みねるふぁちぇんぱひっ!

 大陸西部・ゲート傍の街



「帝国以外で戦争をするのは我が久しぶりだろうな」

「そうだな」


 酒場の一角に腰かけていた男たちはそう話しながら木製のジョッキに満たされたワインを煽る。


「アブラミの街の領主が最後まで抵抗していたとか」

「ああ。アイツか」


 若干齢を取った男が苦笑した。アブラミ領主の噂は耳にしたことがある。


「前女王陛下の忠実なしもべだった男だろう? だから現女王様に噛みついている」

「だが優秀だとも聞いたぞ?」

「だろうな。だがそれだけだ」


 どれ程優秀でも道を違えば邪魔者だ。排除され、下手をすれば駆逐される。


「女王様に逆らってずっと生きていられるわけがない。宰相様がそれを許さない」

「そうだな」


 齢の若い方が苦笑しながら頷いた。


 現宰相たちは女王陛下に忠誠の厚い人物だ。互いに女王陛下の寵愛を得ようと頑張りあっている。時には足の引っ張り合いにも発展するが、それは女王陛下を思うが余りの暴走でしかない。


「まあその宰相陛下たちの指示で我々は動くわけだがな」

「ああ」


 視線を向ければ物々しい格好をした者たちが待機していた。

 都からペガサスを使い何往復もして輸送された精鋭部隊だ。それが2部隊分も居る。


「魔法に剣にと最精鋭か」

「ああ。魔法使いはサーネとスーネの姉妹を連れてきている」

「宮廷魔術師姉妹か」


 視線を巡らせ探せば確かに居た。美しい女性が2人並んでだ。


 若干日に焼けた肌を持つ紺色の髪と同色の瞳を持つ美人が並び指示を出している。

 その周りには彼女ら姉妹を物語で伝わる“女神”と称して敬愛する部下たちが準備を進めていた。


「で、前宮廷魔術師のソーム様は留守番で?」

「違うよ」


 齢を取った男性……ソームはジョッキのワインを軽く煽って熱い息を吐いた。


「俺はゲートに注ぐ魔力部隊の指揮だ」

「前には出ないと?」

「行く必要があるのか? 俺はあの姉妹に負けたんだぞ?」


 軽く肩を竦めてソームはわざとらしく笑ってみせた。

 ただその負け試合にもカラクリがあったと話し相手の男は聞いていた。


「2対1で戦って負けたとか?」

「仕方あるまい。あの姉妹は2人で1人だ」

「なら1対1なら?」

「どうだろうね。興味無いな」


 ソームはそう言ってわざとらしく腕を伸ばして一点を指さした。


「セネヒよ。剣士と言うか実行部隊を率いるのは現ヨコヅナ様か」

「ああ」


 相手……セネヒはその声に頷いた。


 少数精鋭で最強という縛りを上から命じられ、彼が集めたのは手練れの者たちばかりだ。

 その中には女性最強ヨコヅナのシリラにオオゼキまで居る。


 それとは別に武に優れた者も集めた。

 剣に槍に飛び道具にと神聖国内では名の通った最強ばかりだ。


「それで必中のセネヒも加われば……小国相手に過剰過ぎないか?」

「どうだろうな。ただ行き交う商人が言うにはユニバンスとか言う小国は共和国と帝国を相手に一歩も引かずに存在してきたとも言うしな」

「確かにそんな噂を聞くな」


 だが所詮噂話だ。下手をすればどこかの国が仕掛けた謀略の類かもしれない。

 一番濃厚なのは長年帝国と北西の地で国境争いをしている王国か、その王国の北西に存在する辺境国も十分に怪しい。


「まあ他国の謀略とはいえ、この大陸で二番目に大きな神聖国の主力部隊だ。噂の小国がどう足搔こうが粉砕して木っ端みじんだろうな」

「だろう」


 セネヒの言葉にソームも頷く。


 ユニバンスとか言う国は運が無かったのだ。

 きっと過去の遺産でも発掘してゲートを動かしたのだろう……それ自体悪いことでは無いが、確認を怠ったことが悪いのだ。

 だからこそこうして大国に攻められる理由を作ってしまったのだから。


「さてと。そろそろ行くか」

「行くのか?」

「ああ」


 立ち上がったセネヒは懐から小銭入れを取り出し酒代を払おうとする。

 けれどそれをソームは片手で制した。


「俺の奢りだ」

「良いのか?」

