そのたわわなおっぱい揉んでも良い?

 誰の何をどうしたって!


「絶対に、こっ」

「ん。ん。アイルローゼちゃ~ん?」


 憤りから立ち上がろうとすると隣の強者が……ずっと足を、太ももを撫でるのは止めて欲しい。

 とりあえずそれを除いたとしても相手が強いことをよく知るアイルローゼは強硬策に出れない。警告されたら大人しく黙るしかない。

 目の前の魔女がどんなに屑であったとしてもだ。


「それと魔女ちゃんも」

「なによ?」


 クスクス笑いながら鬼は魔女を見る。


「アイルローゼちゃんを揶揄い過ぎよ? 実は気になる人をイジメちゃうタイプ?」

「違うし~。そんな魔女に興味ないし~」

「またまた。それに乳飲み子のあそこを大人のあれで作れるわけがないでしょう?」

「それは数多くの悪事を働いて来た悪い私の才能を遺憾なく発揮しまして」

「それにそれ。本当に悪い人は自分のことを『良い人』と言うのよ」

「……」


 大人の言葉を告げられ魔女は押し黙った。


「貴女は悪い魔女じゃなくて優しい魔女だからそうやって警告するんでしょう? アイルローゼちゃんが自分に近づいて、近づきすぎて傷を負わないようにって」

「ぜんぜ~ん。私はいつでもウェルカムよ? どんと来い!」

「うんうん。本当に魔女ちゃんも可愛いわね~。後でそのたわわなおっぱい揉んでも良い?」

「絶対に嫌」

「あら残念」


 笑いながら、鬼は太ももを撫でていた手を動かしアイルローゼの腰を抱える。

 そして自分の方に引き寄せた。


「この子もまだまだだけど本当に匠君の周りには良い子ばかりで、オバサン嬉しくなっちゃうかな」

「ちょっと」

「ん~」


 嫌がる相手の頬にキスをして鬼は笑顔を絶やさない。


「こんな良い子ばかりだからノイエちゃんも良い子なのね」

「……」


 その言葉はアイルローゼとしては受け入れられない。

 だって彼女があんな風に壊れてしまったのは全て自分たちが原因なのだ。純粋で純真で純白だったノイエを真っ黒に染め上げてしまったのは全て自分たちなのだ。


 だから違う。あの子があんな風になってしまったのは、


「こんなに良いお姉ちゃんたちに囲まれていたから、ノイエちゃんはあんなにも幸せそうなのね」


 でもそれを相手は知らない。

 知らないから……沸々と湧き上がる感情にアイルローゼは自分を押さえられなかった。


「ふざけないでっ!」

「あら怒った」


 本当なら相手の腕を振り払い立つ予定が……アイルローゼは激高する相手に抱き付く格好になっていた。仕方ない。全力で振り解いてもビクともせず、むしろ引き寄せられて抱きしめられたのだから。


「オバサン。本気だけど?」

「なら余計に、」

「そうして貴女たちが感情を押し殺していることをノイエちゃんは悲しんでいるのに?」

「……えっ?」


 思いもしない言葉にアイルローゼは顔を上げる。


 相手に抱き付く格好となり、その胸に預けていた頬を離して見上げた先で相手は優しく笑っていた。


「ノイエちゃんが黒く染まったことをオバサンだって知ってる。ずっと匠君の後ろで見て来てたから……まあ多少知らないこともあるけど、でもそれなりに知ってます」


 何故か胸を張り鬼は『えっへん』と声を出した。


 実際良くは知らないが、それでも少しは知っている。ノイエがあのようになってしまったことをだ。


「でもノイエちゃんが黒く染まってしまうのは仕方ないことなのよ」

「どうして? だって私たちの傍に居なければあの子は、」


 自分たちの傍に居なければあの子が真っ黒になることは、


「つまり貴女は、ノイエちゃんがずっと一人で生きて行けば良かったというの?」

「……」


 優しい声音にアイルローゼはその身を震わせた。


 分かっていたことだ。それは最初から分かっていたことなのだ。


「人は誰だって感情を持っている。それは間違いないことよ。その感情に反応してしまうノイエちゃんは誰が傍に居ても感情に触れて色を染めてしまう」

「でも、だったらせめて私たちの傍に居なければあの子は、」


 あんなにも真っ黒に染まることは無かったはずだ。


「貴女は自ら望んで妹がしたことに文句を言うお姉ちゃんなの?」

「……えっ?」


 余りにも衝撃的な言葉にアイルローゼな思考は一度止まった。 


「……自ら?」

「そうよ」


 相手を抱きしめ直して鬼は言葉を続ける。


 諭すように、語り掛けるように……子守歌でも歌う母親のようにだ。


「あの子は大好きな家族のために自分の出来ることを一生懸命に頑張った。結果として真っ黒に染まってしまったけれど、それはあの子からしたら大したことじゃないのよ」

「大したことじゃない?」

「ええ。だってそれで大好きな家族が1人でも多く笑ってくれるなら……あの子が望むことってつまりそう言うことじゃないの?」

「……」


 また体を動かし、その手を動かし、鬼は相手を抱き直す。


「貴女たちからすればきっとノイエちゃんは壊れてしまったように見えるのかもしれない。けれどたぶん違うんだとオバサンは思うの。そこで寝ているお姉さんに詳しい話を聴ければいいんだけど……どうなの魔女ちゃん?」

