性癖の赴くままに襲ったと
「こっちの方に来るのは久しぶりだね」
「だぞ~」
「どうして?」
高い場所を求めて歩くのは女性たちが居る。
2人は肌の露出の多い服を着て、もう1人は何故かメイド服だ。
そんな組み合わせの3人が歩いていた。
「基本人が居ないんだよね。来るとしても散歩がてら歩いている人ぐらいで」
「だぞ~」
「ふ~ん」
レニーラとシュシュの言葉にリグは足を止めて指し示す。
「死体が転がっているけど?」
「だね」
「だぞ~」
何も知りませんと言いたげに2人は視線を逸らす。
死んでいるのはアイラーンだ。何があったのかは知らないが、確かに死んでいる。
そっと傍らに膝を着いてリグは確認した。
「今死んだみたいに暖かい」
「それって蘇生間近ってこと?」
「死んだ~ばかり~かも~だぞ~?」
「どっちとも言えないよ。ここだと」
魔眼の中は、検死をする者泣かせの場所である。
いつ死んだのか分からないし、何より放置しておけば蘇生する。
よって死後何日が経過したなど分からない。せめてバラバラだったりすればある程度予測は出来るが。
「死因は?」
「……分からない」
何かしらの理由があって死んだはずだが、その理由は謎だ。
傷の類も蘇生中に治ってしまうので確認することが出来ない。
本当にこの場所は医者泣かせであり、医者を喜ばせる場所でもある。
「出来たらグチャッとした死体の方が好きなんだけどな」
その呟きにあとの2人が遠ざかりわざとらしく抱き合った。
「聞きましたシュシュさん。リグさんが恐ろしいことを!」
「ええ聞きました。アイルローゼと関わるとグチャッとかドロッが好きになるみたいですよ!」
「……」
確かにアイルローゼが作る死体は勉強になるので助かる。
腐海で液体と化した肉体が再構築されていく過程は秀逸だ。
ずっと見ていられるし、色々と勉強にもなる。
「遊んでないで奥に……なふっ」
間の抜けた声を上げたリグが床を転がった。
「ほ~い」
それを見たシュシュが軽い掛け声で魔法を放つ。
リグの首が絞められる前に自身の魔法で防御した。
ギリギリ間に合ったのか、リグは死んではいないが拘束されて身動きが出来ない。
身動きは出来ないのだが……レニーラとシュシュは黙って近寄り観察した。
転がったはずのリグだが、最初間違いなく弾んだのだ。それから何度も弾んだのだ。
原因は拘束により大きさが強調された彼女の大きな存在だ。
本当に大きくてクッションの役割まで果たしたらしい。
「良く分からないけど殺意を覚えた」
「だぞ~」
「むふっ!」
拘束が顔にまで施され口を塞がれているリグが、ジタバタと暴れる。
と、リグを観察する2人に魔法が飛んできたが……レニーラは回避し、シュシュは自分の魔法で相殺した。適当な感じで投げつけられた魔法など、この2人には通じない。
通じるのはリグのような非戦闘系の者ぐらいだ。
「この魔法って?」
「ミャンだね」
あっさりと回避した2人は、姿を見せない相手に警戒をしつつリグの頭と足を持って運び始めた。
「くひは~!」
「煩いよリグ。首は折れても繋がるから」
「だぞ~」
そんな魔眼特有の理論を振りかざされ、リグは折れてしまいそうな首の痛みに耐え続ける。
「居た」
「だぞ~」
直進すること暫し、レニーラたちはついにそれを見つけ……目を点にした。
「あは~。このきめ細やかな肌が、肌が~」
寝ている女性に対して全力で頬擦りをするミャン……レニーラは先頭を行くシュシュがリグの頭部を持つ手を放すのを見た。だから自分もリグの足を持つ手を放した。
「くふっ! ……ひうっ!」
最初は後頭部。次いで全身と……床に体を打ちつけたリグが苦痛の声を上げて沈黙した。
頭部の落下する角度が悪かったから、首をやってしまったのかもしれない。ただ骨折ぐらいなら3日もあれば完治するはずだ。経験者であるレニーラはそれを知っているので深く考えない。
「……ミャン?」
「この胸が……はっ!」
親友であり幼馴染に声をかけられたことに気づいたミャンは……ゆっくりと顔を上げ、体を起こす。全裸にしていた相手に服を着せ、自分も服を着てから座り直して軽く咳払いをした。
「どうかしたの? シュシュ?」
「……」
流石に色々と誤魔化せる空気ではない。
何よりミャンの行動中……ずっと考え込んでいたシュシュは、冷静になっていた。と言うか冷めきっていた。
