第九章 蒼き時の彼方に 五
人工芝に覆われたグラウンドで、風の揺らぎに十五本の葉桜がそよそよと揺れていた。
初夏の穏やかな昼下がり。
こんもりと茂った若葉が擦れ合い奏でる、微かな騒めきが聞こえる。
耳を澄ませば、まるで英霊たちのひそやかな囁き声のようでもあった。
富士重の最終決戦を見届けようと、前日にも増して観客席は沢山の人々で埋め尽くされていた。
既に第一試合では、一対四で全足利クラブを下した日立製作所が、ドーム行きに名乗りをあげていた。
「待ってろよ〜!東京ドーム‼︎」
上野が遥か東の方角を指差し、眩しそうに目を細めた。
時は満ち、三塁側ベンチから次々と姿を現した住金鹿島の軍勢が立ち並んだ。
目が醒めるようなコバルトブルーの帽子は、鹿島灘の海の色を彷彿とさせ、初夏の空の青の下、爽やかな新風を吹き込んだ。
『新日鐡住金鹿島硬式野球部』は、茨城県鹿島市にある、新日鐡住金鹿島製鉄所に本拠地を置いて活動していた。
チームの愛称は『KASHMA BLUE WINGS』
前身となる『住友金属鹿島硬式野球部』は、一九五七年に創部された。
当時は、和歌山市の本社チーム『住友金属野球団』に次ぐ第二のチームだったが、一九九九年の十二月に本社チームが解散となり、会社唯一のチームとして、地道に活動を続けていた。
しかし不況の煽りを受け、新日本製鐡との統合に伴って、チーム名も変更された。
千葉県の住金かずさマジック、愛知県の住金東海REX、兵庫県の住金広畑も同じく、従来のチーム名の先頭には『新日鐵』の三文字が加えられ、新たなスタートを切ったばかりであった。
日立製作所に並び、北関東三強の一角を担う住金鹿島は毎年、富士重を交えた三つ巴の熾烈な代表権争いを繰り広げていた。
白ベースのユニフォームの胸元には、新日鐡住金と、堂々たる新社名が刻まれ、斜め下には小さなKASHIMAの横文字が、控え目に主張する。
都市対抗では、二〇一〇年、二〇一一年と、二年連続でベスト四となり、悲願の初優勝まであと一歩に迫る勢いで躍進を続けていた。
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