強制開脚の刑
ユニバンス王国・王都王城内国王執務室
「おにーちゃんです~」
「温泉に行ったぐらいで成長はしないか」
「する訳ないです~。おにーちゃんは成長したです~?」
「僕は常に成長し続ける人間だからね」
「へ~です~」
人を小馬鹿にしたような態度を取るのでチビ姫を捕まえてその頬を引っ張る。
ぬはははは~。抵抗なんて無駄なことは止めるが良い。ここは誰も来ない2人だけの空間なのだよ。つまり現状、僕はこのダメな存在に躾をしたい放題と言うことだ。
「尻を出せ。気が済むまで叩いてくれる」
「人妻に対してその発言は変態です~。くたばれ変態です~」
チビ姫が情け容赦ない股間攻撃を。誰に学んだ? そこは大変危険なのだよ。
「暇だからって遊んでいるなよ」
「おにーちゃんがそれを言うです~?」
「ああ。僕は真面目だからね」
『このっこのっ』とチビ姫が股間を蹴ろうとしてくるので、その足を捕まえて……どうしよう?
「強制開脚の刑」
「のがぁ~! 裂けるです。裂けちゃうです~」
チビ姫もポーラばりに体の硬い子でした。
しばらく強制開脚をしてからチビ姫を解放する。
おいおい王妃? いくらここが人目に付かない場所だからって、そんな両手で股間を押さえて蹲る姿は情けなさすぎるぞ?
と言うかチビ姫との遊びもとりあえずここまで。
「おーい。チビ姫」
「今ならシュニット様からの寵愛を受け入れられそうな気がするです~」
「ニンジンかナスで代用しておきなさい」
何故か顔を真っ赤にしてチビ姫が殴りかかって来た。
言われて怒ると言うことは意味を知っているということだ。
つまり僕が悪い訳ではない。それをチビ姫に伝えた者が悪いのだ。
「で、たぶんバッセンとか言う爺が来たぞ?」
本題を忘れるなと言いたい。決して遊びに来たわけでもない
あの爺と陛下の会話を盗み聞きするために、僕はチビ姫が普段移動に使用している隠し通路に身を潜ませていた。潜んでいます。爺が来たからチビ姫の口も閉じます。
「もがぁ~」
「声を出すな気づかれるぞ?」
確りとチビ姫の口と鼻を押さえて……鼻が余計だったな。うっかりさん。
「死ぬかと思ったです~」
「お前は安易に死なないから心配するな」
「死ぬ時は誰でも死ぬです~」
プンスカ怒りながらチビ姫は砂時計のような形をした魔道具を取り出した。
「おにーちゃん。魔力は任せたです~」
「僕の魔力量は人並みなんだけどね」
受け取り魔力を流すと、爺と陛下の声が良く聞こえて来た。
集音の魔道具らしい。これをチビ姫が持っている理由は……話し合いが終わったらとっ捕まえて躾を実行しようと思います。情けや容赦などは母親のお腹の中に忘れて来た。
王都王城内・アルグスタ執務室
「つまらない話だったです~」
「内容で言うとそうだな」
ソファーでケーキを注文しているチビ姫をスルーし、僕も自分の席でメニューを眺める。
ずっと狭い場所に居てつまらない話を聞かされた結果……無駄に疲れた。疲れた時は甘い物に限る。
「クレア~」
「何ですか?」
メニューを眺めて気づいた。メニューを見てもどれが良い感じで甘いケーキなのかは謎である。
「今日は甘めのケーキが食べたい気分。という訳で君のおすすめを1つ」
「適当に頼みますから怒らないでくださいよ」
「僕はそんなことで怒るほど心の狭い男じゃありません」
最悪甘すぎる場合は紅茶を渋くして飲み込めば良いだけのことです。
ケーキの注文はクレアに一任して、僕は爺と陛下との会話の内容を思い出した。
今回の一件でブルーグ家は自分たちは加害者では無くて被害者だと言い張っている。王都から自領地に来た馬鹿貴族たちが中心となって勝手にしたことなんだってさ。
ただ陛下も事前に色々と情報を集めていたらしく、その馬鹿貴族たちの中心的な人物としてブルーグ家の長兄パットンの存在を口にする。するとバッセンは待っていましたと言いたげに、パットンと馬鹿な貴族たちは責任を取らせたということで首ちょんぱしたと言い出す始末。
馬鹿兄貴が事前に言っていた通りの結末でした。
「面白くないぞ~。チビ姫~」
「私に言うなーで。おにーちゃんが面白くすれば良いのです~」
「ふと疑問に感じたのだが……やっちゃっていいのか?」
