第六章 龍神 五
「よし! みんなで円陣組むぞ‼︎」
上野の一声で即座に肩を組み合い、固い結束の輪が出来上がった。
円の頂点に風神が鎮座し、その肩には沼田の右腕と上野の左腕が力強く添えられた。
一瞬、静まりかえった輪の中心に、ひらり、ひらりと桜の花びらが舞い落ちてきた。
その行方を目で追う孝一の視界は、みるみる翳んでいった。ぽたり、ぽたりと零れ落ちる想いが、乾いた土に染みを作る。
磯部の右手が軽く孝一の肩を叩いた。
「ONE・FOR・ALL! ALL・FOR・ONE‼︎ 天辺とるぞ‼︎」
「っしゃ〜‼︎」
結束の輪が、大きなうねりとなって波打った。
「横文字は好かん! 駄目だんべぇ〜」
確氷がボヤいた一言に、上野が苦笑いしながらワザと大袈裟にズッコケてみせた。ドッと笑いが起きて、一気に場が和んでいく。
生き物で笑うことが出来るのは、人間だけだと聞いたことがある。
大人になるにつれ、笑わなくなった。笑えなくなっていった。
降り掛かる出来事を深刻に捉え過ぎれば、真実は陰に隠れる。
シリアスな場面にこそ、笑いが必要なのかもしれない。
ともすると、人は物事のありのままの姿を見ようともせず、独自の色眼鏡を掛けながら歪められた世界を見ているのかもしれない。
自分の価値観に全てを当てはめては、思い通りにならない現実に七転八倒しているだけなのかもしれない。
笑いは不必要な構えや緊張を解きほぐす媚薬。笑うことで誤解が解けた瞬間に、形勢逆転の奇跡が起こる事例さえあるのに。
『泣きたい時にこそ、無理しても笑い飛ばせ』武尊の口癖が脳裏を過った。
今更ながら、孝一は言葉の持つ意味の奥深さをしみじみと感じていた。
笑い飛ばしてしまえば『しょせん全ては小っちぇえこと』に変わっていくのだ、と。
「以上。みんな練習を始めてくれ」
名残惜しくはあったが、沼田の掛け声で半ば強引に気持ちを切り替えていく。
部員の一人一人が確氷と軽く握手を交わしながら、グラウンドに散らばっていった。
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