第六章 龍神 三
負け戦からは常に多くを学べた。今回の試合でも、今後の重要な課題点を突きつけられた貴重な一戦となった。
「更なる投球のテンポアップとフォームの無駄を省いていく。アンダーはクイックモーションが難しく、盗塁されやすい。ストレートにしても何種類かバリエーションを加え、変化球を混ぜ合わせれば、組み合わせは無限大となるだろう」
沼田の言葉が、孝一の決意を新たにさせる。まだまだ改良の余地は残されていた。転んでもタダでは起きぬ!
五日にわたる関西遠征で、孝一は学生野球と社会人野球の違いを少なからず感じ取れた気がしていた。
学生野球では、お金を払って好きな野球をさせて貰っていた。
一方、社会人野球は企業から給料を貰って野球をしている。
仕事の一環とみなされ、結果を出していかなければならない。
その重みを自覚しているか、どうかが、学生と社会人の違いである。
社会人にとって、あくまで野球は『仕事』だ。所属する企業のPRをするのが役割で、いくら個人の成績が良くても、負ければ何も残らない。
負けて出勤するときの気まずさや憂鬱さは、去年の都市対抗で敗戦を期した際に、嫌と言うほど味わっていた。
それでも職場の人たちの殆んどが、暖かく励ましてくれるのだが、その優しさがかえって心に刺さり、申し訳ない気持ちが先に立つ。だから都市対抗に限らず、どんなトーナメントでも、ただひたすら勝ちに拘り、必死になって戦った。
日本を代表する重工業メーカー『富士重工』。白を基調としたユニフォームのサイドには青いライン。黄色い鍔が際立つ紺のキャップ。ユニフォームの左胸には、スバルのエンブレム『六連星』、右袖口には歴史に名高い上州の名武将『新田義貞』の家紋『大中黒』が刺繍されている。
この『大中黒』は太田市の市章でもあった。企業のロゴ・マーク、太田市の市章に新田源氏。様々なしがらみが時には背中に重くのしかかり、また或る時は誇らしく輝く。
社員の一員としての責任と自覚を強く心に刻みながら、社会人野球としての一年目が足早に過ぎ去っていった。
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