「構わんよ」


 今回前線に向かうセネヒは間違いなく褒美を貰うこととなる。故に、


「帰ってきたら東の美味い酒を持って来い」

「そっちの方が高くつきそうだ」


 笑いセネヒは待機している部下の元へと走る。

 それを視線で見送ったソームは軽く息を吐いた。


 彼の仕事はもう終わっている。気絶するギリギリまで魔力を部下たちと共にゲートに注いだ。

 最精鋭の200人全てをギリギリで運べるはずだ。そうでなくては困る。


「スズネ~。これ美味しいんだけど? なにこれ? こっちの名物?」

「名物です。ガツガツ食べないでください」

「だってすこぐ美味しいし」


 ふと可愛らしい少女たちの話し声が聞こえて来てソームは視線を巡らせた。


 視線を向ければ近しい年齢の少女が2人で食事を摂っている。

 1人は神聖国の北に存在する国で暮らす者たちの服装だ。つまり地元民か。

 もう1人は余り見かけない色をしている。薄い金髪で青い目をした少女だ。

 そんな少女たちに……オレンジ色の髪をした女性が近づいてきた。


「コロネ。もう少し上品に食べなさい」

「ふぁい。みねるふぁちぇんぱひっ!」


 口いっぱいにお肉を頬張っていた金髪の少女にオレンジ髪の女性が拳骨を落とした。


 それを眺めソームは笑う。

 年相応の振る舞いは実に可愛らしいと思ったからだ。


 何よりこれからユニバンスと言う小国では一方的な虐殺が開始される。

 それを思うと胸が痛くなる。

 あの様な年端も行かない少女たちとて無残に殺されてしまうのかもしれない。


《人の業とは本当に罪深いな》


 けれどソームにはそれを拒否することも、覆すこともできない。

 古くから伝わる言葉で言うと『賽は投げられた』のだ。


 それを拾い元に戻したとしても動き出したことはもう止められない。

 きっとユニバンスと言う小国が滅んで消えるまで。


「痛い痛い。せんぱいごめんなさいっ!」

「貴女が頬張っている肉のせいで何も聞こえませんね。ちゃんと喋りなさい」

「みぎゃ~! われる! 頭がわれちゃう!」


 机と拳骨とで挟まれている少女の様子に……ソームは声をかけるべきか本気で悩み始めた。




 ユニバンス王国・王都内中央広場



「はんっ! 早く帰らないと最近小言を吐き続けるキシャーラが煩いんだけどね」

「知らないし~」


 巨躯の女が広場の中央に座り、その傍で子供ほどの背格好をした人物がクルクル回る。


「で、本当に楽しめるんだろうね?」

「知らないし~」

「あん?」


 上から睨まれ小柄な人物は動きを止めた。


「文句は私じゃなくて神聖国とかに言って欲しいかな?」

「良し分かった。つまらない相手だったらゲートを潜って直接文句を言いに行く」

「それが良いね~」


 馬車の荷台に置かれた子羊の丸焼きに手を伸ばし、巨躯の女はそれを頭から丸かじりし始める。

 オーガと呼ばれるドラゴンスレイヤーの1人であるトリスシアだ。

 傍に居るのは何故か彼女と仲の良いユニバンス王都で最も有名な問題児騎士のミシュだった。




~あとがき~


 神聖国の最精鋭がゲートを潜りユニバンスへの進軍を開始しようと…何故か西部側にドラグナイト家のメイドが居るんですけど?


 そしてユニバンス王都の中央には問題児ミシュと食人鬼トリスシアが。


 ただ現時点でアルグスタの計算外の出来事が起きています。それはオーガさんが王都に居ることです。この事実を知ったら馬鹿な主人公はこう言うでしょう。

『何でオーガさんが王都に居るの?』と。答えは本編にて。


 2000文字ぐらいで…と書いているはずが肉付けしてたら2700文字に達する謎。

 もう少しで通常の3000文字やん。そんなことをしているから睡眠時間を削り過ぎて体調崩すんですけどね。でも作者さんはこう言いたい。


 だって続きを早く読みたいんだもん!




© 2022 甲斐八雲

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