とても程よい軟度のお胸様なのだよ!

 ユニバンス王国・王都内練兵場



 ハーフレンは辺りを見渡し感心した。


 最近だと、夕方に仕事を終えて戻って来た騎士たちなどが集う場所となっていた練兵場が、今回の会場に選ばれた。

 理由としては多くの貴族が集うこととなり、室内での開催が難しくなったからだ。


 広く安全な場所……確かにここなら直ぐにでも近衛兵が駆け付けられる。


「それにしても金を使っているな」


 呟きハーフレンは頭を掻いた。


 野外と言うことで埃っぽさを心配していたが、周囲を布や板で覆っている。軽く足元を爪先で叩けば硬さを感じた。強化魔法で埃が起きないように固めているのだろう。

 周りを覆うことで風が抜けなくなっているが、代わりに魔道具や魔法使いが配置されているのか涼やかな風が流れている。


「魔法使いは何人いる?」

「それを調べられる魔法使いがここには居ませんが?」

「そうなのか?」


 専属メイドであるフレアの答えにハーフレンは給仕が運んで来たワイングラスを手に取る。と、横合いからフレアの手が伸び掴んだグラスを攫って行く。

 迷うことなくひと口自分の口に運び……フレアは主人にグラスを手渡す。


「良い品ですよ」

「毒見は必要か?」

「相手が相手ですから」


 それなら先に口するフレアの方が危険な気がするが、それを制しても実行するのが彼女だ。昔から本当に何も変わらない。自分よりも相手を想う性格なのだ。


「魔道具も多く使われていますが、魔法使いの数はそんなに多くないと思います」

「理由は?」

「この国はどこも魔法使い不足ですから」

「確かにな」


 先の大戦で多くの魔法使いを失ったこの国は、現在魔法使いどころか基本的に人材不足である。

 若い者を率先して取り立てているが、経験不足もあって上手くいかない部署も多く存在している。


「魔法使いの育成は急務だな」

「ですがこればかりは」

「資質か」


 騎士などとは違い、魔法は『魔力』という資質が大きく関係して来る。

 昔から存在する話だと、この世界だと誰もが魔力を持っているということになっている。ただその量によって『魔法』を扱えるかどうかが決まるのだ。


 王家ではグローディアとアルグスタが魔法使いを名乗れるほどの魔力量を持っている。

 が、アルグスタは名乗れる程度の量しかなく、本当の魔法使いはグローディアだけだ。

 

