お風呂に入ってからよ。馬鹿

 ユニバンス王国・王都王城内国王私室



「お呼びでしょうか? 陛下?」

「アルグスタよ……」

「はい?」


 キルイーツ先生にしばらくリリアンナさんを押し付けることに成功してから登城した僕は、クレアの『大至急国王陛下の元に行ってください!』と言う言葉を受け、お茶して急ぎの書類を処理してからお兄様の元へ来た。

 終始クレアが頭を抱えて激しくスイングしていたがそんな気分だっだのだろう。


「こっちに来るが良い」

「はい?」


 呼ばれたから近寄ると、陛下が額に手を当てた。


「アルグスタよ」

「はい」

「私は何だ?」

「お兄さんで国王ですね」

「……分かっているんだな?」

「はい?」


 ちょっと何言ってるか分かりません。


「少しは言葉に気を付けろ」

「あ~はい」


 メイドさんしか居なかったからついね。


「で、お呼びだと伺ったんですけど?」

「……」


 眉間を揉みだしたお兄様から深いため息が。


「先日の件だ」

「どれでしょう?」

「お前が連れて来た女性だ」


 ドンと陛下が机を叩いた。

 若干お兄様が苛立ったご様子です。


「キルイーツ先生に預けた女性ですね。怪我が酷いのでしばらくは動かせそうにありませんが」


 先生が言うには本当にボロボロらしい。

 一番の問題は栄養不足だとか。だったら『良い物を食わせろ』とナーファに宝石を1つ握らせておいた。自分の手の中の物を確認した時のナーファの笑顔はとても光り輝いていた。

 前回の先払いとは違い小粒な物だったのにそれでも良かったらしい。

 とても現金な医者見習いである。


「その報告は受けている」

「では?」

「……お前が拾って来た人物だ。保護するなら自分で手続きをするが良い」

「勝手にして良いと?」

「構わん。お前ほどの地位を持っていれば好きに登録も出来よう。ちゃんと手続きを踏むが良い」

「了解しました」


 というか“亡命”の手続きではなく、普通に登録と言っているので難民扱いにしろってことか。

 予定通りにお兄様は聞かなかったとにするらしい。そうするとまた何か余計なことを企みそうだから、今日もお兄様が大好きな弟としては新しい爆弾をプレゼントしよう。


「陛下」

「……何だ?」


 揉み手をしながら陛下に近づくと、露骨にお兄様が嫌な顔をした。


「実はご相談がありまして」

「……」

「決して悪い話ではありません。場合によっては我が国の国力が増すかもしれないお話です」

「……書面にして」

「それだとこちらで勝手に動くことになりますが?」

「……」


 心底嫌そうな顔をして陛下が僕を見る。


「事後報告で良ければ書面で」

「分かった」


 諦めて陛下が深いため息を吐いた。


「何だ」


 覚悟を決めた陛下にプレゼントを。


「実は帝都に点在する魔道具の大多数を保護して来たのですが」

「……」


 陛下の目が点になった。


「今、何と言った?」

「ですから保護しました」

「何を?」

「帝都に存在する魔道具を」

「……誰が?」

「一応僕たちですね」

「…………何処にある?」

「ノイエが持ってます。異世界魔法の間違った使い方をして」


 お兄様が両手で顔を覆った。

 泣いているとかそんな訳ではない。感じとしては絶望かな?


