メイドですが、何か?

 神聖国・都の郊外



 ちょこんと正座している悪魔を僕とノイエで囲う。前後を押さえて逃げられないようにだ。


 先生は『ノイエが頑張るように説得しなさい。一応私からも言っておくから』とだけ告げて戻ってしまった。

 残念無念。先生を辱めたかったがまたの機会だな。


 で、問題はこの悪魔だ。


 後ろ手に両手を縛り腰にも縄を回して逃走しないようにしている。

 これでも逃げ出すのが悪魔だから、縄はノイエに握って貰っている。ぼーっとしているがノイエならば絶対に逃がしたりしない。


「兄さまっ」

「はい?」

「こんなに縛られたらポーラのポーラが何かに目覚めちゃいますっ!」

「そうか。ならまず現実に目を向けて命乞いから始めると良い」

「へっ?」


 そう何度も僕がお前の馬鹿トークに乗るとでも思ったか?


「ノイエ」

「はい」

「その馬鹿を高い高いして」

「地に伏して土下座からっ!」


 額を地面に押し付け悪魔が懇願して来た。


 ノイエの高い高いが余程怖いと見える。

 まあ怖いよな。ほぼ打ち上げからの自由落下だしな。


「それで私は兄さまに何をすれば許されるのでしょうか? 足でも舐めますか? 三本目の足でもっ!」

「ノイエ。その馬鹿を軽く踏んづけてあげて」

「はい」

「ひぃぃぃ~。ブーツの底がゴリッとお尻にっ!」


 無表情ままで悪魔のお尻を踏みつけるノイエの図。これはこれで一種の絵画だな。芸術だと思う。


「だが姉さまは優しい人だから妹の私にこれ以上の暴力は振るわない」


 地面に押し付けていた顔を上げ、悪魔が事実を述べて来る。


 確かにその通りだ。ノイエの半分は優しさで出来ていますからね。あと半分は謎ですが。


「故にこうして土下座の屈辱さえ我慢すれば私は決して負けない」

「ノイエ。ちょっとグリグリと」

「……」


 反応が無い。やはりノイエの大半は優しさで出来ているか?


「私は負けない。何故なら私には優しいお姉さまがっ!」

「これを踏めばいいのかしら?」

「はい?」


 迷うことなくノイエが妹を拘束している縄を引っ張りその尻を踏みつける。


「イタタ、イタ……あの~姉さま?」

「何かしら?」

「ちょっと痛いんです、が?」


 ゆっくりと振り返った悪魔がその動きを凍らせる。


 何故ならノイエの髪が青いからだ。そして悪魔の顔もまた蒼くなる。


「あら? 少しだけ気分が良いわね?」

「あっあの~? 姉さま?」

「何かしら?」

「ぐふっ」


 ガシッと悪魔の尻を蹴りつつ、縄を引っ張り上げるノイエ(仮)はその雰囲気を変えている。


 もうぶっちゃけ女王様だ。そしてそんな女王様スタイルが似合うのはマニカかホリーの2人しか僕は知らない。


「ホリーさん?」

「何かしらアルグちゃん」


 満面の笑みを浮かべてノイエでは無くてホリーが振り返る。


 うん。間違いない。やっぱりホリーお姉ちゃんだ。


「ナイスだよお姉ちゃん!」


 親指を立てて僕は右腕を突き出した。

 何て完璧超人なんでしょう。 余りの素晴らしさにちょっと泣きそうだよ。


「そこの悪魔が虐めるんだよ」

「そんな事実は、」

「そうなのね?」

「ちがっ」


 ガツッと悪魔の尻を踏みつけ、少し顔を上げたホリーが握っている縄を手に巻き付けてより一層引っ張る。

 お尻を踏まれて下半身が動かせない悪魔がギリギリと上半身を起こした。


「私のアルグちゃんに何か酷いことでもしたの?」

「してませんっ!」

「そう」


 微かに頷いて増々縄を引く。


「何で~!」


 容赦ない攻めに悪魔の悲鳴が木霊する。


「それは当たり前でしょう? 貴女の意見は聞いただけで私はアルグちゃんの言葉しか信じないからよ」

「自称弟への愛が深すぎて流石の私も全身の鳥肌が止まらない~!」


 心配するな悪魔よ。僕も全身の鳥肌が止まらない。


 薄っすらと笑みを浮かべて出来の悪い妹を躾ける感じが半端ない。

 でもあれがホリーの本質なんだろうな。自分が家族と認めた相手に対しては甘々なんだけど、家族以外に対してはトゲトゲだ。ヤンデレとかツンデレとか言うジャンルで括るのが難しいタイプである。


