第八章 ZEROになる勇気 三
六回からは佐波がマウンドに立った。得意のくせ球で白鷺を惑わせながら、次々とフライやゴロで打ち取り、得点を許さず。
八回からは守護神の白井がきっちりと仕事をこなし、あっさりと回を終えた。
迎えた最終回。四番の四万から始まる打線に最後の望みを託す。
しかし勝利を目前に控えた藤丸気迫の投球に、敢えなくサードゴロ、三振、レフトフライと力尽きた。
二対〇でゲームセット、完敗だった。静かに息を殺しながら、マネージャーがスコアブックに黒丸を書き記した。
鋭く尖った鉛筆の芯が、パキリと音を立てて弾け飛ぶ。
限られた人生の中で、足早に駆け抜けていく日々は密度の濃い時を過ごしている証。とてもエネルギッシュで、新鮮味に溢れ、刺激に富んでいた。
かつては空前の灯だった命の火は、今一度息を吹き返し、熱く強く燃え盛る。
自らマウンドに背を向けた日。呪縛から解き放たれた束の間の安堵感と引き換えに待っていたのは、抜け殻になった空虚な日々だった。
いたずらに時間を持て余すだけの一日は、恐ろしいほど長く感じられた。
たくさんの人に囲まれていても何故かいつも寂しく孤独だった。
「何かが違う……」
満ち足りぬ想いは焦燥感を煽り立て、取り返しのつかない過ちを犯したと深い後悔の念に駆られた。怒りの矛先を自分自身に向け、責め苛んだりもした。しかし、今ならわかる。
無駄なことなど何一つとしてないのだ、と。
取り返しのつかない過ちなどないのだ、と。
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