もうメイド辞めない?

 大陸西部・とある街道



 乗り合い馬車の1つを貸し切り、僕らは一路神聖国へと向かっている。


 ノイエはソファーで横になって器用にアホ毛で果実を掴んでは口元に運んでいる。膝を抱えてそうしている姿はダメ人間そのものだが、アホ毛を使うことで魔力が消費されるらしくノイエは何か食べ続けていないと空腹になってしまう。なら『アホ毛を動かさなければ良いのでは?』などのつまらないツッコミは僕は応じない。ノイエは好きな時に好きなようにすれば良いのです。


 そんなノイエの果実皿に果実を補充しているのはポーラだ。

 色々とあり過ぎて現在は罰を受けて貰っている。まず衣装が違う。メイド服はとある理由から没収した。今のノイエ同様にワンピース姿だ。そして頭にはたれウサギ系のうさ耳カチューシャを装備している。白いうさ耳が足れていて可愛らしい。


 何故そんな罰をポーラに与えたのかは……服装以外は気分だ。悪乗りでもある。

 厳密に言えば彼女の師が悪い。悪魔の方では無くて叔母様だ。


「ねえポーラ」

「はい」

「もうメイド辞めない?」

「にいさまっ」


 何故かポーラさんは泣き出しそうな表情で僕を見るのです。

 えっと……君も聞いたでしょう? 僕が教えたよね? それでも貴女はメイド服を着ますか?


「……ウチの一族って血縁関係なしでも問題児しか居ないのかね? って何故2人して今こっちをチラッと見た? 言いたいことがあるなら聞こうか?」

「アルグ様……する?」

「平にご容赦ください」


 ノイエの言葉には全力で頭を下げておく。

 マグロだって大変だって言うことを僕は学んだのです。一方的な暴力だってこの世には存在するのです。ノイエは特に気にした様子もなくまた果実に気持ちを向けた。モグモグだ。


「えっと……もくひします」

「ポーラさん?」


 ついでポーラを見れば空気の読める妹様は発言を辞退した。

 納得いかないが妹様がそう言うなら不快追及は良そう。何故ならここには『ユニバンス王家』の関係者しか居ないのだからだ。


「一番の問題は叔母様だと思います」

「はい」

「……もくひします」


 何も考えていないノイエは即答だ。ポーラは考えてから黙秘した。


 まあ良い。どっちにしろ神聖国との戦争か殴り合いはほぼ確定だ。

 あの国が子供を奴隷にしていると言う確証を得た今、僕の辞書から自重や遠慮なんて言葉は失せた。きっとアイルローゼだって協力してくれる。先生は何だかんだで優しすぎる人だしね。


「つかさ~」

「もぐ?」


 ちゃんと食べてから返事をしなさいお嫁さん。


「ノイエのお姉ちゃんたち的に子供に労働を強いるのって、ポーラをアホ毛で指さない。僕はもう何度もメイドを辞めなさいと言ってます」

「ねえさまっ! わたしがめいどをやめるときは、ねえさまがどらごんたいじをやめるときです!」

「……無理」


 ポーラがノイエを論破したっ! そこまでしてメイドを続けたいのか?


「わかってもらえてうれしいです」

「はい」


 姉妹の心温まる会話だったな。内容はスルーしておこう。


「で、ノイエ」

「はい」

「どうなの?」


 ノイエのアホ毛が綺麗な『?』を作り出す。

 あの姉たちは基本ストロングスタイルなスパルタ国出身の人たちだから……特にカミューとか言う生物は鬼畜の権現だから子供を働かせるぐらいじゃ怒らないかな? 聞くだけ無駄だったかな?


「アルグ様」

「はい」


 気のせいかノイエの表情が普段の三倍増しぐらいで無に見える。


「言葉が出ない」

「はい?」

「言葉を知らない」

「……頑張ってみて」


 捻り出してくれないと通訳すらできません。

 うねうねとアホ毛を動かしたノイエは……ゆっくりと口を開いた。


「私も生きたままの牛は食べない」

「何となく分かった気がするよ」


 やっぱりカミューが悪いんだ。ノイエの目の前で何をしているあの馬鹿は?



『馬鹿に躾をしてやったまでよ。殺してないだけマシでしょ……お前は別だけどね』



「知るか阿呆。次に会った時がお前の命日だ」


 馬車の天井に向かって『ガルル』と吠えておく。

 本当にどうでも良い時にだけツッコミを入れてくる存在だな? 今度会ったら絶対に泣かす!


 で、ノイエさん。横たえていた体を起こしてどうしてそんな切なそうな雰囲気を漂わせて僕を見つめているの? ポーラに至っては両手を合わせて僕を拝まない。まだ負けてはいない! きっとどうにかすれば勝つ手段もあるはずだ!