 優れた血を多く取り込んでいる王家ですらそんな状態である。

 貴族だと一族に1人魔法使いが生じれば上出来な状況だ。多くの魔法使いを血族に持つクロストパージュ家は異常と言っても良い。


 引き換えに女系血統と言う呪いにも似た現象が生じているが。


「そう考えると、アルグがあれほどの魔法使いを抱えているのはやはり問題か?」

「はい」


 素直にフレアは頷く。


「ドラグナイト家の3人は、全員魔法使いですし何より魔女まで部下にしています」

「それに血みどろもか?」

「はい。ファシーはその行いが非道で有名ですが、魔法学院に所属していなかった在野の者としては抜けた魔力量の持ち主でしょう。

 もちろん魔法学院に所属していたシュシュなどもいます。彼女は評価されることを嫌っていましたが、師であるアイルローゼが言うには『間違いなく天才よ』とのことでした」

「つまり魔女になりえる逸材と?」

「はい」


 素直に頷き、テーブルに置かれている料理をフレアは皿に盛って行く。

 もちろん常に毒見を実施し、主人の口に毒が入らないように考慮する。


「グローディア様が抱えているカミーラは言うまでも無し。エウリンカなる者は詳しい話は伝わっていないのですが?」

「ああ。間違いなく天才の部類だとさ。魔法で魔剣が作り出せると言うふざけた存在だと」

「それが事実なら間違いなく『魔女』の認定を受けることでしょうね」


 料理を盛った皿を主に渡し、代わりにフレアはワイングラスを受け取る。

 自分たちに向け多くの視線が注がれているのを感じているが、どれも好奇心に満ちた目だ。


 今日の催しを楽しみにしているような……縁を切られた元父親が遠くで楽しそうに手を振っていた。その横に居る元母親も笑っていた。

 ちょっと行って蹴り飛ばしたくなる衝動を抑え、フレアは『自分はメイド。ただのメイド』と言い聞かせた。


「それにアルグスタ様はまだ人材を隠しているご様子ですし」

「本人が言うには『口止めされている』って言い訳だけどな」


 量よりも種類で盛られた皿を空にし、ハーフレンはメイドが持つグラスを受け取る。


「ジャルスにホリーなどがその一例か。レニーラも居たな」

「それを言うなら王女様も歌姫を」

「そうだな」


 クラスを一気に煽り空にしたハーフレンは、それを通りがかった給仕へ戻す。


「アイツらって本当に好き勝手しすぎてないか?」

「……ユニバンス王国の血を色濃く引いているのだと思います」

「おいフレア。その言葉の意味は?」

「ご自分の胸に手を当ててよくよく思い返してください」


 言われるがままにハーフレンは実行する。


「俺ほどおとなしい王家の者はそうは居ないな」

「……はぁ」


 深い深いため息をフレアは吐いて、通りがかった給仕からワイングラスを受け取った。


「毒見の量じゃないだろう?」


 メイドが空にしたグラスに目をやると、空にした本人は悪びれた様子もなく口を開く。


「何となく飲みたくなっただけです。お気になさらず」


 ワイングラスを新しい物にし、フレアはそれを毒見をしてから主人へと手渡した。


「ひと言だけ宜しいでしょうか?」

「何だ?」


 受け取ったグラスに口を付け、ハーフレンはメイドを見る。

 専属メイドは何処か疲れた雰囲気を漂わせていた。


「本日のアルグスタ様は誰を連れて来るのでしょうか?」

「事前の申し出だと家族全員とメイドだな」

「……本当に?」


 付き合いが長いフレアはそれを察しているのだろう。故にハーフレンもまた軽く肩を竦ませた。


「あれの行動を全て把握しているなら俺は善後策でこうも頭を悩ませないよ」

「……そうですね」


 想像外のことをしてくるのがアルグスタと言う人物だ。だからこそ周りの者たちは苦労を強いられる。

 と、フレアはざわつきに耳を傾け……その単語を何個か拾い上げた。


「どうやらそのドラグナイト家御一同がご到着の様子ですよ」

「そうか」


 言われハーフレンもまた視線を巡らせる。

 前王の元に居るブルーグ家当主にもその話が届いたのか、彼は居ずまいを正していた。


「今日はどんな娯楽を提供するんだろうな? あの馬鹿共は」

「……笑える話だと良いのですが」


 やはり弟との付き合いが長いせいか、フレアは良く理解していた。

 あれが大人しく終わるような性格では無いことをだ。




 うむうむ。出迎えご苦労。苦しゅうない。近こう寄ることを許すぞ?

 はて? どうして皆さん僕から離れていくのかな? 今、近づいて来てムーンウォークばりに後ずさって行ったのは、イールアムさんだよね? 今日は叔母様来てないの?


 何故か僕らが歩くと人が左右に割れていく。


 みんなおかしくない? 良く見ようよ? ほ~ら。今日のノイエは黒いドレスだよ?

 黒を選んだ理由は簡単。絶対に汚れるだろうからって判断して、最終選考に残っていたこのドレスにしました。


 メイドさんたちも頑張ったそうだが、最後の5枚で甲乙つけられなくなって殴り合いでの解決まで話が進んでいたそうだ。ミネルバさんが妥協案として僕に選ばせるまで……残りの4枚を支持していたメイドさんたちの復讐とか待ってないよね?


 それともあれか。ファナッテですか?


 こっちも凄いぞ。背中とかガバッと開いていて、どこのハリウッド系女優のレッドカーペットかと聞きたくなります。激しく動いたら胸とかこぼれ落ちそうで怖いでする

 何より抱き着いて来るファナッテの胸がこう……スライムのようで悪くない。決して垂れているとかそんな事実ではない。とても程よい軟度のお胸様なのだよ!


 そんな美人2人を両腕に纏わりつかせながら歩く僕って……成功者的に見えますかね?

 成金ではない。ノイエが居る限り、ドラゴンが居る限り我が家は安泰なのだ~!


 みんなで愉快に過ごす為にも、とりあえず今回の敵を退治するか。


 ブルーグ家の当主らしき爺もこっちに向かって来ているしな。




~あとがき~


 会場にてハーフレンは思う。

 アルグスタって自由だよなって…w


 到着したドラグナイト家御一同様。

 ファナッテの衣装は刻印さんの全力です! 激しく動くとこぼれます!




© 2022 甲斐八雲

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