「しばらくは安静。魔力が枯渇しているし、何より存在がぜい弱だから一気に魔力を流すとパンクしちゃうしね。のんびりじっくり時間をかけて魔力を流さないと消えるわね」

「ってことだから確認できないけど」


 顔面にスノーマンを乗せたノイエの姉は死んだように寝ている。実際には死んでいる。その存在はただの幽霊なのだから仕方がない。


 鬼は正面からアイルローゼの顔を見る。


 本当に美人だ。その整った顔立ちは芸術の域だろう。けれどその表情はいつも硬い。硬くて悲し気で、何より努めて冷たい雰囲気を出している。


 違う。だからこの子は弱いままなのだ。


「たぶんノイエちゃんはあんな風に一度染まることで本当の力を得たのだと思う。オバサンの勘だけど」

「本当の力?」

「うん。それを聖女の力とか言えば良いのかな? あの子はたぶん染まったことで聖女としての格を上げたんだと思う」

「格?」


 相手の言葉の意味が分からない。分からない。


「つまり姉さまは黒く染まって初めて聖女に昇華した?」

「そんな感じかな」


 魔女の問いに鬼は『うふふ』と笑う。


 ただしその手の動きは止まらない。その手は止まらない。


「何よそれ? どんなトリック?」

「ん~。マニアックな魔女ちゃんなら分かるかなって思ったんだけど?」

「人をオールレンジの万能型オタクだと思わないでよね!」

「それがツンデレでしょ? オバサン知ってるんだから」


 ノリは軽いがノリが違う相手に魔女は苦笑する。流石あれの母親だ。


「で、どんな理屈?」

「ん~。修験道ってあるでしょう?」

「えっとあれ? 確か良い大人が山に籠って自らにドМプレイを課し続けるという、あの禁断のハァハァ系ハードSMでしょ?」

「とりあえず魔女ちゃんは空海さんに対して全力で土下座しなちゃダメかしらね?」

「はん。故人に土下座なんて」

「生きてるわよ空海さん」

「マジで?」


 魔女はちょっと本気で驚いた。


「結構有名な話だと思ったんだけど」


 事実空海は高野山で“生きて”いる。彼が住まう廟には朝晩と食事の準備がされて運ばれている。ただ即身成仏のあれを生きているとすることは……人それぞれだから鬼さんは気にしない。だって鬼だから人の主義主張は良く分からない。生きていると言っているなら生きているのだ。そう言うことだ。


「空海さんの話はそっちに置いておいて、たぶんノイエちゃんは一度真っ黒に染まる……その心身を限界を超えるまでの苦痛に浸したことになると思うの」

「あ~うん。そうとも言えなくもない?」


 魔女は考えて頷いた。


 身の方はどうかとも思うが、心の方は間違いない。限界の向こう側にでも行かなければ人間の心は真っ黒に染まることは無い。普通その過程で発狂なりしてしまうことだろう。それを姉さまは壊れながらも耐えたのだ。体の方はチートのあれがあるから問題ない。でも人間は心が死ねばそのまま死んでしまう生き物だ。そう考えると確かにハードな修行かもしれない。


「つまり姉さまのあれは生まれながらに聖女に至るために作られていた、と?」

「オバサン。頭が悪いからそこまで真面目に考えてないのよ? ただ何んとなく……勘?」


 その勘が冴えすぎると怖いんだけれども……魔女は苦笑しながらちょっと真面目に考えた。

 視線は真っ直ぐで固定して動かさない。これはちゃんと見る必要がある。


 つまりは食い込みだ。食いこんでいる。見事だ。あそこまで尻を揉みながらTバックで遊べる存在がこの世に居るだろうか? 居た。目の前に居た。あれは間違いない。鬼の所業だ。つか鬼だ。鬼でした。


「だからノイエちゃんはとても大変な修行を経て……聞いてる? アイルローゼちゃん?」

「くふっ」


 ちょっと限界だった。


 途中から全力でお尻を触られていることに気づいていたが、相手の手を払うことが出来なかった。何故なら相手の方が強いからだ。そのせいでずっと捏ねられて、


「~~っ!」


 アイルローゼは限界に達した。




~あとがき~


 真面目な会話をしながら何しているんだこの鬼は? 鬼か? 鬼だw


 次はあっちに参りま~す




© 2024 甲斐八雲

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