はい。アウト~!

 神聖国・アブラミ領主屋敷“女王陛下専用離宮”



「……寝る」

「おぉ~い」


 意味深な言葉を吐いてノイエがそのままベッドへ。

 どうしてまた綺麗なM字を披露しているのかを問いたい。嫌いでは無いが、君のその姿を見ているアテナさんが顔を真っ赤にしているよ?


「ノイエ」

「なに?」


 ムクッと起きたノイエは……そのリンボーダンサーも顔負けな動きは何ですか? 今の君なら世界を狙えるかもしれないね。あっ胸が大きくて無理か。


「何が起きてるの?」

「……」


 クルンとアホ毛を回し、ノイエはまた背中をベッドに預けた。


「死んでる」

「ん?」

「人がたくさん」

「それで?」

「……煩いから寝る」

「起きろ~」

「Zzzzz……」

「本当に寝た~」


 アホ毛までへにゃりとベッドに落としてノイエは寝てしまった。

 まあヒントは多かったから何が起きたのかぐらいは分かる。実力行使か。


「悪魔~」

「私は手を貸さないから」

「荷物の方だけでどうにかしてくれれば良いよ」

「了解」


 スチャッと敬礼を寄こして悪魔は閉じていた右目を開いた。


「にいさま」

「ほい?」

「どうしますか?」


 ポーラに戻った妹様が今後の行動指針を問うてくる。


 僕らが全く慌てていないのはノイエが居るからだ。彼女がその気になれば転移魔法が使える。

 使用までに時間が掛かると言う弱点はあるが、それでも護衛役としてポーラまで居る。あの曲者揃いのユニバンス王国で有力者の1人に数えられる妹様だ。どうとでもなる。


「とりあえず待機かな」

「いいのですか?」

「仕方ないでしょ」


 苦笑しながら僕はベッドの方を指さした。

 M字開脚したままで寝ているノイエが動き出す気配など無い。


「あれだしね」

「ですね」


 ポーラも納得して改めて紅茶を淹れだす。

 てっきり戦闘になるからメイド服にでも着替えるのかと思っていたが、彼女は見慣れない街娘風の服を着たままだ。


「その服ってどうしたの?」

「あれは私のお古です。お恥ずかしいですが」


 そう言えばアテナさんの存在を忘れていたよ。


 礼儀などは何処かに放り出し、ちょいちょいと手招きをして彼女を僕の居る方へ呼び寄せる。

 向かいの席に彼女を座らせると、流れるような動作でポーラがティーカップを置いた。


「あの……? 何でしょうか?」


 ジッと相手を見つめていたらアテナさんが大変恥じらう。

 ごめん。そのケツ顎を見慣れるかと頑張ったんだけどね。無理だわ。


「ちょいと話がしたくてね」

「話ですか?」

「ああ」


 椅子の背もたれに背中を預け、僕は彼女を見る。


「今からする質問は、こっちの勝手な推測なのでかなり失礼な言葉が含まれています。ですので事前に質問を1つ……質問しても良い?」

「それはどんな意味ですか?」

「だから失礼な言葉が含まれているんでね」

「……」


 アテナさんが聞きたい言葉は分かっている。

 でもその返事は出来ない。それこそが失礼な言葉であり質問の大本だ。


「だから君がどんな質問もされたくないと言うのであれば僕は質問をしない」


 誤魔化しまくりの問いかけに、アテナさんが困った様子を浮かべる。


「……質問の内容を伺っても?」

「それが失礼な言葉になるんでね。ああ。『どうしてそんなに胸が小さいの?』とかって質問じゃないから安心して」

「失礼だと思うんですけど!」


 両手どころか片腕で、すっぽりガッチリガード出来そうな胸を隠して何を言う?


「気にするな。あっちも似たような大きさで苦労している妹が居て……ポーラさん。泣きそうな顔でこっちを見ない。女性の価値は胸じゃないっていつも言っているでしょうに」


 だからって2人してノイエを見ない。

 仰向けでも自己主張の激しい双丘が崩れることなく存在しているね。うん。知ってる。


「だからまあ気楽にというのは無理かな……かなり失礼な言葉だと思うんで」

「……」


 ジッとこっちを見つめてくる相手に対し、少しは頭を使うこととしよう。


「君のあの優しいご両親にも関係する話だからかな? だから言葉選びが難しい」

「それって……」


 何か思いつくことがあったのか、アテナさんは目を丸くして僕を見た。


「私は知りません。何も見ていないので」

「はい?」


 ただし何故か顔を真っ赤にして慌てだした。


「確かに一度……よりははるかに多い数を見ました。でも私は見てません」

「何が?」


 アテナさんの背後に立つ妹様が、悪魔の表情を浮かべ僕に対して『泳がせろ』とジェスチャーしてくる。


 皆まで言うな悪魔よ。僕は分かる男だ。


「家庭教師の先生が言うには、それは夫婦の仲の良い証拠だって」

「ほうほう。それで何を見た?」

「……」


 顔を真っ赤にして俯いたアテナさんがポツリと呟いた。


「母様が父様の尻に『ピー』を入れて、鞭で」

「「はい。アウト~!」」


 思わず何かを遮るように僕と悪魔が叫んでいた。




~あとがき~


シリアス「もう俺の出番が終わりだと?」

作者さん「安心しろ。もう少しだけ続くぞ」

シリアス「それはあの伝説の長編作の振りかっ!」

作者さん「ギャグとコメディとエロが9割だが」

シリアス「お前はそろそろ本気で作品のことを考えろ~!」




© 2022 甲斐八雲

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