面に落ちていきます。
すらりと豆粒はそれを見つめています。
時間がひどくゆっくりに感じられるほど、ずっと、ずうっと。
「――すら、り」
かたちあるものが崩れ、すべて地面に還元してしまったのち――少年だったものが完全に崩壊したのち、豆粒はすらりの名を呼びます。その呼び方には、今まですらりが聞いたことのないようなある種のけいれんがあります。
「なんですか、豆粒」
「――あれ、歌って下さい。『はっぴーばーすでい』のやつです」
「いいのですか、まめつぶ。この氷達は、もともと――」
「いいのです。――もうみんな、死んでいるのですから」
すらりは豆粒の言葉に少々戸惑います――戸惑いということばを当人が知覚できているかはともかく――が、提案に従います。
「じゃあ、歌います」
「えぇ。じゃあ僕は――」
豆粒は少年の氷像があった近くの、別の氷像のところに駆け寄ります。そしてその氷像の腕を折り、持ってきます。
「これを棒代わりにします。随分と太くて硬い腕ですね。これなら強く振っても壊れることはないでしょう」
「――っ」
「どうしたのですか、すらり」
「いえ、なんでもありません」
そうしてすらりは――透き通るような、氷の色のような声で、歌い始めます。
Happy birthday to you,
豆粒はそこらじゅうにある氷像をひとつずつ、ひとつずつ壊していきます。
Happy birthday to you,
氷像が氷のかけらになり、粉になり――地面に落ちていきます。
Happy birthday, dear…
そこですらりの歌声はやみます。
それと同時に、豆粒による破壊も止まります。
「どうしたのですか、すらり」
「まめつぶ、わからないのです。どうして歌うことをやめたのか、わからないのです。でも、でも――」
歌声、振るわれる腕、瓦礫が瓦礫になってゆく音、それが地面に落ちる音――。
すらりは、城の中の光景を、いつもいつも、ずっとずっと繰り返されてきた光景を機械の頭に浮かべます。それが、眼前の光景と重なり、ずれを生み――。
「なにか『違う』気がするのです、まめつぶ。私たちの城の中で歌うのと、ここで歌うのとは――なにかが」
「奇遇ですね、すらり。僕もそれを思ったところです」
豆粒は棒代わりに使っていた氷像の腕を、落とすことなしに、地面に突き刺します。
「もう、やめましょう。――先に、進みましょう」
「えぇ、まめつぶ」
破壊の跡を振り返ることなく、二人は誰もいない――しかし、確かな人間の存在が感じられる滅びの町を進んでいきます。
すらりと豆粒は歩いていきます。
街中にはまだまだ氷像があります。そのどれもが――もとは人間だったもの。だけど、豆粒とは何もかも違う。彼らは死んで、豆粒は生きている。今まで、ずうっと。彼らが苦しみながら氷の像になっていく間も、豆粒は生きていた。歌を聞きながら、瓦礫を瓦礫に変えながら、城の中で、ずっと、ずっと。今までも、そしてこれからも。永遠に終わらない生を、豆粒は、そしてすらりは続けていくのでしょうか。――生の終わらせ方を、まるで知らないゆえに。
豆粒はだんだん早足になってゆきます。本人が気付いているかどうかはともかくとして、少しずつ――すらりが彼に引っ張られるかたちになっていきます。――すらりはまた胸が痛くなります。
降り続ける雪、通りすぎていく無数の氷像、空高く響く乾いた音を立てながら倒壊する建物群、裂けて、中のグロテスクな計器類が顕になっている氷漬けの人工筋肉道、降り続ける雪、かつて少年だった氷像、かつて老婆だった氷像、かつて飼い犬だった氷像、シダのように垂れ下がる凍った電線類、転倒した電気自動車の群れ、氷像、氷像、氷像、降り続ける雪……。
二人の見るすべての景色が、過程から結果へと収斂された結果生まれたものです。しかし二人はその過程を知りません。ずっと、あの城のなかに居たのですから。
二人は街を歩き続けます。歩をすすめるたびに、頭に降ってきた雪の粒が振り落とされていきます。
そして。
「これは」
「なんなのでしょう」
突如として視界がひらけます。
そこにあったのは、唐突に眼前に現れたのは。
大きな球体。コードのようなものが巻き付いた、地面に半分埋まっている白亜の球体です。真ん中にはなにやら画面のようなものがあります。――その場所だけ、ひどく特別なものに感じられます。これは、一体何なのだろう?
