第一章  なごり雪

 トンネル内は明かりもなく真っ暗で、時間の感覚さえあやふやになり、軽い目まいを覚えた。

 どこに辿り着くとも知れず、長い長い漆黒の闇の中を永遠に彷徨うのだろうか。

「もう、俺はこのまま戻れないのかもしれない」と、焦燥感に煽り立てられながらも

「このまま暗闇の中に溶け込むように消えていくのも悪くない」

 心の片隅で呟く声にゾッとした。

「俺がいなくなったら、実家の和菓子屋はどうなる? たった一人しかいない後継ぎを当てにしてるんだ。きっと恨まれるだろう」

 がっくり肩を落とす父の背中と、怒りに肩を震わせる母の対照的な背中が、脳裏を過った。

「そうだ、あの世で真琴に合わす顔もない。孝一は自分の道を全うしてきたの? あいつに問い掛けられて、なんと答える? 今の俺には答えられない。まだ何も成し遂げちゃいない。今、俺が死んだら何が残る? 何もないじゃないか、何も」

 取り留めのない謎掛け問答に、自分の存在理由があまり意味を持たないようにも思えてきた。もう、やめておこう。

 とにかく今は、この理解不能な状況に身を委ねるしかないのだろうと、孝一は諦めにも似た気持ちで腹を括った。

 するとざわついていた心も次第に落ち着きを取り戻し始めた。

 やがて辺りが俄に明るさを帯び、遙か前方に朧げな光の点が見えてきた。出口だ。

 再び孝一の鋭い直感が警笛を鳴らし始めた。

「俺はいったい、どこに向かっているのか」

 答えは間もなく明かされようとしていた。

 


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