 ひと言で言うと愛が深い。


「待って待って! 私は本当に兄さまに何も悪いことは、」

「していないという認識で、相手に対して酷いことをしている場合もあるのよ」

「それを貴女が言うっ!」


 尻を踏まれて縄を引かれる悪魔の言い分は分かる。分かるが君はホリーを分かっていない。


「私が何か悪いことでも?」

「自分の行動を認識していませんでしたっ!」


 その通りです。だってホリーの今の行動は無自覚なんだろうから。

 無自覚のままに刻印の魔女とか言う未知の生物を踏みつけ女王様をする。流石ホリーだよ。


「あのお姉ちゃん?」

「ちょっと待ってて。この馬鹿を躾けるから」

「あっはい」

「止めようよお兄さまっ!」


 無理。だって無理に止めて矛先が僕に向いたらどうするのさ?


 そんな勇気を僕は持ち合わせていません。何故なら僕は強いヒロインに守られる系の主人公キャラを目指していますから!


 僕ほどこの立ち位置がお似合いの存在は居ないと思います。何なら主人公の立ち位置ですら譲っても良いと思います。こうなったらヒロインキャラでも良いんだからね!


「兄さま……流石にそれは男として何かが終わっている気がします」

「冷静にツッコむな。泣くぞ?」


 冷めた顔して冷徹なツッコミを入れてきた悪魔の視線がとっても痛いのです。


「私のアルグちゃんに厳しい言葉を言える立場なのかしら?」

「うっほ~! 出ちゃう! ポーラのポーラが何かに芽生えて何かが出ちゃうっ!」

「血反吐だったら喜んで溢れさせてあげるわ」

「容赦のない言葉が姉さまの口からいっぱい溢れて来た~!」


 意外と元気だな、君は?


 まあビジュアル的には躾けられているメイドでしかないからな。

 R18で『メイド 折檻』で画像検索したらよく見る類のモノだ。そう考えるとメイドって個性が少ないんだな。


「メイドは個性じゃなくて属性だからっ!」


 確かにその通りでした。


「にゃんっ! あふっ!」


 ただホリーは躾の手を緩めない。

 確りとメイドを調教する素晴らしいご主人さまです。


「私が外に出ていない間にアルグちゃんに迷惑を掛けるだなんて……自分の立場が分かっていないようね?」

「メイドですが、何か?」

「メイド風情が偉そうに」

「なふ~」


 またホリーの蹴りが。


 ただユニバンスだとメイドの地位が……高いのはハルムント家印の戦闘メイドか? ただあそこは戦闘特化だけじゃないんだよな。意外と経済特化タイプや家事特化タイプなども居たりする。


 うん。今度経済特化のメイドを借りたい気もするが……ウチにはポーラが居るから必要ないらしい。何故ならあの子は叔母様が後継にと指名するほどの戦闘特化の万能タイプらしいしな。


 何そのチート?


「そっか」


 それに気づいてポンと手を打つ。


「ホリーにメイド服を着せて経済特化と名乗らせれば?」


 勝てる! 間違いなく僕は勝てる。何に勝つのか良く分からないが勝てる!


「もうアルグちゃんたら……貴方が望むのならお姉ちゃんどんな服でも着てあげるんだから」


 迷いがない。迷わず満面の笑みでそんな爆弾発言をしてくる。


「裸にエプロンを着てと言ったら」

「今? 後で?」

「そっち?」


 深いよ~。ホリーの愛が本当に深いよ~。


 ただこれほど愛されるのも悪くない。普通な人なら恐怖を感じるかもしれないが、僕としてはここまで愛されることも悪くないと思うのです。


 うん。相手の重すぎる愛を受け入れられる男でありたい。


「今度、本体でお願いします」

「分かったわ。その時はアルグちゃんを材料にいっぱい料理してあげるから」


 あら? 僕ってばお姉ちゃんに料理されちゃうの?


「そのためにはあの猫に勝たないと……うふふふふ。あはははは。あ~っははははっ!」


 あの~お姉ちゃん? 笑いながら小柄のメイドを折檻するとかビジュアル的に色々と終わっているような気がしますが、宜しいのでしょうか? ねえ? お~い。




~あとがき~


 ホリーお姉ちゃんは自分が家族と認めた相手に対しては甘々です。

 ですが家族で無い者に対しては厳しいので…見ろ。刻印さんがR18で調教されるメイドのようだw




© 2023 甲斐八雲

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