「これがあるここだけ、周りになにもありませんね」
「なにか、特別な場所だったのでしょうか」
球体の周りは、広場のような広がりがあります。まるで、何かの儀式の場のようです。
「ぼくらより、ゆうにおおきい」
豆粒はそう言いながら球体に近づいてぴょんぴょんはねます。しかし球体の天面に手が届くことはありません。
すらりもそれに倣い、ぴょんぴょん跳んでみせますが、長身のすらりをして届きません。その謎めいた球体はそれほど巨大なのです。
「届きませんでした」
「届きませんでしたね」
豆粒は中央部分にある液晶画面のような部分に興味を示します。これはなにかの機械ではないか、と。
「まめつぶ、これは――」
「なにかの機械かもですよ、すらり。触ってみたら、まだ動くかもしれません」
そう言って、豆粒はその画面のような部分に触れます。
――一瞬、指先がちくりと痛みます。
その直後、その指にコードのような電子文字が走り――指が光ります。
「おおー」
そして画面が展開されます。先ほどの発光は豆粒の手が認証された、ということなのでしょう。
青色の淡い光が画面中に溢れます。球体の内部から、車輪が回転するような鋭い音が聞こえ始めます。巻き付いているコードの表面には、記号めいた電子文字が走り始めます。こんなものがまだ動くとは、と二人は驚きにも似た感情を浮かべます。
『世界の目に、ようこそ』
無感情さを無理矢理隠したような不気味なほど朗々とした電子音声を、球体が発します。
「きえあああーしゃべったああー」
「なんですかそれは、すらり」
「いえ、なんでもありません」
『この中には、人類誕生の瞬間から、今までのすべての【情報】が詰まっています。いつでもどこでもあなたのための究極的情報図書館へようこそ』
この球体は、巨大なひとつのデータバンクだというわけなのです。
よく見てみると、球体の側面――コード類に隠れている部分になにやら番号がうたれています。
「これは、世界中に散らばっているのかもしれませんね」
「じゃあ、これが『観察』するためのものでしょうか」
すらりが球体から伸びている一本のコードを引きぬきます。その先には何かまた小さな球体がついています。これが、この場所のすべての情報を知覚し、記録するカメラのようなものなのでしょう。
『本図書館は、お客様が任意で検索可能な【手動検索】、お客様のの脳を精査し調べたいことを自動で検索する【自動検索】、そしてさらなる機能として【検索ツアー】を利用可能です。どうなさいますか』
「どうします、まめつぶ」
「ううーむ。【検索ツアー】ってなんなのでしょうか」
『検索ツアーとは』
「うおっ」
『どうなさいました、お客様』
「いや、続けてください」
『検索するツアーです』
「そうですか」
「ツアーですか」
二人はこの電子音声になにか丸め込まれるのを感じながら、とりあえずはその【検索ツアー】をすることにします。
『了解いたしました。では、はじめます――』
電子音声のその発言と同時に、球体全体が青く輝き始め、電子文字が濁流のようにコード上を流れ黄金色を成し、二人の意識と視界は輝きに吸い込まれていきます。そして――
二人は今、この球体のなかに、意識と視界を没入させられています。
『では――まずは簡単に、私のせいの……ゲホッゲホッ概要をご理解いただくため、今回起きた大規模な【ウィンター・ミュート】事件の前後の歴史をご覧に入れます』
いきなり、二人の知らない単語が出てきます。
「うぃんたーみゅーと。――知ってますか、まめつぶ」
いいえ、知りません。豆粒はそう答えようとしますが――。そうする間もなく、五感をなすすべての要素がある景色に消えてゆきます。
それは、おそろしいほど長く、おそろしいほど残酷で、そしておそろしいほど生と死に充溢した――今までこの場所で起きた歴史の光景でした。
1999年――人間、人工知能搭載型万能ロボット【レプリカント】の本格的量産を開始
2000年代――レプリカント、全世界に普及
2025年――とある戦争博物館にガイド役として勤めるレプリカント【エディ】が謎の故障を起こす
同年――【エディ】の故障の原因が、彼がレプリカントに本来持ち得ない【感情】を持ったためと発覚
