第2話 捜査
「じゃあこうしよう!
君はお友達が好きだけどお友達は君の事が好きじゃない、寧ろ嫌い。」
「……」「わかる?」
「君を嫌っていた彼女は君に嫌な思いをさせる為に家を訪ねた、だけど君はそれを見越して事前に家を出てそして此処に辿り着いた..。」
人差し指を顔の中心に近づけつらつらと早口でそう唱えて徐々に後ろへ退がる。ある種の催眠術の類だろうか?
「この指何?」「何が?」
「指立ててるでしょ。」
「立ててる.,あほんとだ、なんだろねこれ。」
「意味ないの..?」
人を食っただけだったようだ。
「んじゃ取り敢えず隣り合うもう一つの材料と並ぼっか!」
「えっ。」
国立辺銀堂大学
「うわー人多いですねー。」
「当たり前でしょ、大学なんだから」
「冷たっ..!」
普通の事を意外な様に聞いてきたので下手に冷たく映るが、普段もそれなりに温度は低い。
仕事には余り感情を持たない。
それは一重に周囲への警戒と、社交性の乏しさから来るものだ。
「さっさと聞き込みするわよ」
「解ってますけど随分かかりそうですよね、この中から一人を探すのは。」
「人見知りには地獄の作業よ..」
数をこなして辿り着く他遣り用の無い情報量、何しろ名前だけだ。この時代に伝書鳩は頂けない。
「取り敢えず端から順番に...」
「あのっ..」 「はい?」
「桃佳の事、ですよね..。」
控えめに近付くショートカットの女性
何かを知っている様子だ。
「あなたは?」
「私、夏帆です。佐伯..夏帆。」
「桃佳さんの御友達?」「はい」
「探す手間が省けましたね。
早速お話を!」
「待って。」「..なんですか?」
「私が話を聞く、アナタは大学を回って頂戴。」
「大学をまわるって、一体何を..」
「……」
言葉の途中で耳打ちをする、極秘というよりはやかましい口を閉じる為に。
「お願いね?
それじゃあ行きましょう」「..はい」
「ちょ待っ!
あぁもう、なんだよ。」
バディは別れ単独で動く。
南玉町・街道
人口の多いこの街では、音や声が煩く〝雑踏〟という言葉が正に相応しい。
「あ、そう
どうもね、時間とらせた。」
街を一周するのにも人を避けつつ随分掛かる、一角といえど省ける手間は余り無い。
「ったく、なんだってこんなでかい街を一人で聞き込みだよ。面積は小さいのになぁ」
事件発生近辺と、以前起きた箇所の近くに話を聞いて周ったがこれといって情報は無し。
「後は..現場の公園と、少しだな」
奇怪な遺体の置かれた公園の刈り取られた薄い死の薫りを嗅ごうと近付く。
目と鼻の先の公園へ、足を運んで探索に勤しむ。
「うん、やっぱり何も無いよな。
普通の公園だ」
残りカスすら見当たらない、そもそもの証拠が死体二つのみという時点で望みは薄いのだが細やかな繊維や素材ですらも見つからないとなるとやはり項垂れはするものだ。
「アンタ、警察の人かい?」
「ん、そうだが何だ。」
「ここで何か探してんのか、それって前の事件の事か?」
突然声を掛けたのは酒瓶を片手に顔を赤らめたホームレスのオヤジ、公園を拠点とする路上の主が何を語ろうというのか。
「何か、知ってるのか?」
「どうかなぁ〜..知らねぇかもなぁ」
と言いつつ縮めた手の平を差し出し気持ちを探る。
「なんだよ情報屋気取りか?
今時流行んねぇだろそんなもん。」
「じゃあいらねぇんだな。」
「...払うよ、いくらだ?」
「5000円」
「結構取るな、これで何も知らないは許さねぇからな。」
値段に違和感を持つも素直に払い情報を得るという愚行、金にモノを言わせる汚い男に成り下がったものだ。
「何、貰った分の仕事はするさ
就職面接はしないけどな。」
「何でもいいから教えろっての」
白昼宿無し男を軽く叱り情報を得ようとする警官の姿は、周囲からはどう映るのだろうか?
