ゲロッと吐いてみようか?
神聖国・都の郊外
「あの~。疎外感が半端なくて」
「頑張れ」
「せめて誰か1人でもこちらに」
「頑張れ」
「でしたら少しだけそっちに行っても」
「頑張れ」
相手の申し出をとにかく断り続ける。
煙発生装置と化しているユリーさんには悪いが仕方ない。
君も立派な女王陛下(笑)の部下であろう? そうだよね?
ならば我慢することこそ忠誠の表れと言うこともあるのです。
「女王陛下(笑)さま。忠臣にひと言」
「待機ですユリーって先ほどから陛下の後ろに不穏な言葉が聞こえるんですが?」
気のせいです。ただの日本語です。と言うかどこぞの魔女のおかげで普通に日本語が喋れるようになったんだよな~。確かこれって言葉に出来なくなるとか何とか言われた記憶が残っているけど、本当にあの悪魔は常識を何処かに放り投げてくる存在だ。
そんな悪魔は現在名無しの女の子と一緒にノイエの応援をしている。
白と赤のボンボンを持って……ちょっと待て。足を上げての応援を少女に強要するな。その子は比較的真面目なんだから。
はい? 結構ノリが軽くて教えたら自ら進んで?
ちょっと悪魔さん。君と大切な話があります。
ええ。道徳と言うか道徳観的なことを話そうか? 逃げるなこの馬鹿っ!
ぴゅ~と逃げて行く悪魔に呆れつつも、僕は名無しの女の子を見る。
ボンボンを手にして上下に小さくフリフリとしている様子は可愛らしい。
「足を上げたりしない範囲でなら許可」
僕の言葉に彼女はコクコクと頷くとフリフリとボンボンを振ってノイエの応援をする。
うむ。そもそもノイエの応援をする人に悪い人は居ない。あの悪魔は例外だ。存在が邪悪だから仕方がない。
「そんなことないし~。私はとってもピュアだし~」
「生焼けのあれか」
「それはレアだし~」
遠巻きに逃げつつも悪魔もノイエの応援をしている。
うむ。まあ応援しているから重力風船もハリセンボンバーも使用していない訳だ。
確かにホリーが言う通り僕はノイエ関係になると激甘ちゃんである。自覚しているがしょうがない。だってお嫁さんが可愛くて可愛くて愛おしくて仕方が無いのだ!
だから迷うことなく声を大にして言える。ノイエのことを愛していると。
ただウチのお嫁さんは先ほどからぼんやりしながら……あれ? あのパターンはちょっと拙くない?
「悪魔よ」
「何さ?」
僕の焦りに気づいたのか悪魔が一瞬で近づいてきた。
「ノイエのあの様子は?」
「どうやらお兄さまも気づいたみたいね」
「つまり?」
「ええ」
何と言うことでしょう。気づけばノイエさんは……言葉にするのも恐ろしい。
何故なら現状僕らには手持ちがない。つまりノイエに与えるべき食料が無い。
「どどどどど~するの?」
慌てていたから軽く噛みまくってしまったよ。
「……現地調達?」
腕を組み悪魔がそんなことを。
だが思い出して欲しい。こんな荒野で現地調達なんて……あれか。
僕と悪魔の視線が静かに動いた。
視線の先に居た生き物がビクッと全身を震わせ僕らの方を見る。
ノイエの非常食……ではなく、ファシーの眷属らしい存在のニクだ。リスのニクだ。
「だが食べる部位が少なそうだぞ?」
「それが問題なのよね」
うんうんと頷いているニクは普通のリスよりもはるかに大きい。サイズで言えば猫クラスに巨大だ。あそこまで大きいとリスと言うより別の生き物にも見える。あれだあれ。スカンク?
ただそれでも食料として考えると小さい。ノイエならあれを丸焼きにしたとしても一口だ。
「どうする?」
背に腹は代えられないとも言うし……ここは多少無理をしてあれを焼くか?
「ただ貴重なカメラマンを失うは痛手なのよね」
「うむ」
「意外とあれって有能だし」
僕らの視線を受けるニクが手にしている水晶玉を見せつけながら『自分やります。任せてください』的な熱い視線を送って来る。
確かに小柄で優秀なカメラマンは重要だ。何よりあれは僕らと一緒に前線に立ち向かうことのできる勇敢な存在だ。戦場カメラマンだ。
「普段は宝玉持ちとしての仕事もあるしね」
言われれば確かにだ。普段のニクはカメラマンとしてではなく宝玉を持って歩くのが仕事だ。
あれ? カミーラが使って戻った宝玉はどこに?
