第八章   ZEROになる勇気   五

 富士重を含め、県内には八つの企業チームが存在する。スーパーシードの富士重は、決勝まで登り詰めた残り七チームのトップと一戦を交え、勝てば二次予選に駒を進めていく。

迎えた五月六日は月曜日にもかかわらず、太田運動公園の観客席は七割がた埋まっていた。

 勝ち上がってきたのは、伊勢崎硬建クラブ。伊勢崎市に本拠地を置き、日本野球連盟に所属するクラブチームだった。

 社会人野球には二種類あり、富士重のような会社登録チームとクラブ登録チームがある。

 クラブチームは会社や地域、出身校等を背景とした仲間が集まって結成され、多くは個人会費や後援会組織、地元自治体等からの支援により運営されていた。

 近年は一企業または複数の企業、および社員が主体となって、地元からも広く選手を募集して結成されたチームもある。

 義務教育を終えた者なら、男女問わず誰でも競技者登録ができる門戸の広さも特徴の一つだった。

 伊勢崎硬建クラブも、地元建設業協会加盟の四〇社がスポンサーとなり、発足したチームだった。

 創部は一九九二年と歴史は浅いが、結成二年後にはクラブ選手権に初出場して初優勝の快挙を成し遂げた。

 また、同大会では、出場時全てにおいてベスト四以上に入賞する勝負強さを見せている。

 水上→万場→白井の投手リレーで繋いだ試合。結果は三対〇で勝利を収めたが、大会六十二連覇の偉業を成し遂げながら、富士ナインに笑顔は見られなかった。

 県内唯一の企業チームとして、同大会決勝では2008年から5年間、連続コールド勝ちと圧倒的な強さで優勝決めていた富士重。

 しかし、今回は十一残塁を許す、なんとも歯切れの悪い内容だった。

 特に六回は、相手のミスなどから無死三塁と好機を作ったが、後続が倒れ追加点を奪えなかった。

「技術よりも気持ちの問題。良い準備はできているので、気持ちを作り直して、今月末に行われる北関東大会では、気迫あるプレーを見せるぞ」

 試合後のミーティングで語った沼田の言葉を、胸に深く刻む。さらに険しさを増す龍門の滝を見上げ、大きく一つ息をした。

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