同年――それを裏付けるように、訪れた人々の証言で、【エディ】が展示品を見て涙を流していたことが発覚する
2027年――レプリカント学者、【感情を持ったレプリカントの危険性】という旨の論文を発表する
同年――レプリカントの2027年現在以上の性能向上に不安の声が囁かれるようになる
2030年代――レプリカントによる【感情を持ったゆえの】事件、急増する
同年代――レプリカント反対運動が活発になるが、政府は生産を続行する方針に(事実、レプリカントによる労働は市民生活や貧富の差の改善に大きく貢献していた)
2039年――とある工業プラントにて、レプリカントによる大規模な反乱が起きる
同年――人間、軍を率いてこれを鎮圧
2040年代――レプリカント、各地で次々とクーデターを起こす
2045年――とある武装レプリカント集団が、市街の一部を制圧したことをきっかけに、人間対レプリカントの抗争が激化する
2046年――第三次世界大戦、勃発。過去二回の国家VS国家ではなく人類VSレプリカントという異例の形式によるものである
2049年――レプリカント軍、心理兵器【感情強制冷却装置(ウィンターミュート)】を発動。これにより人類の大半が死亡、人類軍は降伏、レプリカント軍の勝利に終わる
この兵器は、【感情】を持つ人間すべての脳内に働きかけ、生体組織を破壊してしまうというものであるが、当然ながら【感情】を獲得していたレプリカントにも作用してしまう。これは、レプリカントが【自分は感情を持っている】ということを自覚していなかったことが招いた結果である。戦争のきっかけとなったクーデターも、労働条件の不公平さが原因であるにすぎない
2159年現在――地球上からはほとんどの人類とレプリカントが居なくなっており、この地球はウィンター・ミュートの余波で気温が急激に低下した死の星となっている
補足1――なお、人類が戦争のさなか開発を開始したバイオ人間――感情を抑制した戦うための人間――、その試作1号は感情が見発達であるため、生存している模様
補足2――同じように、構造的欠陥の存在しているレプリカントや、感情移入能力の欠如した人間もまた、少数ではあるが生き延びている模様
補足3――その生き延びている人間のグループは、この記録装置の電波を妨害しながら存在しているため、居場所を補足できない模様
二人はしばらく黙っています。膨大すぎる情報を処理できないという理由もあれば、もっとたくさんの、複雑すぎる、混乱的な思考が頭の中に侵入してきたせいでもあります。
豆粒は感情などを意図的に遮断された人間で。
すらりは欠陥品のロボット。
二人は、自分たちがなにやら特殊な出自であることはなんとなく理解していましたが、現実は、あまりにも――あまりにも直接的すぎています。
すらりは、自分たちが既に球体図書館の没入から解放されていること、そして、自分が豆粒の手を痕がつくほどぎゅっと握り締めている自分に気付きます。
豆粒も、そんなすらりの様子に気付きます。
「――いたいですよ、すらり」
「わかっています、わかっていますが――私は、こうしていたいのです」
その言葉を聞いた豆粒は、ひどい不安に襲われます。そしてその不安自体に、さらに不安になります。
――雪はまだ、二人の足の間に降り注いでいます。
彼は今までになく語気を強めて言います。
「その『こうしていたい』きもちは、本当のすらりが思ったことなのですか」
すらりはひどく怯えたような表情を浮かべます――人間のそれと変わらぬような。
豆粒は胸が痛みます。そしてある疑問が浮かびます。
「私は私です、まめつぶ。――そんな怖い顔で、見ないでください」
「――すいません」
そしてきっとその疑問は、すらりも持っているに違いない――そう思ったため、口に出すのをやめます。
円形機械はもうすっかり静まり返っています。その中央部のモニターに、豆粒と――すらりの姿が反射して映ります。
頭に降る雪を払おうともせず、ただ液晶を見つめている自分の姿。――鏡に映る、自分。自分で自分を見つめるというのはこうも、こうも――。
「こうも、恥ずかしいものなのですね」
すらりが呟きます。豆粒は黙っています。
