第5話 常識なんて言うもののウソ
もう
でも、嫌なんだ、なんだろこの感じは、例えば顕微鏡でミジンコを観察するとする。このミジンコの動きはずいぶんと速くて観察に支障をきたす。そこで、アラビアゴムを少しいれたりしてやると、液がねばねばとしてミジンコの動きが遅くなり、観察しやすくなる。
まあそういう学習教材もかつてはあったりもした。そういう液の中に、自分たちが入っていて、自由に動けない、動こうと思っていてもねばねばの液の中でどうにもならぬ、そんな感じといって分かっていただけるだろうか。
このねばねばの正体は一体何なんだろうか、自由を奪うこの周囲を取り巻く液体の正体は。もしかして、と、私は思うわけだ。日本の社会に巣くう、常識だの、まっとうだの、人の目だとか、そういうものであり、そういうものを作ったのは誰なんだろうかと。
学校にいけないです、ああそうですか、じゃなくて無理でも行けよ、みたいなそんなもの作ったやつは。運動してるときに水を飲んじゃいけません、いじめる方よりいじめられる方が悪いなんて、そんなこと言ったやつらは。
果たして、それはごく一部かもしれないが、高度成長時代に生活を謳歌(おうか)して、引退したご老人、そういう人達ではないかしらとか疑ったりもするわけだ。十把ひとからげにするのも偏見なので、ごく一部とここで強調しておかねばならぬが、ホントにごく一部なんだが、そういう連中がいることは確かだよ。
PTAとか活動してたのも、君たちだったよね、コーラを飲むと骨が溶けるとか、わけわかんない出鱈目(でたらめ)を平気で流布して、人の時間を無駄に使わせて、ろくでもない。
幼稚園を作ります、うるさいからやめろ、デモだデモ、そんなの君たちの時代はもっと騒いでいただろう。私は子供の声なんて聞こえたらうれしくて仕方がないよ、しかも今時、外で遊ぶなとか言うじゃないか。
かつて、駄菓子屋の前にむらがって散らかし放題にして、さわいで、掃除したり謝罪したりするのは当時のばあさん方たちだよ。君たちの親世代はえらかった、それは間違いないと思うし、私もおばあさんにはたいそう世話になったし、道徳も学んだ。
だいたい、君たちは道徳がなってないじゃないか、そのくせ、やたら常識とかルールとか、人を縛るものばかり作って、あげくの果てには、いい学校、いい結婚式だ、それは君たちがうれしいだけじゃないか。おばあさんは私によく言ったよ、どんなにわからないと思って人に迷惑かけたとしても、お天道様が見てるからね、って。
数の暴力、そういってしまえばおしまいかもしれないが、この国ではいくら自由選挙で若い人が投票したって、君たちの数には勝てないのだ、しかも、病気になればいかにも怪しいヘンテコな新薬なぞ、保険でただ同然にしろって、それは無理ってものだろう。自分のお金で輸入して、つかってくれよ、国民皆保険制度をぶちこわすのはやめてくれ、もう、壊れそうになってるじゃないか。
七五過ぎて癌て、もう、寿命だよ、いろんな医療を試してる場合じゃないだろう、そんなことしてるうちに八〇になっちゃうよ。それは終末医療は必要だろう、誰だって苦しんで死にたくはない、だが、伊藤整の短編にも書いてあったが、淡々として医師から与えられた鎮痛剤を自分できちんと処方して、そうして死んでいったもんなんだよ。
自分ならそういう死に方したいよ、できることなら。でも強い鎮痛剤なんか君たち世代が自分で処方することなんか禁止してしまったから、病院に行ってそこで亡くなるわけだ、それ人生の終末としてどうかとおもうよ、私は。
長くなるので、ここらへんでやめておくが、人間が一番いやなことは束縛されることなんだよ、分かるだろう、それを君たちは平気でやってるんだよ。
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