第六章   龍神   五

「十五本の桜の下に眠る青年たちは『中島飛行機・雄飛倶楽部』に所属する野球部員だった。彼らの中には、戦火を縫って一九四二年に開催された第十六回・都市対抗に出場した者もいた。この時、北関東地区で優勝もしている」

 雄飛倶楽部は中島飛行機の創始者、中島知久平の弟である中島門吉を含む数人の野球好きな幹部らによって大正八年に創部した。

 大した娯楽のなかった当時は、試合ともなると全社員が応援に駆けつける大盛況ぶりだった。

 幹部たちも、用具の購入やユニフォーム新調などにも随分と手を尽くしていたらしい。

 ちなみに、中島門吉も三塁手として活躍さしていた。

 雄飛倶楽部の熱き志は脈々と受け継がれ、まだ戦況も比較的優位と見なされていた一九四二年は『銃後国民の戦意発揚のため』と称して特別許可が下り、後楽園球場にて二年ぶりの開催となった。

 優勝は朝鮮の『京城市・オールスターチーム』。当時は満州、朝鮮、台湾の外地チームも交えて行われていたが、この年を最後に都市対抗は三年間の空白期に入っていった。

 戦後、雄飛倶楽部は中島飛行機の閉鎖と共に富士重工チームとして生まれ変わり、昭和三十二年に再起を果たして東京本大会に出場した。

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