僕の問いに部屋に居る全員の手が止まった。
「おにーちゃん」
「ほい?」
「まだ何かするです?」
代表してチビ姫が質問して来る。
クレアよ……どうして君は頭を抱えている? ポーラさん。突然包丁を研ぎに出そうとしないで。
「これ」
小さな小瓶を取り出してチビ姫に向かい放り投げる。
放物線を描いて無事にチビ姫の薄い胸に激突した瓶は、そのまま床に落ちようとして慌てて彼女が両手で掴んだ。
「危ないです~。割れるところだったです~」
「危ないね~」
うん。危ない。
「これって何です~?」
「毒の息吹のファナッテが作った最新式の対人用の猛毒」
瓶の封を切ろうとしていたチビ姫が、そのまま凍り付いた。
ウチのおチビさんたちは……全員でアイコンタクトを交わし、チビ姫を見捨てることで意見は一致している感じだ。迷うことなく逃げる準備は整っている。
「まあ偽物だけどね」
「「「……」」」
三者三様のリアクションが帰って来た。
一番酷いのは瓶を持つチビ姫だ。
「よくも騙したな~です~」
手にする瓶を振りかざして突進して来た。
「と言ってからの実は本物」
「「「……」」」
またチビ姫が見捨てられ、瓶を持つ彼女がオロオロし始める。
「まあぶっちゃけただの媚薬なんだけどね」
「おにーちゃんに私からの贈り物です~」
瓶を届けに来たチビ姫はそれを押し付けて逃走……逃がさん。
「放せ~です。貞操の危機を感じるです~」
「そうかそうか。だったら強制的に大人の階段を昇らせてやる!」
「いや~です~」
瓶の封を切って飲み口をチビ姫の口に。
中身を全て口に含んだチビ姫は、僕の手から逃れると泣き崩れるように床の上に崩れ落ちた。
「穢れてしまったです~」
「まあただの蜂蜜なんだけどね」
「騙したです~!」
憤慨して立ち上がったチビ姫が、また膝から崩れて床の上にペタンと座った。
頬が上気して……その顔を真っ赤にする。
「と言うのも冗談で、蜂蜜は放置しておくとお酒になると聞いて実験で作った蜂蜜酒なんだけどね」
「ふな~です~」
骨抜きになったチビ姫が床の上でゴロンとなる。
「らめです~。あついです~」
何故か服を脱ぎ出そうとするので、待機しているメイドさんに目を向けそのまま運んで貰った。
注文したケーキは届いたらチビ姫の所に届けてやろう。
「アルグスタ様」
「何でしょう?」
チビ姫遊びを終えた僕にクレアが声をかけて来た。
「結局何がしたいんですか?」
「ふむ。簡単な実験かな?」
とても簡単な実験です。
「君たちは今、僕が『中身はファナッテの毒』と言ったら不安に駆られた。それはどうしてでしょうか?」
「アルグスタ様ならそれぐらい準備しそうだからです」
はい。正解。
というか本気になれば本物の毒も準備できるんだけどね。
「僕に近しいクレアたちですらそう思うのなら……近しいから思うのか? まあ良い。これを第三者が受け取ったらどうすると思う?」
「検査するか、そのまま手を出さないでしまい込むかですか?」
「大正解」
クレアはこう見えて決して馬鹿ではない。たまにお漏らしするけどね。
「中身は何でも良いのよ。僕がそれを『毒』と言ってブルーグ家に送りつけたらどう思う?」
「……飲んで当主は自決しろと?」
「不正解です」
というかどんな発想かと。
僕はそこまで鬼では無いが、僕の見えない場所でそんな風に終わらせることも無い。
仕留めるなら確実にやる。一応ミジュリの復讐にも手を貸すと約束したしね。
「だから中身は何でも良いのよ」
これが重要。
「嫌がらせって相手の思い込みだけでも成立するんだから」
ブルーグ家はファナッテに毒を作らせた過去がある。
故にその名を出されて自称毒物が送り込まれたら……怖いだろうな。本当に。
~あとがき~
バッセンは急ぎ陛下との謁見を申し出てそれをシュニットは応じる。
で、主人公たちはそれを盗み聞きって…良いのか? これが主人公で?
アルグスタが瓶に詰めていたのは本当にただの蜂蜜だった物です。
良い感じにあれしてこれして蜂蜜酒になっていますが…蜂蜜って媚薬の材料だと誰かが言ってたな?
うん。気のせいw
© 2022 甲斐八雲
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