内政干渉はしないでおこう

 神聖国・都の郊外



「で、変態女王」

「……」


 やって来た僕の存在にようやく気付いたどこぞの変態が、ビクッと体を大きく震わせこちらを見た。


 君たちは何をしているのですか?


 ついつい冷ややかな視線を向けてしまう。


 集ってしゃがんでいた神聖国の阿呆たちが何やら薪を組んでいた。


「よ~し。良く分かんないけど全員手を上げろ」


 見本とばかりに僕が手を上げる。するとそれに釣られ変態以外は手を上げた。


「待ってください! 別に怪しいことは、むぎゅうっ!」


 振り上げた手を振り下ろすのと一緒に重力魔法を飛ばしたら、変態女王が荒れた大地と熱烈なキスをした。


 うわ~。一国の女王ともあろう人物がこんな場所で……恥ずかしい。


「この国の未来が心配になる」

「むがぁ~!」


 おや? 変態が雄叫びを上げて立ち上がった。

 何て恐ろしい変態か? 変態とか関係ないか。でも変態は何度でも蘇るからな。


「遠い目をして何処を見ているんですかっ!」

「神聖国の未来を憂いているだけです」

「大丈夫ですからっ!」

「嫌々。ダメな人ほどそう言って自分を鼓舞するものなんだよ?」

「本当に大丈夫ですからっ!」


 吠える変態女王は……これこれ君たち。僕を無視して何をしているのですか?


 薪を組み合わせ、何やら小袋から粉を取り出し振りかけている。


 それはあれか? 煙に色を付ける類の粉か?


 だからそれを止めろと言っているのだよ。


「狼煙だよな?」

「……そうですよ」


 何故か疲れ果てた様子で変態女王が脱力した。


 というかこの女王に僕の対応を一任していませんか? これこれ君たち、僕の方を見たまえよ?


「で、援軍とか呼んで来るほどお前って人望あるの?」

「……」


 間違っていないであろう僕の指摘に変態女王が拳を握ってブルブルと震えだした。


 あん? その拳をどうする気だ?


 殴れるものなら殴るが良い。全力で回避するがな。


「援軍と言うか部族連合が来ています。それに傍にはドミトリーも居ますので、必ず案内してくれるはずです」

「裏切られないと良いな」

「はうっ!」


 変態が無い胸を押さえて大きく傾いた。

 どうやらその不安を抱えているらしい。


「……分かっています。分かっていますから」


 阿呆がいじけて座り込んだ。


「実は部族連合を呼んだらそのまま都が攻撃されるのではという不安はあります。分かっています。この国は今まで地方の部族たちに対して酷い行いをしてきましたから」

「自業自得か」

「……はい」


 自覚はあるらしい。


「で、どうするの?」

「……頭を下げて今までの不義理をお詫びして」

「はい失敗」

「な」


 口を開けて変態が驚愕する。


「お前馬鹿だろう? というかこの国の教えが馬鹿なの?」

「……馬鹿馬鹿ってじゃあどうすれば良いんですかっ!」


 キレた。変態がキレた。


「と言われても僕ってば他国の元王子なんで~」


『関係ないし~』とか歌いながら、ヘラヘラっとしながらお道化てみせる。


 増々変態がイライラとした表情を見せだした。


 悪魔の泣き顔で溜まったストレスの発散はこれぐらいで良しとするかな。


「ただ僕としては、相手が弱っている姿を見たら攻撃したくなっちゃうと思よ?」


 ピタッと変態が動きを止めた。


 本当にこの馬鹿は気づいていないのか?


「今までの恨みを抱いた人たちが弱った相手を見たらどうする? たぶん間違いなく『今なら倒せるのでは?』と考える。つまりそういうことだと思う」


 凶器を抱えたいじめられっ子が衰弱したいじめっ子を見つけた瞬間のように……こわっ!


「ならどうすれば?」

「簡単です。弱っている時こそ強気に出るんです」

「でも私たちには兵もなく、」

「でもこっちには僕の自慢のお嫁さんが居ます」

「……」


 目を点にした変態が驚いて口を開いた。


 本当にこの国って違った意味で平和だったんだろうな。


「まずお前のすることは都を支配下に置くことだ」


 これ重要です。テストに出ます。


「次に治安の回復を命じつつ、ノイエの為に食事を作り食べさせるのです」


 治安が悪いのもダメです。それを理由にやって来た部族連合が『治安回復』を掲げて狼藉を働く可能性があります。


「あとは残っている都の住人に何でも良いから武器を持たせ、部族の人たちが来る方角の城壁にこれ見よがしに並べれば良いのです」


 ここまでで1セットです。


「でも彼らは戦うことなど」

「うん。でもそれをわざわざ相手に教える必要はないでしょ?」

「……」


 人間なんて説明を受けなければ、見た目だけで分かることなんて極少数なんだから。


「少なくともここは神聖国の都でしょう? きっと何十万という国民が居る。それが武装して待機している。やって来た部族の人たちはお尻の穴がキュッとなるくらいに緊張するだろうね」

「そうです。そんなことをしたら敵対行為とみなされて」

「だね」


 その可能性は高い。というか確定でそう思う。


「でも満腹のノイエが居たら僕は絶対に戦いを挑まない」

「……」


 思うことがあるのか変態が若干頬を引き攣らせた。


 おい待て。僕としてはそのリアクションの意味を問いたくなるのだが?