「別にミャンさんの性癖にどうこう言う気は無いんだけど……」
「さん付け! それに普通の口調!」
「私としては無抵抗の人を襲うのは人としてどうかなって思うの。こんな人気の無い場所で」
「努めて冷静に無視されて諭された!」
激しく床を叩きミャンは涙する。
元々は彼女が、シュシュが悪いのだ。
自分がずっと愛して来たというのに外に男を作って……挙句に結婚したとか。許せない。
「全部シュシュが悪いのよ!」
「責任転換?」
「違う!」
立ち上がりミャンは吠える。
「私はずっとシュシュのことが大好きだったのに……それなのに外に男を作って!」
「私もミャンのことは好きだよ」
「……えっ? 本当に」
幼馴染の言葉にミャンは笑顔となった。
「うん。好きだったよ」
「過去形!」
再度の絶望を知って崩れ落ち、激しく床を叩く。
「どうしてよ! 私はずっとシュシュのことが好きで好きで一生2人で暮らしていけたらって!」
「うん。無理」
「即答! どうして!」
「だって私はミャンのことを友達って……何より普通に男の人の方が好きだし」
「異常よ! あれのどこが良いのよ!」
泣き叫び指を向けて来る幼馴染に対し、シュシュは顔を真っ赤にして頬に手を当てた。
「……凄く優しくて私のことを……これ以上は恥ずかしくて言えない」
「言えないようなことをしているのね~!」
「ミャンだってついさっきまで他人に見せられないようなことを?」
「気のせいよ!」
「無理があるから」
至極まっとうな指摘にミャンは挫けない。
「あれは肌が傷ついていないか確認を!」
「頬擦りで?」
「あれはより肌の近くで観察するために!」
「全裸にして?」
「隈なく確認するために!」
「全裸になって?」
「……」
「足を絡めて股間を、」
「もう言わないで~!」
淡々と指摘して来るシュシュに対し、ミャンは負けを認めた。
そもそも勝てるわけがない。圧倒的に負けた状態で始まっていたのだから。
「何でよ~! 私が何をしたというのよ~!」
「人に見せられないようなこと?」
「見せられるわよ! 何なら私の気が済むまでここで実演してあげるわ!」
「うん。無理」
「そんなバッサリと!」
何だかんだでじゃれている幼馴染たちを横目に、レニーラは横たわっている人物に近づいた。
「ん~。……あっ! ノイエのお姉さんだ」
顔を見つめてようやく思い出した。
ミャンに襲われていた人物は間違いなくノイエの実の姉であった。
「何でどうしてノイエのお姉さんが?」
「……預かったのよ」
「誰に?」
取っ組み合いの喧嘩に発展していたミャンとシュシュは、手を止め顔を向けて来る。
「刻印の魔女よ」
「あ~。あれか~」
ならば納得だ。あの魔女なせ不可能は無い。
けれどどうして寝ているのか……そっとレニーラは横たわっているノイエの姉の胸の上に手を置いた。
「生きてる?」
「たぶんね」
シュシュとのじゃれ合いを止め、ミャンは壁に背中を預けて足を伸ばすようにして座った。
「ずっと寝ているのよ。ただ魔女が言うには私たちとは違って、ずっと寝ていると床擦れが発生するから時折体勢を変えてって」
「へ~」
興味を覚えレニーラは相手に手を伸ばし抱きかかえてみた。
確かに温もりもあって暖かい。けれどそれだけだ。人形でも抱きかかえているような気がしてくる。
「無反応だ」
「そうよ。だから私は反応を求めて」
「性癖の赴くままに襲ったと」
「シュシュ~!」
「大丈夫ミャン。罪は償えるのだから」
「シュシュ~!」
「あっでも性癖は治らないって彼が」
「この喧嘩買った~!」
「なぁ~」
ミャンに抱き着かれたシュシュが……本当に仲の良い2人を無視しレニーラは抱えていた相手を床に下ろした。
「何でこんな時に医者が死んでるのよ」
拘束されたままで死んでいるリグに目を向け……レニーラは深く息を吐いた。
~あとがき~
魔眼の中を逃走中の3人は…あまり人の来ない場所にやってました。
何故かそこには死にたてほやほやのアイラーンの死体を発見。
死因は謎ですが、検死をしていたリグが攻撃を。
攻撃から犯人はミャンらしく…そして遂にミャンの秘密が!
© 2022 甲斐八雲
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