余暇の駄作

アリエッティ

第1話 流行

「御堂警部、これって..」

「あぁ〝フクワライ〟だ。」

公園に打ち捨てられた二つの死体。

身体のパーツがもぎ取られ、所々を入れ替えられている。

「今月で何件目ですかね?

君悪いですよ」

「流行りは巡るというが、こんなもんに凝る奴は最悪だな。」

四肢のみならず顔の目、鼻、口といった細やかなパーツまで分離させられており、一つ一つを着脱可能な域にまで切り取られている。

「どっちが何処の墓に入ればいい?」


街の某所、一人暮らしの男が居た。

『生物は個を求め力を付ける。

集団行動というのもその一つで、脆弱な己を守る為の手段なのです』

テレビから垂れ流れる知識をBGMに、皿のパスタをフォークに絡め、食う。

「うん、美味しいね。

酸味がちょっと強いけど」

部屋には幾つもの絵が飾られ、居間の向こうには自分のアトリエを持っている。


「ここに来るとさ、皆んな言う。

〝これはお前の書いた絵か?〟って、そんな訳無いよ。僕に絵の才は無い」

「……」

「ん、あぁそうか!

口塞がってたね、ごめんごめん。これじゃあ御飯も食えないや」

テーブルを囲み、自分が座る席とは向かいの椅子に括り付けられた女の口元のテープを剥がし、自由を与える。

「...ぶはぁっ!

何て事、するのよ..!」

「..あぁそうか!

利き腕も自由にしないとフォーク持てないよねそうだったそうだった。」

「そういう問題じゃない..」

「え、ならなに?」


警視庁捜査本部

「被害者は現場の公園に偶々居合わせた共に接点の無い男女、遺体は身体のパーツを組み替えられ奇怪な姿で見つかった。」

「またアレか」「ったく..。」

〝福笑い〟

打ち捨てられた二つの死体の部位や顔のパーツが入れ替わり組み替えられ並べられているおぞましい事件。誰の仕業かは解っていないがここのところ多発している。

「並んでいる死体は整えられた形跡があり、一度持ち帰られ手を施した後戻された可能性があります。」

「確かに、捨てられたにしては綺麗だな。何で整備するんだ?」

「弄った死体を作品だと思ってんだろ

とんだシリアルキラーだ!」

「決めつけは良く無いわよ、当たってるんでしょうけど。」

証拠は一切残っておらず現場にはいつも死体のみ、幾度も発生している事件ではあるが足取りがまるで掴めないでいる。


「現状深い散策は出来ないが各自他の事件と並行して捜査を続けろ、何か気になる事がある奴はいるか?」

「..関係あるか分からないけど。」

「なんだ嬢島?」

「今朝から近くに住む女子大生が行方不明になってるわ。」

「詳しく教えろ」

嬢島と呼ばれる女刑事は資料を取り出し、詳細な情報を伝えた。


「姫元 桃佳 21歳

近くの大学に通う学生で一人暮らし。

友人である佐伯 夏帆さんが部屋を訪ねても返事が無く不審に思いマンションの管理人に鍵を借りて部屋に入ったところ姿は無し、スマホも財布も置きっぱなしで人だけが消えていた。」

「神隠しみたいっすね..」

「女好きの神か?

隠さず告れっての!」

「今朝からいないのか、何か関連があるかもな。先ずはその佐伯夏帆って子に話を聞こう、連れてこれるか?」


「はい、行くわよ片桐!」

「え、僕もですか⁉︎」

「お忙しそうだねぇ、お二人さん」

「お前もだ遠藤、パトロールがてら話を聞いてこい」

「へいよ、御堂みどうの旦那。」

次に誰が犠牲となるかは分からない、準備までとはいかないが警戒を強いる意味でも仕込みは必要と判断した。

「アンタはどうすんだ?

いつも通りここで待機だろうな」

「いや、今回は俺も動く、一つだけ心当たりがあるからな。」


「心当たり?

素性も身元もわからねぇ犯人のかよ」

「おかしな奴が蔓延るとしたらあそこしかない〝霞通り〟だけだ。」

「あぁ、あそこね..」

何十年も昔はキラーズ通りと言われていた。猟奇殺人、シリアルキラー、異常性癖者...。

そこで犯罪は生まれるとされ入れば二度と戻らないと噂の漂う悍しい道筋。


「本息でヤバかったのは昔だろ?