「まあノイエに攻撃はさせないけど脅しぐらいはしてもらうよ。そうすれば部族の人たちは攻撃をする気は失せるでしょう」


 ノイエという個の力と城壁に万という兵が並んだ状態で誰が城攻めをする?


「あとは交渉でどうにかしろ」


 脅迫としてはこれで十分だ。故に時間が必要だから狼煙は上げるなと言いたい。


「……決裂しそうなのですが?」

「すれば?」

「なっ!」


 二度目の唖然とした表情だ。


「勘違いしない。別に戦争をする必要はない」


 これ以上の戦争などたぶん無意味だ。というかたぶんできない。


「忘れているかもしれないけど、この国にドラゴンが湧きにくかった理由って知ってる?」

「はい。ツチノコ様にお聞きしました」


 おいおい卑猥。いつの間にやら“様”扱いか? あん?


「この国の……国内で発生するドラゴンの大半がツチノコ様の元に運ばれていたとか?」

「ふ~ん。で、そのツチノコがあそこにいる訳だ」


 卑猥な生物は横になっているユリーさんの胸の上に載って何やら上下左右に揺れている。


 その卑猥に今すぐモザイクをっ! お子様には決して見せてはいけない何かが行われているっ!


「あの卑猥を絞め殺すか?」

「お止めください。今は魔力が尽きたユリーの体調を少しでも良くしようと魔力回復をしてくれているそうです」

「……あれが?」


 ビジュアル的に絶対にいかがわしいあれにしか見えんが本当か?


 おい変態。こっちを見ろ。全力で視線を逸らすな。


「まああの卑猥は今までの自分の行いを悔い改めるとか言ってたから別に良いんだが」


 ただロリ好きのユリーさんにあれは拷問なのではないのか? 見なさい彼女を。若干うなされているような感じにしか見えないぞ?


「で、あの卑猥がそこに居る時点でたぶんこの国の対ドラゴン対策は崩壊しているはずだ」

「……」


 僕が言いたい言葉に変態も気づいたらしい。


「国内でドラゴンが湧く?」

「正解」


 それによってこの国は今までのような政治形態は維持できない。


「もともとこの国は分裂する運命だったのよ」


 酷い話だけど仕方がない。


 元帝国のように武力を持ってドラゴンを管理できていれば、限定的にだけど大国を維持できただろう。そう考えると共和国も良く維持できていたな。


「神聖国でドラゴンをどうにか出来る存在は?」

「アーブのみかと」


 もう1人居た気がしたけど……まあ良いか。


「であのスク水ボーイをお前が手放すことは無いんだろう?」

「……ええ」


 何故か変態がモジモジとしだす。


 まさか変態よ……あのペットボトルに魅了されたのか?


 逃げて~! スク水ボーイ! 君のペットボトルのキャップをこの変態が解放する気だ! 溢れちゃうっ! ボトルの中身が全部出ちゃうから!


「内政干渉はしないでおこう」

「何の話ですか? というかしまくりですよね?」

「気のせいだよ。変態」

「……」


 めっちゃ睨まれた。


「まあつまり部族連合とやらはドラゴンをどうこうできない。つまり最終的に彼らはお前に泣き付いて来るってことだ」


 だって普通だと倒せないんだから。


「でもそれだと被害は」

「出るだろうね」


 でもね。


「それはドラゴンスレイヤーが居ない国ならどこでも抱えている問題だよ」

「……」


 ハッとして変態女王は視線を逸らし唇を噛んだ。


 そう。少なくともこの国には1人だけだがドラゴンスレイヤーが居るのだ。それがどれ程恵まれた環境なのかを理解したのだろう。


「ぶっちゃけ大国を維持するのはまず無理だ」


 冷たい言葉だけどそれが事実だ。


「国を割る必要がある。だから部族連合とやらには今まで管理してきた土地を全て渡してしまえば良い。そして神聖国は今後適度な大きさで……」


 気づいてしまった。


 何をもってこれから先、この国は“神聖”を謳うのだろうか?


「あの卑猥を祀り神聖を謳って独立を維持するしかないんじゃないのかな?」

「……」


 これこれ変態よ? その目はアカン。『あれを?』と雄弁に語り過ぎてるぞ?


「少なくとも自称神格を得た卑猥らしいから祀れば良いことがあるかもしれんぞ?」


 子宝には恵まれそうな気はする。




~あとがき~


 存在を忘れられていた変態の元へ主人公は向かいました。


 卑猥が地下から出てしまったので神聖国の結界は完全に崩壊しています。結果としてドラゴンは国内で湧くようになり……大国の維持は不可能になってしまいました。


 この先この国がどうなるのかは、まあどうにかなるでしょうw




© 2024 甲斐八雲

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