何か御用ですか?

 大陸西部・とある小国の王都



「はい正座」

「……」


 あの悪魔め……こんな時ばかりポーラに全てを押し付けて逃げるなと言いたい。


 目覚めてからまさかの展開が待っていた。

 それは想定していなかったが、可能性はゼロでは無かったね。僕の判断ミスとも言える。違うんだ。ただ寝る方を優先しただけなんだ。

 だってマグロでも燃え尽きるんだぜ? ビックリだ。


 ちょこんと座って居るポーラは『全部私が悪いんです。止められなかった私が悪いんです』と言いたげな感じで僕のことを見つめて来る。

 その表情はズルい。捨てられた子犬のような目でこちらを見ないで。


「だがダメです。君たちはやり過ぎたのだよ」

「……ごめんなさい」


 謝ったからまあ良いでしょう。あの悪魔だけは許さんが。


「少しは気を付けないとね」

「はい」

「だからもうカジノは禁止で」

「わかりました」


 やはりポーラだ。こうして諭せば納得してくれる。

 ただ両眼を閉じて……また開くと妹様が右目に模様を浮かべた。


「納得いかないわ!」

「出たな諸悪の根源!」

「気のせいよ」


 プリプリと怒って悪魔が腕を組む。


「ちょっと勝っただけじゃないの!」


 ほほう。あれをそう表現しますか。


「ちょっと?」

「そうよ」


 小国の貴族を1つ破産させたのがちょっとなの?


「弱いのに挑んで来た方が悪いのよ」

「その理論は分からなくもないが」


 人として引き際を間違えたのが悪いとも思う。

 思うがそれを察して少しは手加減をしてやれ。出来ない? 何故だ? 勝負事で手を抜くのは失礼だから……正論を吐くな。そっちのアホ毛も頷かない。


 ベッドで横になっているノイエはこっちの会話に興味無さそうだ。

 と言うか僕らはこんなにのんびりしていても良いのだろうか?


 分かっています。カミーラが使った宝玉の回復を待っていたら行く気がなくなって来ただけだ。

 行けば間違いなく戦争だ。僕は子供の奴隷など許せないしな。


「朝から負けた貴族が殴り込んで来て大変だったらしいよ?」

「あれ? どうして所在が?」

「何か知られてたよ」


 分かっています。本当の理由はあそこで寝ているノイエです。

 アホ毛でこっちの様子を伺っていた彼女は……何も言わずに寝がえりをうって我関せずを決め込んだ。ノイエらしい危機回避能力ですね。


 昨日宿の食堂でフードファイトしていた美人がカジノで大勝ちした人物だとあっという間に噂が広がり、そして昨晩カジノで大勝ちした白い美人が……となれば普通負けた人間はこの宿に突撃して来る。ダメ元でだ。


 副支配人さんが頑張ってくれたおかげで僕らの睡眠時間は守られたわけだが。


「それを知っていれば寝る前のお仕置きを尻叩きで終わらせなかったものを」

「いやん。とうとう犯されちゃうのね」

「……ノイエ~」


 横になっていたノイエが無反動で立ち上がり、軽く首を鳴らす。


「なに?」

「そこの馬鹿者に罰を」

「はい」

「何を……止めてお姉さま」


 それっぽい感じで抵抗する悪魔をノイエがあっさり捕まえる。

 ノイエは家族に対して優しいから……ノイエさん?


「だめです。ねえさま!」


 身の危険を感じたらしい悪魔が逃げ出しポーラに戻る。

 でもノイエは止まらない。そしてポーラの悲鳴も止まらない。

 ポーラの服をはぎ取って全裸にすると、脇に抱えてお尻を叩きだした。


「ノイエさん?」

「なに?」


 余りのことに声をかけると、ノイエは妹のお尻を叩きながらこっちを見た。

 待ってノイエ。出来たらポーラの角度を、お尻をもう少し下に……そうそうそれで良いです。それなら問題ありません。


「えっと……それは?」

「カミューが言ってた」


 はい?


「悪い子はこうする」

「……」

「何度もされた」


 ノイエもやんちゃな頃があったのね。


 それからしばらくポーラは姉からの躾を受け……最後は抱き枕の刑となった。




「お客様。動物の持ち込みは」

「家族です」

「ですが」

「家族です」


 金貨3枚でウチのニクが『家族』と副支配人さんから認識された。


 食堂の一番いい席に案内され、離れに戻る時に食事を運んで貰えるようにお願いしておく。


「お前って最近、影が薄いな」

「?」


 机の上で果実を持ったニクが首を傾げる。


 このリスはいつも僕らと一緒に行動を共にしているのにどんどん影が薄くなっている。

 何かしているのか? 何よりそのベストと言うかチョッキと言うか、知らぬ間に着こんでいる服は何だ? 僕は動物に服を着せるのは虐待の一種だと思う派だぞ?


「はい。こっちに来なさい」


 果実を皿に置いてニクが来た。

 よくよく服を確認すれば……術式がこれでもかと描かれている。こんな物を作るのは先生か悪魔だ。下手をすれば2人の合作と言う可能性もある。サラッと国宝級の魔道具を作る2人だからな。


「暑くないのか?」


 コクコクと頷いているから問題ない。

 暑くなったら言えば良い。きっとポーラが脱がしてくれる。ノイエにお願いしちゃダメだぞ? 下手したら毛皮ごと脱がして大変なことになる。

 具体的に聞きたいか? 人はそれを料理の下準備とも言う。


 ニクが震えだすと、果実を両脇に抱えて逃走して行った。


 これこれ。僕が1人だけになってしまうだろう?

 こうなると食堂で待機している女性給仕の人たちがジリジリと……迫りだすかと思ったら直立不動で待機している。何故だろう?


 と、甲冑を身にまとった中年を連れた人物がやって来た。

 老人だね。初老と呼ぶには無理があるかな? 結構なご年配の女性だ。


 年の割には確りと歩く老女は、僕の向かい側に移動すると勝手に座った。

 まあ席に着いた時点で何かあるかと思ったんだよね。昨日僕が座って居たのは、今老女が座って居た方だ。つまりは上座だ。で、今日は下座。その理由など簡単だろう。


「何か御用ですか?」


 全く……あの悪魔はトラブルメーカーか?




~あとがき~


 待機しているのにも理由があります。

 神聖国に着くなり戦争もあり得るからと…宝玉の回復を待っているのです。

 到着するまでに回復しそうですが、西部旅行を満喫しているとも言うw


 で、謎の老女が…




© 2022 甲斐八雲

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