暗黒面を表に出すな~!

 神聖国・謁見の宮



 撤退を指示してとんずらマジむかつく……俳句にもならんな。


 でだ。そろそろあのトラブルメーカーに天誅を食らわせるべきだな。そう思うだろう?


 アイコンタクトでポーラに訴えかければ、何故か我が家の妹様は頬を赤くさせて恥じらい出す。


「へいきですにいさま」

「はい?」

「なにをされてもわたしは、もごもご……」


 僕の気持ちを察してくれたはずなのに、その言葉に危険を感じた。

 今は黙って妹の口を塞いでおこう。


 さあ問題です。悪魔が『逃げ』の一手を命じて来た。

 これが正義心とかが溢れる主人公キャラなら抗うのだろうが、僕の心にそんな物は無い!

 流されるがままに逃げる方向で全力を発揮したいと思います。


「ノイエ」

「ん~」

「頑張れる?」

「ん~」


 残念ながら本日のノイエはやる気というモノが全く存在していません。

 と言うか鈴の音が一番響いているのがノイエであろう。


「ならポーラ」

「んっ」


 何故か妹様が口を塞いでいる僕の掌を舐めているのですが……ポーラさん。最近何か吹っ切れることでもありましたか?


 軽く掌を押して相手の舌を黙らせ、僕はもう一度ため息交じりに口を開いた。


「ちゃんと聞かないなら国に強制送還です。了解?」


 コクコクとポーラが頷いたので、今一度掌を緩める。


「それで悪魔が持っているという、ここから逃げ出す魔道具って?」

「……」


 大変静かになったポーラが何も答えない。

『沈黙は金雄弁は銀』だったっけ? どっちにしても金銀が得られるなら問題無い気がするんだけどね。


「ポーラさん」

「……」


 沈黙が痛々しいです。


「今なら全てを悪魔のせいに出来ますよ」

「……はい」


 観念したポーラが全てを暴露した。

 簡単に言えば『そんな物は無い』ということだ。

 厳密に言えばこの空間で使える魔道具は存在しているとか。ただ効果的な魔道具は無い。


「おひ」

「……」


 思わずツッコんでしまったが別にポーラが悪いわけではない。

 だがどうしても許せないから妹のモチモチほっぺを左右に引っ張って怒りを解消する。


 まあ良い。つまりここからは僕が頑張るしかないらしい。


「女王」

「なんである?」

「とりあえず決別って方向で話が進んでいると思うんだけど……帰っても良いっすか?」


 相手をいい感じに怒らせる方向に話を持って行くしかない。

 癇癪起こして『戦争だ!』とか言ってくれれば、本国の人たちが頑張ってくれるだろう。

 うん。頑張れ。


「そうかえそうかえ」


 鷹揚な声を発して来る相手からは怒りを感じない。余裕が半端無いな。


「決別したとしてどうするのかえ?」

「それはそちらが決めること。戦争がしたければどうぞ」

「なるほどなるほど」


 やはり余裕だ。余裕しか感じない。

 何かこっちがミスるような……何となくポーラの頬を強めに引っ張った。


「話し合いを止めて逃げ出したくなったのかえ?」

「別に逃げる気は無いんですけどね。何かそっちが色々と仕掛けて来るんで帰りたくなっているのは事実です」

「そうかえそうかえ」


 うん。アカン。


「なら最後に1つだけ我が一族に伝わる口伝を聞いて貰えるかえ?」

「口伝ですか?」


 嫌な予感しかしない。

 何故なら引っ張っているポーラの頬が大変汗ばんで来て持ちにくいからだ。

 お前……実はポーラじゃないだろう?


「他愛もないつまらん言葉ぞ。少々長い詩だと思って貰えれば」

「……」


 悪い予感しかしないが、現状僕らがこの場から逃げるのは相手の話を聞くしかない。


「でしたら聞かして貰いましょうか? ただつまらな過ぎたら帰りますけどね」

「構わんぞ」


 そして女王陛下は何やら語りだした。


 内容は耳から入り脳に伝わっているのだけれど、脳みその何かがその言葉を拒絶する。


 どう表現すれば良いのだろう?


 甘すぎる何かに甘すぎる何かを足したような……たぶんどんなに探しても地球上には存在しないであろう甘すぎる口説き文句だ。

 ぶっちゃけ耳が腐る。そんな言葉を言う方もあれだし言われた方も、


「……めろ」

「はい?」


 気づけばガタガタと震えだしていた妹様も拒絶反応ですか?

 分かります。お兄ちゃんもこんな言葉を聞いていたら脳が腐って、


「止めろ~!」


 だが違った。妹様は半狂乱に叫ぶと何故か膝から崩れて床を叩きだした。


「それ以上私の過去を……暗黒面を表に出すな~!」

「……」


 何も言えねえ。


 感情に任せて何かを吐露する悪魔の言葉を解読すると……厨二病の頃に書いていた異性に言われたい言葉全集からのお言葉らしい。

 耳が腐りそうだがそう言うことらしい。


 激しく苦しむ悪魔に対し女王の言葉は容赦なく続く。


 まるで悪魔祓いのように……実際古いアメリカ映画のようにポーラの姿をした何かが悶え苦しんでいる。ブリッジをした状態で走り出しそうな勢いだ。


 そんなやり取りを生暖かく見守っていると、不意に女王の声が止んだ。


「以上……この言葉で激しく苦しむようならば、その人物は『刻印の魔女本人か、刻印の魔女を良く知る人物であろう』というのが一族に伝わる召喚の魔女の言葉である」

「なるほどなるほど」


 流石悪魔を良く知る魔女の1人だな。

 見るも無残なポーラは……強姦された後のようにしか見えないな。


「話は聞き終えたんで帰っても良いっすか?」

「帰れると思うのかえ?」

「無理っすか?」

「決まっておろう?」


 あはは……誰かが確か僕に向かってこう言ってたな。『足を引っ張るな』と。

 目の前で転がっているこの馬鹿がポーラで無ければ本当に見捨てて逃げ出すところなんだけどね。


「ノイエ」

「ん」

「僕を抱えて逃げられる?」

「……お腹空いた」


 無理だそうです。




~あとがき~


 たとえ短くても連続投稿を継続したいんです。


 刻印さんの自滅(?)によって主人公たちは逃げられそうにありません。

 さあどうする? どうなる? まあ捕まるんですけどねw




© 2023 甲斐八雲

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