今は随分整備されて人気の少ない田舎街道もいいところだぜ」

「今でも形として残ってる、可能性は0じゃない。」

「そうか?

ったくモノ好きなのか懐古的なのかわかんねぇなアンタは!」

後ろ向きの背中で軽く手のひらを振りながら見回りに向かうべく出口の方へ歩いていく。

「あっ、現場の公園にも足を運んでみてくれ!」

「はいよ、じゃあな。」


「…俺も行くか。」

かつての殺戮の場へと静かに赴く準備を始めた。


〝霞通り〟

賑やかな街からすこし離して先にある人の少ない不気味な道に、一つ家が建っている。

「いい朝だったね今日は。

君もそう思う?」

「……」

「何、不機嫌だね。

パスタ美味くなかった?」

「機嫌が良い訳ないでしょ!

外してよコレ!」

「あ、何痛い?

きつかったのかな、緩めたけどな。」

相も変わらず椅子にくくられたままでじたばたしている女はその状態を保ちつつ朝を終えようとしている。


「これでどう?

少しは楽だと思うけど。」

「外しなさいってば

それともそんなに恐い?」

「..何が?」

「警察よ警察!

逃げられて、通報されるのが恐いでしょ!」

「うーん、どうだろうなぁ..。

言う程あの人たち万能じゃないしな」

「何よそれ..!」

頑なに拘束を解かない男に対し脅しのつもりで言ったが体を震わす事も無く適当な返答で済まされた。

「思ってるより警察って無能だよ?

それに何で僕が捕まるのよ。」


「は?」 「えなになに?」

耳を疑った、見ず知らずの女を捕らえ誘拐し挙句椅子に縛り付けた男があっけらかんと言ったのだ。

自分には〝捕まる理由が無い〟と。


「本気で言ってるの..?」

「本気ってなんだろ、ん?」

「私の事誘拐したんだよ!?

悪い事してるじゃん、犯罪者だよ!」


「..あぁそういう事。

そこは違うよ、誘拐したんじゃない。

君が〝自分でここまで来た〟んだよ」

「え...どういう事..?」

意味がまるでわからなかった。

言い訳のようにも聞こえなかったし、行いを正当化しようという形にも見えなかった。感覚的には、何故かそれが正論という認識を近く捉えている。

「今外ではそれこそ警察が大騒ぎだろうね、まぁそれが君の事か〝作品〟の事かはわからないけどね。」


「私が自分で来た..?」

「あ、それまだ考えてたの。」

考えが浮つき纏まらないまま、男は不気味な口弁を彼女に垂れた。

「君の家

大学近くのマンションだよね?」

「..うん」

「二階の、左から二番目。

毎朝友達の子が迎えに来てたけど、今回はどうしたんだろうね?」

「へっ...。」

「いつもいる友達が部屋にいない。

普通なら鍵開けて、中入って、それでもし、いなかったら..探すよね。」

「..なんで来ないの?」

「そうそれよ、友達。しかも毎朝家まで迎えに来る親友が途中で探すの諦めて警察が動いてる。」


「それってさ、多分きみの事なんて、どうでもいいって事。」

「いや、良くある事よ!

いくら探しても見つからなくてそれで警察呼んで..」

「いや、警察が動いたのはそのすぐ後探す素振りすらなかったの。」

「そんな事ない、そんなこと..!」


「あったら君はここにいないよ?」

正しくは無い、言葉巧みでも無い。

ただ閉鎖的な今の思考には、より難解な思考として付与される。

「意味ない言葉って意味あるんだよ」

「私に何をする気!?」

「何するっていうか元々いい〝素材〟だと思ったから調達したんだけどな、良い作品出来そうなんだよなー。」


「作品って..?」

「ん、あー説明すんのかー。

めんどくさいな..どう言えばいいか、なんだろ、うーん..あんまり好きな言い方じゃないけどこれが一番ポピュラーなのかなぁ?」

テーブルの端を左右に行ったり来たりしながら考え結論を出す。


「君さ、『福笑い』って知ってる?

最近結構流行ってるんだけど。」

「ふ、福笑い..⁉︎」

「まぁ、周りが勝手にそう呼んでるだけなんだどね。」

殺人のトレンドは、古き悪道から発信されていた。

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