「あれなら現在私が確保しているわよ」
何処にしまっているのかは聞かない。コイツのエプロンの裏は謎だ。と言うかユニバンスのとあるメイド一派は全員が習得しているとも言われている特殊技能だ。気にしたら負ける。ツッコんでも負ける。スルーだ。僕は大人だからエレガントにスルーできる。
「何で確保した?」
「決まっているでしょう? お姉さまが抱えると魔力を吸収して、するとお姉さまの祝福が発動して、となるとお姉さまがお腹を空かせるのよ。それを回避するために私が預かっているわ」
「……」
良く分からないが僕は思わず悪魔の頭を撫でていた。
見えないところで色々と考えて行動していたんだなお前って奴は。
「当り前でしょう? お姉さまの魔力が枯渇したら一番困るのは私だしね。痛い痛い」
前言撤回し悪魔の頭を掴んで握り込む。このまま潰れて脳しょうをぶちまけてしまえ!
「いやぁ~! 出ちゃうっ! ポーラの下からポーラがいっぱいっ!」
意味が分からんが何となく分かってしまうので出すなっ!
拳で両方から頭をグリグリに変更しつつノイエを確認する。
ヤバい。サスサスとお腹を撫で始めているぞ!
「お兄さまっ!」
「合点!」
ああなるとノイエは坂道を転げ落ちるかのように一気に来る。
「ノイエっ!」
「はい?」
顔だけこっちを向けて来るノイエのアホ毛が若干へんにゃりしている。拙いぞっ!
「もうやっちゃって!」
ここはイケイケだ。ブレーキなどはない。アクセル全開だ!
「ダメ」
「どうしてっ!」
ここで動かないと君は絶対にお腹を空かせて動かなくなる。
「ご飯が来るから」
「はい?」
ご飯が来る?
首を傾げる僕らにノイエは視線を巡らせ一点を見つめる。すると黒い雲を突き破りそれが降って来た。真っ直ぐ僕らに向かって。
「結界を抜けるとか~!」
『結界何それ?』な感じで飛んで来たそれが地面と激突する。
運良く僕らを避けるように左右に1つずつだ。
「卑猥っ!」
「これは霊的な防御であって」
「使えね~な!」
「酷すぎるであろうっ!」
事前に説明していないお前が悪いと言うことだ。
で、何だ? 何が飛んで来た?
「これってペガサスだーね」
「だね」
グチャッとまではいっていないが、いい感じでグチャッとしている姿は間違いなくペガサスだ。
何故なら馬の体と羽根が確認できるから間違いない。
「何でペガサス?」
疑問に首を傾げる僕の背後に何かが張り付いた。
「それって確かユリーの部下の?」
人を盾にして覗き込んで来た変態がそんなことを言う。
つかお前って奴は迷わず僕を盾にしていないか?
「そんなお兄さまも私を盾にしている自覚は?」
「ない」
「あっそう」
やれやれと肩を竦める悪魔の様子にイラっとしたので頭グリグリをちょっと強めで。
「それでユリーさんの部下って逃げる途中の変態たちをあの雲から救っていたと言う?」
「はい。ちょくちょく横切ってくれて……」
そんな人たちが乗っていたペガサスだけがこのような姿で……。
僕と変態は互いに顔を見合わせ、とりあえずこっそりと拳の間から逃れようとしているお馬鹿な悪魔をガッチリとハードキャッチ。
「イタタ。痛いって」
僕のハードキャッチから逃れられるとでも思っているのか?
そう。ハードと言う部分が大切です。
心を鬼にして全力でグリグリとすることこそ愛情なのです。
「そんな愛情なんて要らないわ。私はトロトロになるまで甘やかされて、痛い痛い」
「ドロドロになるまで挟んでやろうか?」
「いやん。お兄さまったら怒っちゃダメだぞ」
馬鹿が僕の股間にお尻を擦り付けて甘ったるい声を発して来る。
確定だ。この馬鹿は何かを隠している。隠し事が多すぎてどれだか分からないが何かしら隠しているのは確定だ。
「ゲロッと吐いてみようか?」
「そんな……こんな幼いポーラちゃんを辱めて何が楽しいと言うのっ!」
「少なくとも僕の溜飲が下がるかな」
「のお~!」
一気にグリグリを強めたら悪魔が全力で僕の腕をタップして来た。
降参はどうでも良い。正直に言いなさい。正直に。
~あとがき~
基本嘘つきでノリの軽い刻印さんは…誰ほど秘密を抱えているのやら。
ようやくノイエがやる気になったのに、遂に訪れてしまった最大級の問題…空腹。
どうする? ど~するの?
© 2023 甲斐八雲
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