違う違う。そうじゃないっ!
神聖国・都の郊外
「さてと。話もまとまったし私はそろそろ」
「ちょっと待って」
帰る気満々のホリーを呼び止める。
まだ帰さないよ? というか僕の子供を妊娠することで三大魔女の貸しを消費して良いの? 勿体なくない? あれ? 何故かブーメランが僕のハートにクリティカルヒットした感じが?
大丈夫。悪魔のコレクションは僕を満足させる一品のはずだ。そうだろう?
「何かしらアルグちゃん?」
「帰るの?」
「ええ」
迷いがない。むしろキョトンとして……何故かその表情がトロンに変化した。
「もうアルグちゃんったら仕方ないわね。ちょっとあっちで」
「違うからね」
ビックリだ。ちょっとあっちに行って何をする気かと。
「やることがあって出て来たんじゃないの?」
「だからあっちで」
違うからね? あっちで何をする気なの? というか途中で今にも死にそうなマニカが居るけどあれはスルー? ホリーなら蹴り飛ばして退けてしまいそう気もするが。
「何しに出て来たのさ」
「だからアルグちゃんと」
「今してもノイエだからね? ノイエの体だからね? 何よりその体は知ってるでしょう?」
「そうだったわね」
残念ながらノイエの体は祝福の関係で妊娠できない仕様になっている。
「そう言うことかっ! 悪魔っ!」
「何よ?」
パンパンと手を叩いて変態に何かをしていた悪魔が振り返った。
最近コイツの記憶の消し方が物凄く大雑把な気がする。
「貸しの全部を使用してノイエが妊娠できるようにすることは?」
「不可能よ」
「使えね~。この糞魔女マジで使えね~」
「ちょっと聞き捨てならないんですけど?」
プンスコ怒って悪魔がこっちを威嚇して来る。
何故かその立ち姿が怒れる大アリクイのようだ。時折見せる愛らしい姿だ。
「……何で頭を撫でるのよ。ちょっと姉さままで?」
「ごめん。なんか可愛かったから」
ホリーと2人で悪魔の頭を撫でて怒れる気持ちを和ませた。
「やっぱり無理か」
「無理ね~。ぶっちゃけ祝福のシステムって謎なのよね」
君に解読できないシステムとかあるのかね?
「頑張って干渉しろよ」
「やってみたことはあるんだけどね~」
悪魔が大変遠い目を。その視線は何処に向いている?
「研究に犠牲って、ふにゃ~」
言葉の続きが危ないと判断し、悪魔の頬を摘まんで左右に引っ張った。
犠牲というパワーワードが出て時点で想像はつく。お前という奴は本当に。
「何で人が死ぬんだよ?」
「失礼な。死んだのは……」
指折り数えだす悪魔の姿が普通に怖い。
「二桁にはのってないわ」
「あん?」
「ちなみに廃人は除外して良いわよね? 生きてるし」
「無理あるだろう?」
「まさか……それを認めたら二桁到達ね」
「お~い」
ここに人の屑が居る。
「私も若かったってことよ」
「おいおい」
それで片付けたら被害に遭われた人たちが可哀想すぎるでしょうに。
「結論としては流石の私たちでも祝福に干渉することは出来なかったわ」
ちょっと待て。私たちって……被害者の数は君たち全員で二桁なのか? それとも一人当たりが二桁なのか? こっちを見て説明しろ。全力で視線を逸らすな。
まあ良い。過去の話だしね。
「つまり?」
「お姉さまの体は私でも治せないってことよ」
「使えないわ~」
「何おう?」
また悪魔が威嚇して来る。
が、二度目なので今度は可愛がったりはしない。
「なら仕方ない。さっさと向こうの人たちの記憶でもあれしておきなさい」
「へいへい」
肩を竦めて悪魔がその他の人たちの記憶を改ざんしに行く。
「なら私も」
流れるような様子でホリーも帰ろうと、
「だからホリーお姉ちゃん」
「何よ?」
本気で帰る気ですか?
「ただ話を聞きに来ただけなの?」
「……」
ホリーが小さく首を傾げてポンと手を叩いた。
「忘れていたわ。ノイエの横着を調べに来たんだった」
「横着?」
「そうよアルグちゃん」
ホリーが指を伸ばし僕の鼻先に触れる。
「いつも言ってるけど貴方はノイエを甘やかしすぎ」
「それをノイエの姉たちに言われたくないのだけど?」
「私はちゃんと躾けて居た方よ」
本当かよ?