「犯人の姿を見たぜ。」「何ぃ?」
「嘘だったら承知しねぇぞ」
「嘘じゃねぇよ、何処に居るかも知ってるぜ。」
惑わす言動には聞こえない、そもそもそんな高尚な事をする様にも見えない見かけで人をとよく言うが、そういう事では無く単純に威厳を感じない。
「どこに居るんだよ?」
「霞通りだ」「……当たりかよ..。」
手掛かりは、意外な処に落ちている。
「ほらこれ、わかる?
結構ガタガタでさ、あれ..」
「何やってんのよ...!」
「んー、だよねぇ?
やっぱ慣れない事しない方がいいな」
女の真横で不気味なおもちゃの腕を動かし首を傾げて惑う男に血の気が引いて青ざめる。
生気の抜けた〝元は生きていた〟人形
「いつもは血生臭い方がリアリティあっていいと思うからまんまなんだけど今回は血抜きをしてみたんだけど。」
「だから何を動かしてんのよっ!」
「うるさいなぁ、聞こえるよ?
そんなデカい声出さなくてもさぁ」
曲げた腕の関節がカタカタと音を鳴らしマリオネットのように固まり動く。
「ひぃっ..!」
「驚いた?
中空洞なんだよね、通気性良くてさ。
まぁそのお陰で脆くなってんだけど」
臓器も血も何も無い、肉も大半が削がれ原型を留める程度しか残っていない
「よーく見ておきなよ〜、君もこれからこんな感じになる訳だからさ。」
「何でこんな事するのよ..!」
「なんでって言われてもなぁ、やっぱ〝作品〟って手間掛けた方が愛着湧くっていうかさ」
「何が作品よ!
アナタはただの人殺し、死体で遊ぶイカレた奴だよ‼︎」
「うーん..確かにそうなんだよなぁ。
僕って才能ないんだよ、工夫してるつもりなんだけどな〜。」
テレビや本といった様々な荒削りの資料で目にした。芸術志向のシリアルキラーは自己顕示欲を満たす為に死体に手を加えると、しかし実際目にすると感じてしまう。
〝本当にそうなのか?〟と。
「何で、作ろうと思ったの?」
自然と聞いていた。
意識的に湧く疑問と好奇心の動作で。
「..芸術家ってさ、題材を決めて素材を決めるんだよ。逆の人もいるだろうけど、その中で上手く表現できそうなものがこれだったのかなぁ?」
「これって、死体だよ?」
「うん、そうだよ。
その他に何に見える?」
「......。」
少し前であればイカレた質問と捉えたが今は迷っている。単純な話か、創造性や表現での深い意味なのか。
「復讐の塊..」「ん?」
「それだけとは限らないけど、人を殺すって凄まじい悪意をぶつけるって事だと思うから。
「いや死体だよ、ただのね」「え?」
勘ぐった言葉は直ぐに突き返された。
「人を殺す人って言うほど強い感情は無いと思うんだよね、あったら普通は恨んで腹立てて終わっちゃう。」
「..確かに〝殺してやる〟とか言う人は実際はしない...」
「でしょ?
だから殺された死体は、何も無い。
空っぽの動機なんだよね」
邪魔だったから、むしゃくしゃしたから、そういった簡素な動機が殺人を生み出す。
「ならその空っぽのキャンパスに手を施せば、新しい表現が出来るだろ?」
「……そうなんだ。」
世間じゃ福笑いと呼ばれる猟奇的な事件を繰り返し忌み嫌られた彼の瞳はこの空間では煌めきを帯びていた。
「だからなんか嬉しくてさ!
君を見かけたとき最高の材料に..」
『ピンポーン』 「んぅ〜?」
扉越しにチャイムが鳴る。
これは、余所者が
「これ片しとかなきゃ..あ、君も悪いけど一緒に片されといて」
急いで詰められたガタクタと共に椅子ごと運ばれアトリエの角隅へ。
「少し、静かにしててね..?」
作品では無く材料としての自分へ。
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