ビビっと来た~!

 神聖国・都の郊外



「ビビっと来た~!」

「足でも攣ったか?」

「ちっが~う!」


 馬鹿な悪魔が大絶叫したのでとりあえずツッコんでおいた。

 口は動かさなくて良いからまず手を動かせと言いたい。


「戦いよ! 新たなる戦いの空気がっ! ぷんぷんと!」

「はいはい。分かったからさっさとしてくれる?」

「受け流すな~!」


 吠えつつも悪魔は手を貸してくれる。


 マニカの両足から下着を取り外し……そこで視線を背けたので何が行われたのかは知らない。僕は知らない。拭き清めて下着を新しいモノにしたわりには時間が凄くかかったような気もするが知らない。途中マニカの吐息が荒かった気もするが知らない。


 何故なら見ていないからだ。今回に限り本当に見ていない。


 代わりに山となっていた蛇が首だけを……蛇の首って?


 頭から見て胴体までの残り少ない部分だけとなったあの巨大な蛇の僅かに出ていた頭部らしき部分がガンガンと大揺れしている姿を見ていたら見逃しただけだ。

 語弊があった。見る気は無かったから見逃しではない。

 きっとノイエが何かしているんだろうな~と生暖かく見つめていたら、マニカの方が終わっただけだ。


 僕はただ彼女の脇の下に両手を入れて上半身を起こしているだけの台座みたいな存在でしたから。間違いなく問題無いはずだ。何がとは聞かないこと。大丈夫。見ていなければ問題無い。音など勝手に聞こえて来る者だから不可抗力だ。


「で、悪魔よ」

「何よ?」


 そろそろ視線を戻しても大丈夫か?


 ただこの悪魔は信じるに値しない存在だ。もう少し揺れる蛇の頭らしきものを……あっ! 縦に亀裂が入ってパッカーンと割れたぞ?


「新しい戦いって?」

「ふふり。決まっているわ」

「何が?」

「都に向かった女王たちが即位するにあたり戦果を挙げる。それって必要でしょ?」

「ま~ね」


 確かに必要かな? ただ右宰相の派閥と戦ってもね。


「解放的な争い?」


 支持が無いと失敗するよ?


「あ~大丈夫。あの右宰相も人間辞めてる系だから」

「そうなの?」


 あの厚化粧爺も?


「そうなのよ。つかさ~。どうして人間って不老不死を望むのかしらね?」

「知らんがな~」


 人が不老不死を望む理由か……それはあれじゃない?


「死ぬのが怖いからでしょ?」

「やっぱりそれか」


 大きなため息が聞こえて来る。もうそろそろ大丈夫か?


 だが相手の言葉を信じ何度騙されたかを思い出せ。悪魔がマニカにしたであろうことは全て彼女からの報告だ。それを鵜呑みにして悪魔を見たら……否、その為の保険として僕はずっとマニカの上半身を支えている。悪魔はマニカの体勢を弄ることはできない。


 つまり悪魔を見て何かしらのエロいトラップに嵌る可能性は大いに低いと言うことだ。


「当り前だけど生き物って生まれた瞬間から死に向かって進んでいくのよ。永遠なんて言葉は幻想であって誰もその法則を破ることはできない」

「と、何百年と生きている存在に言われてもね~」


 お前は一体何百歳かと聞きたくなるわ。


「私の場合はただの長寿よ。不老……と言ってもある一定まで歳を取れば老いは止まるからね。それに不死ではないからいずれ死ぬしね」

「死ぬんだ」

「死ぬわよ」


 その事実にビックリなんですけど?


 ただお前の場合はプラナリアとかと一緒で、死んだとしてもまた生まれ変わって来そうだけどな。


「私のことを何だと思っているの?」

「現存するびっくり人間」

「……あながち間違っていないから反論しにくいわね。でも私だって死ぬわよ? この子の体が致命傷となりえるダメージを受ければあっさりとね」

「や~い。ペチャパイ」

「ぐふっ……精神的大ダメージは命の火が消えかけそうになるわ」


 それは知らん。


「何より妹のコンプレックスを弄ばないでくれる? アンタやっぱり巨乳好き?」

「ん~。嫌いではないけど、別に貧乳も好きだよ?」

「何よそれ?」


 分からないのかね悪魔くん?


「つまりマッチョであれば全てを許せる君と同じだよ」

「ちっが~う!」


 悪魔から魂の叫びが……違うの?


「私は細マッチョ好きよ!」


 かかったな?


「へいへい。悪魔さんよ」

「何よ?」

「細マッチョの定義とは?」

「な、に?」


 どうやら相手も気づいたらしい。


「ここに身長1m50cmの男性と2m越えの男性が居ます。共に細身でマッチョです。が、2人のマッチョは共に細マッチョなのか?」

「……」

「小さな男性の方は細マッチョに見えるでしょう。ですが2m越えの男性のマッチョは細マッチョに見えるのか? 否、断じて否だ。何故なら2人の筋肉量を数値化した瞬間、長身の男性の方が筋肉量が多いと言う訳だ。つまりこの世に細マッチョなど存在しない! 等しくマッチョだ!」

「異議あり! それは詭弁だわっ!」


 ほほう。ならば弁解してみせよ。


「そもそも筋肉量の数値化が間違っている。身長……つまり2人の体積が同じでなければ!」

「ふむ。ならば同じ体積であれば問題無いと?」

「そうよ!」


 語るに落ちたな悪魔よ!


「その場合、普通の体型とガリガリの若干筋肉質な男性とに分かれるが構わんな?」

「な、に?」

「忘れたのかね? 筋肉とは鍛えれば重くなり引き締まるもの。つまり体積が同数であればガリガリが出来上がるのだよ」

「そんな……」


 勝ったな。


「つまりこの世に巨乳も貧乳もない。等しく平等に胸なのである」

「くっ……完敗だわ」

「分かってくれたか」


 勝利を確信し視線を巡らせ悪魔を見れば、


「あら? 綺麗な巨乳」

「ふっ」


 勝ち誇った表情を浮かべ、こちらに対して鏡を構えた悪魔が居た。

 そして彼女が持つ鏡には、あられもないマニカの裸体が写り僕の方へと向けられている。


「私に勝とうだなんて百年早いわよお兄さま」

「ぐっ」

「この胸が何ですって~?」


 えっと……体積を数字で考えればただの脂肪では?


「ならその事実をお姉さまにも、」

「負けを認めさせていただきます」

「分かれば宜しい」


 悔しいが今日の所は僕の負けと認めよう。


「で、お兄さま」

「はい」

「ちょっとガン見しすぎでは?」

「はっ!」


 いやだからマニカは性格に難があるだけで、それ以外は本当に完璧超人なんだよ~!


 そんな裸体が見えたりしたらガン見してしまうのが男の悲しいサガなだけです。サガなのです。


「あっそう」


 ニタニタと笑う悪魔に……完敗した気分が半端ないっす。




 落ち着け娘よ。


『蹴りは鋭く』


 その通りかもしれんが鋭すぎやしないか? ほら? 今、我の頭部で響いてはならない感じの音がしてな、キュッと膀胱が縮む感覚に襲われたのだが?


『蛇さんの膀胱はもう無い』


 宣言しないで! 言い切らないで!


『ない物ねだりは悲しいだけ』


 お前って娘は本当に容赦が、今グチャって音が!


『ちょっと楽しくなって来た』


 娘? 当初の目的を忘れてやいないか?


『蛇さんの頭を蹴り壊す』


 間違っているぞ! 壊しちゃダメっ!


『蹴って小さくする』


 そう。その通りだ。


『だから壊す』


 そこ~! 極端すぎると言っているのだ! お前はもう少し途中の過程をだな、


『結果が大事』


 そうだけど~!


『あっ』


 あって、なに? どうなったの?


『大丈夫。蛇さんが頑張れ』


 全力で放り投げて来ないで~!


『蛇さん我が儘』


 どっちが~!


『仕方ない』


 何がどうした? どうなったの?


『壊れろ!』


 結果を求めすぎ~! パッカーンって、今パッカーンって!


『勝った』


 何に勝ったと言うのだ娘よ!


『蛇の頭』


 さん付けを辞めてしまうのね~!


『アルグ様は亀の頭って言うと怒る』


 娘がそんな言葉を軽々と口にしちゃダメなのだっ!


『どうして?』


 それはあれだ。年若い娘が軽々と口にして良い言葉で無くてな、


『でもアルグ様のは好き』


 お前分かって口にしているだろう~!


『はい。困るアルグ様も好き』


 その趣向はどうかと、


『蛇さん』


 何だ?


『頭が二つに割れた』


 やっぱりか~!




~あとがき~


 マニカの後始末をしている刻印さんと主人公…こいつらは本当に平和だな。

 そして蛇の頭を蹴っているノイエは…こっちもこっちで平和そうです。


 ピンチなのは蛇さんだけですなw



 連休付近が過密スケジュールになって来たので事前に投稿予定を発表しておきます。

 14日・17日・20日で、22日から通常のペースに戻ります。

 ストックが作れていればペースを維持できるんですが、2日で1話が現状精いっぱいです




© 2023 甲斐八雲

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