「でも大半が甘やかすからノイエがあんな風に……」
ホリーが遠くに視線を向け……
「元々だったわね」
あっさりと視線が戻って来た。
ノイエは元々あんな風だと思います。マイペースを地で行く人ですから。
「ノイエが『したくない』とか『嫌』とか言ってる場合は、大半自分の興味が湧かないことなのよ。だから少し強く言えば渋々従うはずよ」
「強く言えないんですけど?」
「言いなさい」
「無理です」
「アルグちゃん?」
睨まれた。だがそこまで言うならホリーさん。
「お姉ちゃんが虐める」
「虐めているわけでは」
「お姉ちゃんが虐める」
「だから」
「お姉ちゃんが虐める」
「……」
困った様子でホリーが辺りを見渡し救いを求める。だが誰も居ない。悪魔が全員を集め、何かの映画のように光をピカッと照射していた。
そのパターンは知らないぞ悪魔よ?
「お姉ちゃんも強く言えないじゃん」
これが事実だ。好きな人には強く言えないのです。
「違うわアルグちゃん」
まだ否定するのですか?
「お姉ちゃんは怖いのよ」
「はい?」
「アルグちゃんに対してどこまで強くして良いのか……ハァハァ」
興奮し始めたホリーを抱きしめて優しく相手の背中を撫でる。
ハグって相手の緊張を解きほぐす効果があると聞いたことがある。だからホリーお姉ちゃんも一回落ち着こうか? 落ち着くんです。深呼吸して……はむはむと僕の首筋を噛みつつ股間に手を伸ばさない。だから落ち着きなさい。深呼吸が大切です。
「お姉ちゃんはとっても優しいのよ。分かった?」
「色んな意味で理解しました」
ホリーお姉ちゃんの大半は優しさで出来ています。一部の狂気を包み隠すように優しさが存在しているのです。その狂気は出来るだけ表に出さないようにね。
「そうだ。アルグちゃん」
「はい?」
ハグを解除すると……腰に回している腕を解きなさい。出来ればそれよりも先に股間にあてがっている手を退かしなさい。
「ノイエに強く言えないのなら理攻めをすれば良いのよ」
「無理っす」
「なら言葉攻め?」
「もっと無理」
そもそもノイエは自分の都合の悪いことは耳を塞いで逃げますので。
「でもノイエを説得しないとあれを倒せないのでしょう?」
「倒すの? 必要あるの?」
「ええ。まあ倒してあげなさい」
ホリーは悪魔に視線を向けてため息を吐く。
たぶん先ほどの交渉で口をつぐむことになった関係もあるんだろうけど、ホリーの様子からしてろくでも無い気がする。
うん。聞かないでおこう。絶対に僕が不幸になる類のあれな気がする。
「つまりホリー的にはあれを退治した方が良いと?」
「退治しないとダメな類よ。だから絶対にやらして」
「どうしても?」
「どうしても」
「ん~。ノイエを説得したら僕に何をして、」
「朝から朝まで毎日ご奉仕を、」
「寝る時間を確保してくれるのなら僕は頑張らせていただきますっ!」
命は大切。命を大事に。
睡眠時間は一日7時間は欲しいです。ノイエが欲しがると毎日数時間になっちゃうけどね。
「もうアルグちゃんったら恥ずかしがり屋なんだから」
決して違いますがそれで貴女が納得してくれるのなら僕はそれで構いません。
「大丈夫。ちゃんと眠らせてあげるから」
「それは」
「ええ」
キランとホリーの瞳が怪しく光った気がします。
「毎日力尽きるまで搾ってあげるからぐっすりと眠れるはずよ」
「違う違う。そうじゃないっ!」
「うふふふふ~」
笑いながらホリーの様子が変わり、表情が無に変化した。
「……うふふふふ~」
そんな抑揚のない声で笑い声を続行しないでノイエっ!
「アルグ様」
「ノイエ」
「はい」
向かい合う姿勢だったのでノイエが若干背伸びをして僕にキスしようとして来る。
が、ここで流されてはダメだ。
「ちょっとあれを退治してくれるかな?」
指先を分厚い雲に向け……ユリーさんは大丈夫なのか? 燃え尽きないの?
未だモクモクと黒い雲を吐き出しているユリーさんは普通にしている。
それはそれでマジで怖い。
「アルグ様」
「はい」
クルっとアホ毛を回してノイエが口を開いた。
「ヤダ」
ですよね~。
~あとがき~
実は頑固で我が儘なノイエはそう簡単に頷きませんけどね。
というかさっさと説得してどうにかしてくれ主人公。神聖国編が終わらないw
あと20話ぐらいで終わる予定なんだけど…無事に終わるのかな?
神聖国編が終わったらユニバンス国内の話の予定です。
あくまで予定です。たぶんきっとの類ですw
© 2023 甲斐八雲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます