お前の血は何色だ~!
大陸西部・サツキ村
ご覧ください。この部分です。
見えるでしょう? 見えますか? そうです。あれです。あれなのです。
夏の心霊特集的なアナウンスを心の中でしながら、僕は荷物に紛れていた存在に気づいた。
大八車的な物にサツキ村の特産品……主に和紙とかゴザとかそんな感じの物とかが山積みになっている。その隙間に黒髪が見えるのだ。ホラーだろう?
僕の視線に気づいたポーラの姿をした悪魔が移動して僕と黒髪の前に立った。
「この子は悪い子じゃないの!」
「……蟲は捨てて来なさい」
「いやっ! この子は大丈夫だから!」
何が? そもそも蟲じゃないしな。
諦めつつもため息を吐いて……荷物の間に手を入れて引っ張り出してみる。
村長の家で給仕をしていたスズネちゃんと言う女の子だ。おかっぱ頭が可愛らしい日本人形……市松人形だっけ? それっぽく見える人物だ。
「殺さないで~」
悪魔が変なことを言い出しスズネちゃんが恐怖で目を見開いた。
殺すわけがない。変なタイミングでコントを継続するな。
「つまり君はユニバンスに渡ってポーラの元でメイド道を極めたいと」
「はい」
元気に迷いなく返事をして来た。
スズネちゃんは幼いなりにも確りとメイドをしているポーラを見て感銘を受けたらしい。確かにポーラは仕事から何から真面目で正確だ。
もしメイドによるメイドの為の何かしらの大会があれば上位に食い込める実力者だろう。
えっ? 戦闘になると上位は難しい? またまた~。ポーラが強いって部分は色々と諦めて僕は受け入れているよ? それにユニバンスで開催した最強決定戦に君は参加しているしね。あれに出るぐらいの実力が……あれに出れたのは叔母様の推薦があったから? もしハルムント家で生き残りの代表決定戦にでも出ていたら早々に負けていたと?
あの国のメイドって何かおかしくない? 違うぞポーラ。褒めてはいない。
何故か沈んでしまった妹様から視線を放し、僕は今一度目の前の少女を見る。
まだ幼い女の子だ。こんな子を預かるのは……と悩んでいたら変態娘がやって来た。
「おい変態。お前ももう帰るんだからさっさと支度をしろ。荷物は大八車に乗せても良いが、お前がその車を引いて進むんだから重くすると辛くなるぞ?」
「でしたら荷物を倍ほどに!」
どうして自ら苦しい方へと突き進む?
「で、何か用?」
「はい。実はお母様からスズネのことを頼まれまして……」
「この子の?」
訳を聞くとスズネちゃんがとても強くユニバンス行きを希望しているとか。
もし叶えないと言うならジュウベイさんが放り込まれている枯れ井戸に煮立った油を流し込むと……なかなか具体的な脅迫に軽く引いた。
「それで一応私が身元引受人と言うことで連れて行こうかと」
「連れて行くって彼女の両親は?」
「はい。お母さんの方は了承しています。叔父様の方は」
ん?
「叔父さん?」
「はい。ああ言ってませんでしたね。スズネちゃんは叔父さん……ハチベイ叔父さんの娘です」
「ハチベイ?」
そんなうっかりさんな名前を僕がうっかり忘れることはない。つまり初めて聞いたのだ。間違いない。
「そのうっかりさんは何と?」
「……叔父さんは大反対していました」
だろうね。大体こういう時は母親が賛成して父親が反対するものだ。
「なのですが昨夜叔父さまは誰かの襲撃にあったらしく、首から下を氷漬けにされ、泣きながら命乞いをしているところで発見されました。何でも『認める。認めるから……もう拷問は嫌だ~』と叫んでいたとか」
「猿ぐつわも無しか。悪魔の所業だな」
はい。こっちを見なさいポーラさん。君の中に巣くっている悪魔は何と? なに? まだ私の出る幕ではないと……落ち着け暗黒の力よ? お前が振り絞って出せるのは豚足の力ぐらいだろう?
「その喧嘩買ったわ」
「掛かって来いや!」
突進して来た悪魔の頭を掴んで、その突撃を食い止める。
後はクルクルと腕を振り回す悪魔が飽きるのを待つのみだ。
「今日はこれぐらいで勘弁してあげる」
「変化の無い」
「何おう?」
軽く肩を竦めてからの~。
「成長の無い」
「喧嘩売ってるの?」
「無いのは胸だけでよろ~」
「……お前の血は何色だ~!」
殴りかかって来た悪魔の頭を掴んで……以下同分。
「まあ本人が行く気なら仕方ないが」
途中でウザくなったのでノイエを呼んでポーラと遊んでもらうことにした。
『お姉さまはズルい!』と悪魔が吠えていたが気にしない。
「で、スズネちゃんは本当にメイドに?」
「はい」
僕の前に来た彼女は深々と頭を下げる。
その姿が背負っている風呂敷袋に隠れてしまった。
彼女は風呂敷袋に荷物を入れて背負っているのだ。
芸術点は満点だぞ。僕はそのチャレンジングな精神は好きです。
「分かった。特別に許可しよう」
「ありがとう」
「ただし」
彼女の感謝の言葉を途中で止めさせる。
何故ならば彼女には重要な任務を与える予定だからだ。
「この変態娘をユニバンスに届けること。あと夫もね」
そう言えばアーネス君はどうした? 今朝も姿を見ていないのだが?
「それはアーネスさまもでしょうか?」
「そうだ」
「分かりました」
返事をしたスズネちゃんは大八車の荷物を色々と動かし一番底からミイラを……燃え尽きているアーネス君を発掘して来た。
「何故彼がここに?」
「はい。けさわたしがきたときにはもう」
「……」
様子からしてアーネス君は完全に燃え尽きている。
何があったのかは知らないし聞かない。あっちでこっちの様子を見ている大ベテランな女性たちが色々と寸評しているが気にしない。
『虐め甲斐があった』とか聞いて僕にどうしろと?
「アーネス君の世話もお願い」
「はい」
「で、その任務を無事にして……」
僕の説明を彼女は真剣に聞く。
真面目だ。悪魔が宿っていないポーラほど真面目だ。悪くない。
そうそう。僕が彼女に頼んだ雇用テストは、まず問題児夫婦を無事にユニバンスに送り届けることだ。あの2人を目を放すと直ぐに乳繰り合って……あれ? 僕のハートにブーメランが。
涙をこらえもう一つ依頼をする。
「君の先輩にあたるコロネの協力をすること」
荷物の中からペンと紙を取り出してサラサラと手紙をしたためる。
「これを持って行くと良い。向かう先はドラグナイト邸。道案内はあそこの変態がするから」
「お任せくださいアルグスタ様!」
ドンと胸を叩いてモミジさんが自信満々に返事を寄こした。
あの変態は自分が変態と呼ばれることに違和感を感じなくなってないか? まあ良いけどね。
「それがちゃんと出来たかを判断し、出来ているようならウチで雇う。もし出来ていないのならこの村に帰って貰う。それでも良い?」
「もんだいありません」
力強く頷いて来るから……まあ変態でなければ預かるけどね。
僕が書き上げた手紙はミネルバさん宛だ。現在ウチの屋敷の管理をしているのが彼女だからだ。
「ならそれをちゃんと持って荷物は車の上にでも」
「おもくなりますが」
問題無いよ。
全員揃っているし、何よりお別れの挨拶は今朝した。
それに悪魔が元気に儀式……準備を進めている。
「ならまずは移動しますかね」
行先は決まっている。大陸西部のゲート前だ。
「ノイエ~」
「はい」
フワリと歩いて来たノイエが僕の前に立つ。
普段とは違い少しだけ彼女には違和感がある。理由はっきりとしていた。
ノイエが左目に眼帯をしているからだ。
僕的には悪くないと思っている。ノイエも何気に気に入っている。
唯一の問題は周りからの評価が低いことだ。
当たり前だがノイエは素顔のままの方が可愛い。
「目は大丈夫?」
「はい」
笑顔で頷いて来るから平気だろう。
「さて。まずはゲートに戻ってだな」
そこから神聖国だ。
~あとがき~
ようやくサツキ村から撤収です。
お土産はスズネと言う少女。実はカミーラに村の若い者を挑ませていた叔父さんの娘でした。
次回からは神聖国へ向かうはず。たぶん
© 2022 甲斐八雲
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