「まあ良い。とりあえず神聖国には……地獄を見てもらうかな」


 僕の中ではそれがほぼ決定事項となっていた。


 あんなことを知ってしまった以上仕方ない。僕はたぶん叔母様と感性が似ている。




 とある小国の王都・宿屋の食堂



「お初にお目にかかります。私は……名前など覚えて貰わなくても構いません」

「良いのですか?」

「ええ。それに貴方も色々と探られたくは無いでしょう?」


 僕の向かい側に座った老女ははっきりとした口調でそう告げて来た。

 確かに色々と探られると痛い腹ですけどね。なにぶん秘密が多いモノで。


「何よりもう少し特徴を消して姿を隠した方が良いと思います。おかげで探しやすかったですが」


 クスクスと笑う相手はどうやら僕らの正体に気づいているらしい。


「他人の空似ですってことで誤魔化せますか?」

「王家に属する者には難しいかと。何よりどの国も『ドラゴンスレイヤー』は喉から手が出るほどに欲する存在ですので」

「ですか~」


 そう言えばどこかの残念サムライ娘も噂を聞いてユニバンスに来たんだったよな~。うっかりうっかり。


「で、そんな僕らに会いに来たのはドラゴン退治でも?」

「……いいえ。違います」


 静かに老女は頭を振った。

 そして穏やかで真っ直ぐな目を向けて来る。


「きっと貴方たちは神聖国に呼ばれたのでしょう?」

「さあ?」


 軽く肩を竦めてお道化ておく。

 何も知らないのか控えている中年騎士が軽く腰に手を向けるが、老女がそれを横目で制した。


「言えるわけもありませんか。なら……こちらも手札を切りましょう」


 老女は畳まれた紙を手にすると、それ滑らせ僕の前へと送って来た。

 あら凄い。シーツが掛けられているテーブルの上をこんなに綺麗に滑らせるだなんて結構な高等技術だと思う。


「これは?」

「御覧になれば」

「では失礼して」


 手に取り広げてみれば……うわ~。目が腐る。内容よりも最後の署名が僕の脳を融かす。

『スィーク』って同名の他人ですかね? 絶対にあの人ですよね? 諦めましたよ。


「彼女はお元気ですか?」

「……元気すぎてそろそろ棺桶に片足でも突っ込んで欲しいかと思う時もありますが」

「それは無理でしょうね。あの人は死ぬ瞬間まで全力で走り続ける人です」

「その通りですね」


 軽く手紙に目を通すと……これは予言の書か?

 ユニバンス最強にして最大のトラブルメーカーからの『この国に訪れたユニバンス王家の者へ』と書かれた物だった。つまり運悪く該当者が僕になってしまった。


「あの方を知る者ももう少なくなりました」

「そうですか」


 叔母様も結構な年齢だし、目の前のご婦人も相当だ。


「で、ここに書かれている通り『無償で協力するように……』ってどっちに対しての言葉ですかね?」

「あの人は特に何も申してはいませんでした」


 叔母様。後に来た人が困るような表現は避けましょう。


「ですが我が国は現在特に困ったことはありません」

「本当に?」

「ええ。あるとすれば数年おきに神聖国から粗末な肉を押し付けられるだけですので」


 あれね。その言い方からして肉の原料も知っているのですね。


 スッとご婦人が顔を上げて僕を見た。


「貴方があの人の知り合いであれば……あの時あの人が出来なかったことをしてくれるかと思いまして、声をかけたまでです」

「へ~」


 この手紙はこの国の王家の人に当てた物らしいんですけどね。


「で、ウチの“叔母様”は西部で何を?」

「……」


 ご婦人の目が細まり……そして笑みを浮かべた。


「神聖国の女王を暗殺しようとしたのです。残念ながら壁が厚くて失敗しましたが」

「ですか」


 あの叔母様でもミスることがあるのね。


「腹いせにメイド服を着たまま神聖国で大暴れして」

「はい?」


 話が終わらないだと?


「神聖国ではメイド服は着ているだけでも罰せられますので、お連れの者たちの服装には特に注意が必要です。これを知るのは近隣の王家の者ぐらいですので……助けになりましたか?」

「とっても」


 後でポーラの服を剥いて普通の服を着せよう。


「で、1つ質問しても?」

「何でしょう?」


 軽く苦笑して僕は言葉を発する。


「あのお人好しはここで何を?」


 トントンと指でテーブルを叩く。


 あの叔母様が神聖国で暴れるぐらいで止まるわけがない。

 何よりそれぐらいで目の前のご婦人が恩を感じることもない。


「あの人は……とある女の馬鹿な夫に制裁を与えてくれました」


 ご婦人は騎士の手を借りて椅子から立ち上がる。


「それ以降彼は善政を敷く王として民から讃えられましたが」


 他国でもそれをするのね。恐ろしきはユニバンス式メイド道か?


「昔からあの人はやることが変わらないんですね」

「今も?」

「はい」


 苦笑して僕も椅子から立ち上がると、退席するご婦人を見送った。

 と、逃げていたリスが手紙を持って戻って来る。


 この場では語れない事柄が書かれているのであろう手紙を持ってだ。




~あとがき~


 叔母様が西部に来た時の事柄を知るご婦人からの情報提供でした。

 こんなに真面目に終わると思わなかっただろう? 作者もだw

 神聖国にメイド服では入れないので、ポーラの服装がワンピースです。四次元エプロンはどうなるのか?


 で、昨日から作者さんの体調が悪くなって頭痛と微熱が。

 特に頭痛が酷くて会社休んで死んでます。でも小説は書くがなw

 PCR検査を…と思って病院に電話を掛け回るが、最短で1週間後という返事が。治ってない? ただ今日になって熱が下がって来たのでコロナでは無さそうかな?

 念の為に自宅で採取して~の検査キットは注文しましたけどね。


 皆様も所詮コロナと侮らずにご自愛くださいね。

 風邪は万病のもとと言うぐらいですから甘く見ちゃダメ!




© 2022 甲斐八雲

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