「自分がなんなのか、今までまったく考えてきませんでした。それは恥ずかしいことなのですね。それに――雪はこんなに白いものなのですね。ほら、私の頭にこんなに雪が積もってますよ、豆粒」
「――すらり」
「なんですか、豆粒」
今度は豆粒がすらりの手をぎゅっと握りしめます。
「――いたいですよ、まめつぶ」
「ロボットであるすらりが痛いと感じて、人間である僕が――ロボットであるすらりに痛いと感じさせる」
「なにが言いたいのですか、まめつぶ」
「ねぇすらり。僕は本当に人間なのですか。あなたと同じロボットじゃないのですか」
「でも、あなたはにんげ――」
「僕が人間かどうか決めたのは人間なのですか。では人間はいつも正しいことを言うのですか。じゃあロボットは僕のことをなんと言うべきなのですか。僕は――僕はいったい、なんなのですか」
「まめつぶ、落ち着いてくださ――」
豆粒は早口になっていきます。身体がどんどん震えていきます――寒さのためではなく、自分自身に湧いた疑問のために。
生まれてきてから100年間、一度も感じなかった疑問のために。
「僕が人間なら――僕はこの街で氷漬けになっていたはずだった。僕が人間なら――もうとっくに死んでいるはずだった。僕が人間なら――僕は、僕は――」
「まめつぶ、やめてください、おちついて――」
「じゃあ――あなたはなんなんですか!」
生まれて初めての、豆粒の怒り。――否、それは怒りに近いものであって、まだ怒りではありません。完全に怒りを浮かべているなら、今すぐ豆粒は凍り始めるでしょうから。豆粒の動揺も、まだ感情の発露とはいえないものです。純粋な、理性による疑問と怒りです。
しかし、今まではそんな理性すら彼にはありませんでした。自分には理性のみが在る、という思考を、理性で封じていたのです。――しかし今、彼はその二重思考をやめてしまった。
すらりは怯えたような表情を――表情に近いものを顔に浮かべ、豆粒を見つめています。
「こわいですよ、まめつぶ」
「――すいません。――この話は一度忘れましょう。情報が多すぎて、ちゃんと覚えきれない」
「――もう」
その先の言葉は、豆粒には予想がついています。きっとすらりは、自分と同じ事を考えている――。
「――もう、戻りましょう、まめつぶ。この機械を持って、わたしたちの城へ」
「――えぇ。そうですね、それがいい。いつだってそれがいいですね、すらり」
そして二人は、この街に別れを告げます。
『了解、自走モード、開始します』
ふと電子音声が聞こえます。――先程の円形装置の電源をまだ落としていなかったようです。
円形装置は何やらダクトのような部分から雪と同じ色の煙を吐き、足のような部分を展開しだします。
そして、二本の機械足で立ち上がります。コード類は側面の蓋のなかに、すっかりしまい込まれて。
「足のはえたらっきょうですね、まめつぶ。まちがいない」
「らっきょうはあんなことはしませんよ、らっきょうは食べものです」
「でも、私たちがそう決めつけているだけかもしれませんよ」
「……」
二人は来た道を再び歩いていきます。後ろからは、ずんずん、ずんずんと音を立てながら円形装置が歩いてきます。そのずんずんと一緒に、彼の脚部と地面の雪がこすれる、きゅるきゅるという音も聞こえます。その音は何も聞こえない街の中で、ひどく虚ろに響きます。
帰り際にも、彼らは新しい氷像を見つけていきます。すでに人のカタチを失い、崩壊しているものもあれば、何十人も固まって、ひとつの巨大なかたまりになっているものもあります。そのすべてが、吹きゆく風と雪とともに、二人の視界から滑るように通り過ぎていきます。
二人は今、前方にある島――湖に浮かぶ孤島、そこに立つ大きな冬の城のみを見つめています。もう、往路のように、様々な部分を眺めたり、観察することはありません。どこを見ても、城の中の世界と違うものしか存在しないのですから。
「もうすぐ僕たちのお城ですね、すらり」
「えぇ、まめつぶ。私たちはもと居た場所に帰っていくのですね」
「――えぇ」
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