第八章 ZEROになる勇気 四
打者の心理を巧みに読み取る磯部の配球が光る。
磯部の中では、すでに相手先のデータはしっかりと把握されていた。常に変化していく流れを見極めながらゲームを組み立てていく。読みが外れれば、素早く組み直すの繰り返し。
蓄積された綿密な計算に基づく、頭脳的なリード。初球からウイニング・ショットや逆に決め球には、ど真ん中のストレートを要求するなど、打者の裏をかく見事な配球に、打者は磯部と勝負しているのではないかと言わしめるほどであった。
また、ボールに判定されるであろう際どい球を、ストライクに見せるキャッチング技術を持っていた。
相手の心理を直感的に見抜く才能に長け、まさに『野球の申し子』と呼ばれるに相応しい活躍ぶりを見せていた。
並外れた強肩と堅守に加え、高い盗塁阻止率に、チーム内での信頼も高まっていった。
神業とも言えるミット捌きに助けられながら、俺は俺で、構えられたゾーンに確実に投げ込んでいくだけだった。
時に危険球と背中合わせの際どいリードは、打者の胸元すれすれを大胆に攻め込む。
気の荒い打者とは、一触即発の事態に陥ったことも一度や二度ではない。
時には仕返しとばかり、打席に立った磯部に、あからさまな死球を喰らわせる輩もいた。
しかし一歩も怯まず、己の野球道を貫き通すさまは潔く、堂々たるものだった。
変化球を巧みに駆使し、先頭打者を三振に打ち取り、出鼻をへし折る。
やや甘く入ったストレートを、すかさず二番がライト前ヒットを飛ばしチャンスを作ると、三番がインコース高めを大胆に振り抜き、サードフライに。
二死二塁の場面で四万の登場となったが、外角低めのチェンジアップでセカンドゴロとし、がっちりと進塁をブロックして、初回を終えた。
ゲーム展開は速く、両チーム共に好機を作るものの、九回まで0対0。互いに一歩も譲らず、激闘が続いていた。
十回からは大会規定により、一死満塁から始まるタイブレークに突入していった。
厳しい場面からの息を呑む攻防戦、緊張は一気に高まった。
富士重の先頭打者は三番の坂上。しかし、キャッチャーフライに打ち取られ二死満塁に。ここで不動の四番、四万が期待を一身に背負い打席に立った。
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