第八章   ZEROになる勇気   四

 大会三日目、本日の結果如何によって、準決勝に進出する四チームが出揃う。

 富士重としても敗者復活を懸けた、負けは許されない一戦である。

 相手は路線トラックで業界最大手の西濃運輸。

 岐阜県大垣市に所在し『カンガルー便』などの愛称で親しまれていた。

 戦後いち早く長距離トラックを走らせた史実でも知られている。

一九六〇年の創部、と歴史は浅いが、早くも二年後には都市対抗に初出場を果たした。

 都市対抗、日本選手権ともに出場回数は相当数あるが、いずれも準優勝止まり。

 二〇〇三年に同じ岐阜県に本拠地を置いていた昭和コンクリートが休部したことを受けて同部から七名の選手が移籍、選手層の厚みを増した。

 現在、岐阜県唯一の社会人野球チームだった。

 親会社の西濃運輸をはじめとして、協力会社などで構成される『カンガルー会』や、地元自治体の大垣市などからも手厚いバックアップを受け、地域密着型のモデルチームとして社会人野球界でも注目を集めていた。

 ややグレー味を帯びたユニフォーム、胸元には紺と黄色の二色のラインで縁取られた《Seino》の黒いアルファベット文字が躍る。

 首周りから袖口、ズボンのサイドラインも二色できりりと引き締められていた。

 左袖にはお馴染み、赤い『カンガルー便』のマーク。右袖には大垣市の市章である「柿」のヘタをかたどったユニークな模様が刺繍されていた。

 かつて大垣の名が「大柿」と呼ばれていた名残とも言われている。

「敗者復活戦は孝一に任せたい。行けるか?」沼田の言葉に間髪入れず「やらせてください!」と、意気込んではみたものの、やはり静岡大会からの過密スケジュールで、チーム全体を含め、少々疲れが見え始めている感は否めなかった。

 

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