「……アルグスタよ」

「はい」

「……お前は私に何か恨みでもあるのか?」

「特には無いです。むしろ感謝してます」

「……そうか」


 深い深いため息の後、僕は退出を命じられたので自分の執務室へと逃げ帰ることとした。




 真面目に仕事をして帰宅する。

 最近は色々な決まりを無視してノイエがお城まで来るので一緒に帰宅する。

 僕がこの世界に来た頃のノイエの王都上空を飛び交う移動禁止令とか懐かしい。


 軽い足取りで兵を飛び越えて来たノイエが僕にキスしてから辺りを見渡す。


「お姉ちゃんは?」

「ノイエが悪い子だから帰りました」

「!」


 お~。アホ毛が奇麗な『!』になったよ。

 そしてノイエがアワアワと慌てだす。


「ごめんなさい」

「うむ。ならば許す」

「お姉ちゃん、帰って来る?」

「きっと帰って来るよ」

「良かった」


 機嫌を良くしたノイエが甘えて来た。

 良し良しと頭を撫でてから馬車に乗り家路につく。




 ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸



「ねえ馬鹿」

「はい」

「どうしてノイエがこんなに甘えて来るのかしら?」

「……ノイエはお姉ちゃん好きですから」


 ノイエに抱き着かれているアイルローゼが疲れた表情を浮かべている。


 帰宅した僕らを偶然アイルローゼが出迎える形になった。

 するとノイエが甘えだして抱き着いた。もう剥がれない。全力のハグだ。


「先生が今日一緒にお城まで行ってくれなかったから拗ねているんじゃないですか?」

「……私もやることがあるのよ」

「その言い訳はノイエにしてください」


 先生の正面から抱き着いているノイエが、アイルローゼの小さな胸に顔を押し付けている。

 小さいとは知っているがちょっと羨ましく思うのは何故だろう? 大きかろうか小さかろうがそこに胸がある限り男は羨ましいに違いない。


「先生」

「何よ?」

「ノイエが離れたら僕が同じことをしても良いですか?」

「なっ」


 見る見る先生の顔が赤くなっていく。


「ダメに決まっているでしょう」


 残念。


 プンスコ怒る先生が僕に背を向けた。


「……お風呂に入ってからよ。馬鹿」


 あっ何か可愛いかも。




「言ったの?」

「はい」

「どうして?」

「えっ?」


 食事とお風呂を済ませて寝室に来た僕らは、各々好きな場所で寛ぐ。

 先生はソファーで横になり彼女の腰にノイエがしがみ付いたままだ。おかげで僕はパフパフが出来ないままだ。


 本日の報告がてら雑談をしていたら先生が怒り出した。


「だって問題になる前に対処しないとでしょう?」

「……言わなければ気づかれないでしょう?」

「小さなものならそうですけど、大型の物は無理でしょう?」

「はぁ? 認めなければ大丈夫よ」


 何その暴論。


「バレますから」

「その時は私が作ったと言ってご聞かせば良いのよ」

「無理ですって」

「無理じゃない」


 立ち上がった先生が僕の居る方へと迫って来る。

 現在僕はベッドで横になっているので……ノイエさん。そんな器用に腰に抱き着いたまま歩いてこないで。何そのケンタウロススタイルは?


「黙っていれば総取りできたのに」

「本音はそれか!」

「当たりまえでしょう!」


 ベッドの上に来た先生が膝立ちして迫って来る。

 ノイエは……その下半身の器用さがちょっと怖いです。


「あれほどの一品を全て得られるのよ!」

「お~い」

「それをこの馬鹿弟子は」


 お怒りの先生が聞き手を振り上げ僕の頬を叩こうとしたが、腰に抱き着いているノイエが邪魔をする。アイルローゼを抱えもって先生の手が僕の頭の上を通過した。


「ノイエ!」

「ダメ」

「でも!」

「好きな人を叩くのはダメ」

「だからって!」


 ノイエに抱え持たれた先生がジタバタと暴れる。


「ダメ」


 しかしノイエは聞く耳を持っていない。


「お姉ちゃんの胸の奥がギュッてなるからダメ」

「……」

「だからダメ」

「……分かった。だから降ろして」

「はい」


 そっと降ろされたアイルローゼが息を吐く。


「馬鹿弟子」

「はい」

「相談も無しに勝手にしたことの罰をするから前進」


 ノイエの説得は? 名言は?


 睨まれたので自ら進んで前進する。

 先ほどは叩くために振るわれた先生の手が、僕の頬に優しく触れた。


「全部の罪なんて私に押し付ければ良いの。術式の魔女は強欲なんだから」

「それは無理ですって」

「どうして?」

「だって先生は優しすぎて不器用なだけの女性ですから」

「私は優しくなんて」

「お姉ちゃんは優しい」

「……」

「妹がそう言ってますよ?」

「知らない。この馬鹿夫婦」

「むぅ」


 怒ったノイエが先生をベッドに押し倒した。


「ちょっとノイエ?」

「罰はお姉ちゃん」

「えっ?」

「アルグ様」

「はい?」


 ノイエが僕を見る。


「お姉ちゃんに罰って……どうしたら良い?」


 ほほう。それを僕に聞きますか?


「だったらノイエ。僕の言う通りに」

「はい」

「ちょっとノイエ? 止めなさい。どこに……ノイエ~!」


 ノイエの罰に先生が絶叫した。




~あとがき~


 最近自然とツンデレが書けるようになったのはアイルが原因か?


 次なる爆弾をお兄様にプレゼントしたアルグスタですが…嫌がらせの領域だなw

 そしてその事実に先生はご立腹です。


 本当にアイルローゼは不器用で…どんどん残念になって行く…




© 2022 甲斐八雲

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